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 第52話・閉ざされたプリシラの心

 


 その少女は、このブラストの街を纏めている5家の商家の中の、とある一軒の商家の孫娘として生まれ、少女が10歳を過ぎた辺りで、家の家長としての役割が祖父ボンドネルから、父アスネルへと代替わりしており、少女は、12歳と成った年に、貿易都市国家フロトの首都メトに在る『魔法学院・商業魔法戦略科』に入学して、魔法学園の寮で生活をしながら学園生活を送っていた。


 この商業魔法戦略科とは、魔法を商売の一部に利用できないか?と言う発想の下で創設された。


 何とも貿易都市国家フロトらしい発想で創設された学科で、専攻している学生はもっぱら裕福な商家の子供達ばかりで、魔法に関する授業に加えて、商業に関する基礎知識も同時に学べる学科で有った。



 フロトの首都であるメトから北西部に位置する貿易中継都市として、古くから栄えて来た街ブラストでも、その少女の実家で在る商家の歴史は古く、少女が祖父のボンドネルから伝え聞いた話しだと、フロトが貿易都市国家として誕生する以前から、ブラストは小さな国家の首都として既に存在しており、少女の実家である商家は、既にその時代から商人の家計として存続して来た名家として、ブラストの街のみならず、フロト国内でも特に有力な商家の一つに挙げられる事も有る家だった。


 さらに少女が産まれるまで、祖父であるボンドネルがフロトの理事会の理事を務めており、理事長職も長年勤めていた事も大きい、特に少女の家系は獣人族の家系で、その中でもレオーネ族と呼ばれるライオン系獣人の一族で、祖父も立派な(たてがみ)を持っており、少女はその祖父の鬣に顔を埋めて甘えるのが特に好きだった。


 この少女の名前は『プリシラ』と言い、家族からは、まだ少女が幼かった頃、自分の名前であるプリシラの()()の部分を上手に発音する事が出来ずに、自分の事を表現する際に『シラ』と呼んでいたのが『シーラ』となり、それ以降、家族や親しい人達には『シーラ』と呼ばれ続けている。




 そして今回、フロトの首都であるメトの魔法学園で寮生活を送っていたプリシラが、何故?ブラストの街近くの旧坑道跡地で山賊達に囚われる様な事態と成っていたか?と言うと、


 祖父ボンドネルは、可愛い孫娘であるプリシラが魔法学園に入学するのを機に、フロトの首都メトで理事及び理事長職を長年務めていた際に使っていた別宅に夫婦で移り住んでいたのだが、


 今回、貿易都市国家フロトの現理事や現理事長達が暴走して、大国である隣国のアルバ王国に喧嘩を売ってしまった結果、


 フロトの貿易都市国家としての自主自治権は剥奪されずに済んだものの、完全にアルバ王国の属国と成り下がってしまっただけでは無く、首都メトにアルバ王国の軍の進軍が有るかもしれないと言うデマが流れ、一時期メトの治安が悪化した。


 その際、アルバ王国に対して一部後ろめたい過去の有る悪党達が、アルバ王国の追求から逃れる為の逃亡資金を得ようとして、学園の生徒達を攫っては身代金を要求する事件が多発したのだが、学園に入学した新入生達は、全員が最初の一年間は寮で集団生活する事が義務付けされており、学園の上級生達に比べると誘拐されるリスクは少なかったのだが、


 やはり数人の新入生が誘拐される事態が発生した為、元フロト理事会会長であるボンドネルの孫娘で在ると言う事も有り、学園の理事的関係者から、


「今、メトの学園で生活しているよりも地元のブラストの街に一時的にでも帰省していた方が、お孫さんの安全を考えると良い様な気がします。」と進言され、祖父であるボンドネルがプリシラをブラストの街に一時帰省させる事を決めたのだった。


 その結果、タイミングが悪かったのか? プリシラの両親は、この男の魔の手から可愛い愛娘を逃そうとして失敗し、夫婦揃って惨殺された挙句に、可愛い愛娘は山賊達に囚われの身と成ってしまう事に・・・






 少女は、あの日、山賊達の襲撃に会い、あの豚一族の次男の前に引きずり出されて、全裸にされ辱めを受けた際に、舌を噛み切って死のうとしたが、嚙み千切った自分の舌に残った傷跡に、(あつ)(ねっ)した鉄の塊を押し付けられて止血され、尚も豚の次男からの辱めは続いた。


