第60話・ヒルドの執事
俺の名前はゴンザレス、あの『森ガエル』らしきカエルの強烈な一撃を喰らい、気付いたら、俺が今までに一度も経験した事の無い程の『真っ白くて綺麗な部屋』で目覚めた。
「俺の知らない天井だ・・・」
「お主は何を言っておのるじゃ?」
「えっ?・・・」
俺の独り言に返事が有るとは思っても無かったから、その声の主を確認しようとして、体が全く動かない事に気付いた。
視線だけで声の主を確認しようとしたら、その声の主が俺の顔を覗き込んで、
「お主の体は、ペコの一撃で全身の骨にヒビが入っててのう。
おまけに、ムツハが言うには、お主の脳味噌が、お主の身体に動けと命令を出している脳幹と言う場所に、深刻な障害が出ておって、そのせいでお主の全身を駆け巡っている神経に上手く命令が届かずにおってのう。
そのせいで、お主は、お主自身の身体が上手く扱えなく成っとるらしいぞ! ムツハが言うには『以前に、頭か?首にでも強い衝撃を受けたのでは?』と言っておったが、お主は何か心当たりでも有るかのう?」
「物凄い衝撃?・・・」
「ああ、このペコの一撃よりも強い衝撃だったハズだとムツハは言っておったが?」
「ああ・・・ もう4ヶ月以上も前の話しだが、とあるキャラバン隊の護衛依頼を受けた時に、中型竜サイズのワイバーン(50m未満級)の襲撃を受けて、その際にワイバーンが振り回した尾の一撃で吹っ飛ばされた事が有るな・・・ 確かに言われてみれば、それ以来、俺の身体は手足に痺れが出て満足には動かなくなった気もする・・・」
「いやお主、痺れて満足に動かない『気がする』って・・・ お主、ハイポーションを飲んで直すとか?ヒーリング魔法が使える魔法使いに頼んで治療するとか考えなんだのか?」
「そんなに金の掛かる事は俺には無理だ・・・」
「そうか? 妾が見た感じだと、お主は高ランクの冒険者じゃろう?」
「依頼の失敗が続いている今の俺が、高ランク冒険者だと言えるか?は、俺も分からないが、一応はBランク冒険者だ、まあ今回の事で資格はく奪間違いは無いだろうが・・・」
「ああ、お主の事だが、お主は妾が買い取った!」
「はぁ~? 嬢ちゃんが俺を買い取った?」
「ああ、今回お主は犯罪者奴隷として、鉱山都市に送られる予定じゃったが、妾がお主のペナルティー分の罰則金を支払って『借金奴隷』として買ったのじゃ♪」
「いや、いきなり買ったと言われても・・・」
「不服か?」
「いや、正直な話し、自由に動かない体で鉱山での重労働をする事を考えると・・・」
「まあそうじゃろうのう。
そして、お主の身体の事じゃが、妾がムツハに頼んでお主の身体を治療してやる事とした。
じゃから、その分も含めるとお主は死ぬまで妾の奴隷じゃ、まあ死ぬまで扱き使ってやるから楽しみにしとれ、まあ今は寝て治療を受けろ・・・(*`艸´)ウシシシ」と笑う幼女と、その幼女が抱えるカエルの気の毒そうな顔を見ていると、突然の眠気に襲われて、俺は意識を飛ばしてしまった。
後々思い起こしてみると、あの時の会話が俺・・・
いえ、ブリュンヒルドお嬢様の忠実な『執事のゴン』としての私ゴンザレスと、お嬢様との最初の出会いだったかも知れません。
まあその後、ムツハ様が保有されている不思議な科学技術と言う治療を受ける事と成った私は、その治療用ポッドと呼ばれる機械?と言う物から起き上がって直ぐに、お嬢様から、
「起きたかゴンザレス・・・ うむ、ゴンザレスはちと呼び辛いのう。
妾は、今日からお主の事はゴンと呼ぶ事にしよう。
