第53話・プリシラの祖父母が現れる
その日、僕は朝っぱらから突然面会を申し込まれた初老の獣人の男性に、襟首を持って持ち上げられていた。
彼の名前はボンドネルと言い、僕が保護して治療を施している最中のプリシラと言う名前の少女の、祖父で在った。
彼と彼の奥さんの身元に関しては、彼自身が以前にこのブラストの街の理事会の議長を務めていた事と、フロトの理事会の方でも理事長職も長年勤めていた事で、アルバ王国に居るジェス兄さんに問い合わせたら一発で身元確認が済んだのは良かったが、僕が執務室として使用している部屋に入って来たかと思ったら、大きな机越しに、
「儂の可愛い孫娘を何処に隠した~!」と言って、ぶっとい腕で襟首を掴まれて持ち上げられてしまったのだ、
「あなた! 突然、初対面の方に何て事をするのですかッ! 第一、その方は直接現場に行ってシーラを救出して下さった方だと聞き及んでいますし、あなたに宙ぶらりんにされても冷静に対応して下さっていますよ! あなたも一度落ち着いて下さい!」と言って、彼女は手に持っていたレースで飾り付けされた扇子で、彼、ボンドネルの後頭部が陥没するのでは無いか?と、こちらが心配に成る程に激しい一撃を、自分の亭主の後頭部に叩き込んでいた。
「お初にお目に掛かりますジーンサイザー・フォン・アルバトロス様。
私、このブラストの街にて商家を商んで居りましたボンドネルの妻エルザベーテと申します。
以後、お見知り置きの程、宜しくお願い申し上げます。」と言って、多分だが、前もって渡されていた資料を見た限りだと、彼女の年齢はボンドネルと同じ年だったと記憶していたが、目の前の彼女は、その報告に有った年齢よりもかなり若く見えた。
「いや、こちらこそよろしく頼むよ!」
うん、相手が僕のフルネームで名前を呼んだ以上、僕もそれなりの対応をしないとね!
「お初にお目に掛かるジーンサイザー・フォン・アルバトロス殿下、
私は、家督は愚息に引き継いだが、このブラストの街で商家を商んで居りました。
レオーネ族のボンドネルと申す。
今回、ジェスター・フォン・アルバトロス殿下から、殿下が、我が孫娘を山賊共の魔窟から救い出して頂いたばかりでは無く、傷の治療まで施して頂いたと聞き及んでおります。
殿下の慈悲に、誠に感謝しております。」と言って深々と頭を下げて来たが、最初の出会い頭に僕を宙ぶらりんに釣り上げた事は、無かった事にする気満々の様だ、
しかし、流石! 獣人族の中でも特に最強だと言われているレオーネ族、奥さんからの強烈な一撃を後頭部に受けたにも関わらず、何事も無かった様に復活してスルーしただと!
まあ今回だけは、その見事な復活ぶりに免じて、宙ぶらりんにされた事は忘れてあげよう♪(=゜ω゜)ノ
「余の所には、・・・・ 私は、正直な所、堅苦しい話し方は余り好きでは無いんで、普段道りの喋り方で話させて貰おうと思うが、如何かなボンドネル夫妻?」
「はい、殿下がそれで宜しいと言われるのならば、私には否はございません。」
「はい、私も夫と同様に、殿下。」
「では改めて、私の事はジンと呼んでくれれば良いからね♪」
「では、私どもは『ジン様』と呼ばせて頂きます。」
「ああ、了承した。」
こんな時には特に、王族の立場って本当~~~に!面倒・・・(´;ω;`)
まあ話を戻そう。
「先ず先に、今回、あの豚賊一家が引き起こした事件に依って、ボンドネル夫妻のご子息夫婦が命を落としてしまった事、アルバ王国の王族の一員として、また、ジーンサイザー・フォン・アルバトロス個人として、誠にお悔やみ申し上げると共に、故人夫婦のかの地での幸福を、この世界の主神にお祈り申す。」と、本当は最愛の息子と息子の嫁を亡くした事に、深く心が傷付き悲しんでいるハズのボンドネル夫婦に対して、ご子息夫婦に対してのお悔やみの言葉を贈ると共に、主神に対してはご子息夫妻の魂の安寧をお願いの言葉を先に述べさせて貰い、本題に入る事にしたが、