 少女が泣き叫んで抵抗すればするほど、豚の次男は喜んで少女を辱めた。


 少女が逃げようとしたら、両足を切断され、また傷口に(あつ)(ねっ)した鉄の塊を押し付けられて止血された。


 少女が、這って逃げようとしたら、両腕を切断され、また傷口に(あつ)(ねっ)した鉄の塊を押し付けられて止血された。


 その度に少女が泣き叫び悲鳴を挙げると、豚の次男は嫌らしい笑い方をして喜んで、また少女を辱めた。


 少女が豚の次男の言葉を無視したら、そんな耳はいらないだろうと言われて、レオーネ族特有のライオンの耳を千切り取られてしまった。


 少女が悔しくて悔しくて、涙目で豚の次男を睨んだら、生意気な目だと言われて・・・・


 その時、少女は一切の痛覚と一緒に、一切の感情をも捨ててしまっていた。




 何故なら、自分が一切の反応を示さなければ、この豚の一族の次男も、自分を辱め様が無いだろうと思ったからだ、そして、






 少女が壊れるのに、三日と掛からなかった。



 それから少女が救出されるまで、毎日の様に豚の次男から辱めを受けたが、少女は何も感じる事はなかった。






 ジンが、少女の治療を担当していたムツハに呼び出された時には、少女の全身に残っていた傷は、ナノマシンを使った人体再生治療で綺麗に消えていた。


 まだ10歳程度と推測されていた少女に対して、ハイポーションやハイヒーリング魔法を使った治療は、体に負担がかかり過ぎて、逆に少女の命を奪いかねないと判断されたからだ、今回、ジン達に救出された大人達も、ハイポーションやハイヒーリング魔法を使った治療では無く、欠損した手足の治療には、ナノマシンを使った疑似肉体再生治療が選ばれた。


 その理由としては、余りにも体の欠損比率が多くて、ハイポーションやハイヒーリング魔法を使った治療をするには、自身の残っている肉体の量が少なすぎた事、


 ハイポーションやハイヒーリング魔法を使った治療では、完治するまでに最低でも3年、長いと5年程度は治療期間が必要になってしまう事だった。



 山賊達のに囚われて居た4人の男性陣に関しては、治療を受けた後に数日間の療養期間を必要とした以外は、割と早い段階で我々の事情聴取を受けれる程には回復する事はできたが、5人の20歳前後だと思われる女性陣が真面(まとも)に話が出来る様に成るまでには、さらに倍の日数を要した。



 そして、一番問題だったのが、10歳程度に見えるレオーネ族と呼ばれるライオン系獣人の少女だった。


 この少女の傷は癒えたものの、彼女の『感情』と言うか?『心』と言うか? 人として一番肝心な部分であり、一番大切な所の反応が一切無いのだ、



「ムツハ、この少女の容態は?」


「はい、ジン指令、彼女の容態に関してなのですが、外傷に関する傷は全てナノマシンでの治療を終え、欠損していた手足及び舌と眼球、そして、この世界の獣人族特有の耳も、全てナノマシンに依る疑似肉体再生治療にて、治療は終えていますが、彼女の精神のみが未だに回復の兆しすら見えない状況です。」


「う~ん・・・ この少女の身元は判明しているの?」


「はい、彼女の名前はプリシラと言います。

 このブラストの街に存在する商家の一人娘の様です。」


「家族には、この少女の事は連絡済なの?」


「彼女の家族に関しては、先日の男が起こした騒ぎの中で、男の手によって殺害されている事が判明しております。」


「じゃあこの少女は、身寄りが無いって事なの?」


「いえ、彼女の祖父母が、メトの街で存命中です。」


「祖父母には?」


「はい、既に連絡済です。」


「了解した・・・ この少女、プリシラと言ったかな? プリシラの意識と言うか? 『心』を取り戻してあげる方法は?」


「彼女の場合、兵士が余りにも過酷な戦闘を経験して、その経験が心に深く残り、心的傷を負った場合の症例と酷似してます。

 先ず彼女の場合、指令も彼女を見て分かる様に、彼女の両目も両耳も完治していますが、彼女の瞳には指令の姿は映っては居ても、彼女の脳と言うか? プリシラの心には、指令の姿は届いては居ませんし、プリシラの耳は指令の声を拾っては居ても、プリシラの心には指令の声は届いては居ません。」






 僕は、このムツハの説明を聞いて、物凄く痛ましくて悲しく成ると同時に、自分の心の底に何か黒い物が蠢いている気がして、余計に悲しくなった。



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