してゴンよ! 何をそんなに呆けた面をしておるのじゃ?」
「いや、色々と俺が置かれた状況が理解出来なくてなあ・・・?」
「何が理解出来んのじゃ?」
「先ず、俺の目の前に居るお嬢さんの事だが、お嬢さんは俺の事を知っている様な素振りだが、俺はお嬢さんとは初対面だよな?」
「何を言っているのじゃ? 妾はブリュンヒルドじゃ、お主が誘拐しようとしたヒルドちゃんじゃ♪(*`艸´)ウシシシ」
「えっ!? じゃあ俺は、お嬢ちゃんがこんな立派なレディーに成長するまでもの間、ここで眠り続けていたのか?・・・」
「(*`艸´)ウシシシ・・・ 何を言っておるのじゃゴン、お主が眠っておったのは三日程かのう?」
「へっ!? 三日?・・・」
「ああ、三日じゃ(*`艸´)ウシシシ」
「でも嬢ちゃんの姿が・・・」
「ああ、妾のこの姿の事か? ほれ、これならどうじゃ?」とお嬢様が言うと、お嬢様の姿が黒い靄の様な物に包まれて、その靄が晴れると、あのヒルドちゃんの姿がそこには有った。
しかも、それまでベッドの横の床で大人しくしていたペコを抱き上げると、ゴンザレス・・・ いやヒルドに強制的に改名させられたゴンに向かって、真っ白い歯を見せながらニッコリと笑って見せた。
それはもう悪戯が大成功して大満足している笑顔だったと言う。(*`艸´)ウシシシ
その後、私はガウンの様な物から着替えさせられて、
「じゃあ旦那様にゴンを紹介しに行くのじゃ♪ ゴンよ、妾の後に付いて参れ♪(=゜ω゜)ノ」と意気揚々と病室を出るお嬢様の後に付いて、北方辺境伯であるジーンサイザー様の執務室を訪れる事と成ったのだが、当時の私が、
「貴族、それもアルバ王国の王族と面会するなんて・・・ 」と言って緊張していると、
「ゴンよ! 今から妾の旦那様に会いに行くからと言って、何もそんなに緊張する事はないぞ♪ 第一、旦那様自身が形式ばった貴族言葉は苦手じゃからのう♪ 気楽に行け、気楽にのう♪」と終始笑顔で北方辺境伯の執務室の前まで行って『旦那様、妾じゃ♪』と声を掛けると、北方辺境伯の執務室のドアが内側から音も無く開き、執務室の中へと案内された。
「えっ!? 私をブリュンヒルド様の護衛兵士としてでは無く、執事としてですか? しかし、私は体を動かす事しか能が無くて、到底、ブリュンヒルド様の執事として務まるとは?・・・」
「ああその辺は心配はして無いよ! ゴンザレスにはしっかりと時間を掛けてうちの方法で英才教育を受けて貰うから♪」と、お嬢様と同じ悪い笑顔で迎え入れられた後、私はジン様の亜空間なる場所で、文字通り執事の業務に関する事柄全般に対してのスパルタ式教育を、日数にして約3年間、びっちりと教育を受けさせられましたが、私がブラストの街に戻ってみると、僅か30日程度しか経過していなかった様で、その成果に関してジン様は大いに喜ばれ、私の後も大勢の犠牲者・・・
いえ、ジン様のお館及び、ジン様が統括管理されている広大な領地等での文官や執政官として就労を希望している大勢の方々を、短期間で教育する場として、活用されたと聞き及んでいます。
まあ、かくいう私も、執事としてお仕えした後年は、度々、講師として訪れる事は有りましたが、その都度研修場の建物が建て替えられて居たり、風景が全く変わっていたりと、多々驚かせられる事はありましたが・・・・
あの日以降、私はセバス様配下の執事としてジン様にお仕えし、又、私が人種の姿を捨てて千年あまり・・・
今も尚、お嬢様の執事としてペコ殿と一緒に御側にてお仕えさせて頂いております。