それが悪かった様で、全身を筋肉の鎧で固めた2m越えの巨漢が、僕が執務室として使っている部屋で、大声を挙げて大号泣し始めてしまったのだ、その横では妻のエルザベーテさんも夫の腕に縋りついて、声を隠して嗚咽している。
流石の僕も悪い事をしたと思い、しばし執務室として使用していた部屋を空け、ボンドネル夫妻の二人だけにする事にした。
少しの間、隣室でセバスに入れて貰ったお茶を飲みなから、色々な資料に目を通していると、執務室として使用していた部屋に残して来た二人も落ち着きを取り戻した様子だったので、二人をプリシラが収容されている病室に案内して、プリシラが置かれている現状を説明したのだが、ここでもまたボンドネルが怒り狂って暴れ出した。
まあ今回は、ボンドネルが怒り狂って暴れ出す気持ちは理解出来るから、彼には好きな様に暴れて貰っていたが、それを止めたのは、これまでボンドネルに対してプリシラの容態と病状を説明していたムツハだった。
最初は、プリシラが横に成っている病室と、今、ボンドネル夫妻が立っている部屋を仕切って隔離している特殊硬質ガラスの壁を隔てて、ムツハがボンドネル夫妻にプリシラの現状と、今後の治療方法を説明して、その話をボンドネルも自身も大人しく聞いていた。
ボンドネルはムツハから説明を聞きながら、その大きな目に一杯に涙を溜めて大人しく説明を聞いており、時折りプリシラが横に成っているベッドに向かって、優しい声を掛けていたが、
プリシラが負ってしまった傷に関する説明と、救出された時点での状態の姿を画像で見せながら、二人に対してムツハが説明し始めると、最初は歯を食いしばり、拳を固く握って我慢していたボンドネルが、やはり我慢しきれなかった様で、プリシラを抱きしめて慰めたくなってどうしようもなくなってしまい、強引にプリシラが寝ている病室に侵入しようとしたが、特殊硬質ガラスの壁に侵入を阻まれた。
最初は、その特殊硬質ガラスの壁を殴ったり蹴ったりして破壊を試みたが、流石は宇宙空間で戦闘しながら負傷者を治療する目的で建造された病院船の艦内設備、例え隣の部屋で銃撃戦が始まろうとも、治療中の患者には一切の被害が及ばない様に、強固な守りで固められていた。
ハズであったが!
ボンドネルの両手から伸びた爪が、特殊硬質ガラスの壁を一閃、また一閃すると、何と三度目の正直と言えば良いのか? ボンドネルの爪が特殊硬質ガラスの壁に三度目の一撃を入れた瞬間、信じられない事に、特殊硬質ガラスの壁にしっかりと爪の跡が残り亀裂が入ってしまった。
そして、その亀裂を確認したボンドネルが特殊硬質ガラスの壁を思いっきり殴り飛ばそうとした瞬間、ボンドネルはムツハに依って鎮圧されて気絶していた。
決まり手は、瞬間的に6000Vの電流を流し込む事で、獰猛な猛獣おも簡単に鎮圧すると言われている電磁パラライザーを、ムツハがボンドネルの頸椎に差し込んで、作動させたからだった。
この電磁パラライザーと言う代物、僕が居た前世の世界でも暴動の鎮圧などで良く使われてはいたが、この世界に来て初めて対人鎮圧目的で使用された瞬間を見たが、
「ああコレって、この世界の猛獣もに効果が有るんだ!」と、純粋に感動してしまった。
ああ因みに、ボンドネル夫人のエリザベーテさんは、ムツハにしっかりと許可を取ってプリシラが居る病室に入り、優しくプリシラの頭を撫でながら優しく言葉を掛けていました。
追伸・ムツハの艦内で使用している特殊硬質ガラスの壁を、こちらの世界の住人である獣人族、しかも獣人族の中では最強種であるレオーネ族のボンドネルに、僅か三回の攻撃で破壊されそうに成った事が、余程ショックだったのか? ムツハは、一時期『次は最低でも五回は耐えて見せる!』などと訳の分からない事を言いながら、工作艦であるヒチハの工房に籠って、新しい特殊硬質ガラスの壁を作る事に熱中したらしい。




