第5話・私を見舞いに来た従兄弟が病室で激怒・・・ でも黒竜が王都上空に現れてそれどころではなくなった
間が良いのか悪いのか? ジェス兄さんからドドルフの悪行三昧の行為の数々を聞いている最中に、当の本人であるドドルフが、私が居る病室へ見るからにガラの悪そうな冒険者達を数人引き連れて乱入して来た。
「邪魔するぜ!」と、ガラの悪い冒険者風の男が私が居る病室のドアを乱暴に開け放つ一瞬前、何か?を察知したジェス兄さんが指をパチンと鳴らしたのと、病室のドアが乱暴に開け放たれたのは同時だった。
「おう!先客が居たのか? まあ俺達には先客が居ようがどうだろうと関係は無いけどな! ただお前はドドルフ坊ちゃんの話に黙って頷きさえすれば良い、まあコレは俺が親切心で言っているだけなのだが、俺の親切心を無駄にすると碌な事が起きないと思うがな!」と病室内を見回し、一度、私のベッドの横に静かに佇む王都での平均的な一般市民らしき格好をした女性を、頭の先から爪先まで卑下した嫌らしい視線で舐め回した後、私の顔にその凶悪犯面を近付けてそう言った。
「まあ待て待て君、そんなに君の怖い顔を彼に近づけて話し掛けたら、彼がビビってしまって出来る話も出来なくなってしまうじゃないかい。」
「はいドドルフ坊ちゃん、私が先走って勝手に喋ってしまってすみません。」と言いながら、凶悪犯面した冒険者風の男は一歩下がってドドルフに場所を譲った。
「それで、君に話しと言うのはね~ 」と言いながらドドルフが後ろに控える暗い顔で目付きが悪い男の方を振り返ると、その男は何か呪文をボソボソと呟くと、ドドルフに向かってコクンと小さく頷きかえした。
「さて、これで私達の話を聞かれる心配は無くなった様だから、まどろっこしい話はせずにストレートに聞くが、お前は何処から見ていた?」
「・・・ 」
「どうした? 俺様が怖くて返事も真面に出来ないのか? 」
「早くドドルフ坊ちゃんの質問に答えた方が、お前自身の身の為だぞ、良く考えて答えろよ! これは俺達の為ではなく、お前の為に親切心で言っているんだからな~! 」
「?・・・ 」
尚も、私が無言で『こいつは何を言っているんだ?』ってな感じで、首を傾げてドドルフの顔を見ていると、再度ドドルフは『お前はあの日、何処から見ていたんだ!?』と、こいつは瞬間湯沸かし器か?って勢いで顔を真っ赤にして私に食って掛かって来た。
「何処から見てたかって? あの地下30階層に在った部屋の入口?」
「いやいや! 俺が聞きたいのは! 俺が何か?した所だ! 」
「ああ・・・ ハイハイ!もしかして、貴方が何か魔石の様な物を投げると、突然ハイオークが出現して、そのハイオークに吹っ飛ばされた瞬間の事? あんなに自信満々にハイオークに向かって行った挙句に、ハイオークの一撃にも耐えられずに吹っ飛ばされた重戦士なんて、あれは恥ずかしいよね、挙句に、直ぐに割って入った剣士がバーサーカー状態に突入したと思ったら、数撃の攻撃でハイオークを討伐してしまうんだもん、驚いた!驚いた! しかし、あの銀髪の彼女のバーサーカー状態を解除には梃子摺った!梃子摺った! 多分、足を挫いたか?どうか?だけの誰かさんが、私が女性魔法使いに預けてたハイポーションを勝手に飲んでしまって、サッサとその場から逃げ出したお陰で、ご覧の通り私はこの様だ! 今も王都に住む従兄弟夫婦に、入院中の治療費とハイポーションを買う為のお金の工面をお願いしていた所だったんだが、もしかしてその時のハイポーションの代金を支払いに来てくれたのかな?」
実は、ドドルフがあの場所で何かした瞬間なんて見て無かったんだけど、あの日、ドドルフがあの場所で何をしたのか?どんな状況だったのか?に関しては、冒険者ギルドにてあの若い剣士達にはしっかりと事情聴取をしており、知り得た当時の状況をジェス兄さんからつい先程聞いたばかりだったので、軽い嫌がらせのつもりでドドルフを煽って見たのだが、
「貴様! 黙って聞いていると、坊ちゃんに好き勝手言いやがって!」と、ドドルフが連れて来た二人の冒険者風の男たちが腰からナイフを引き抜いたが、
「ダメだ! その小僧を鑑定して驚いたが、その小僧はレベル41だ・・・ レベル30代の俺達だと簡単に制圧されてしまう・・・ 」と暗い顔した目付きの悪い男が、気の短そうな仲間の短慮な行動を諌める。
「そこの魔法使いさん、勝手に鑑定魔法で調べた上に、その情報を他人にバラさないでくれるかな? で、どうなの? ハイポーションと入院費を支払いに来てくれたんじゃないの?」と更にドドルフを煽ってみると、
「ハイポーションの代金だ!」と言ってドドルフは、腰に下げた革袋の中から金貨を4枚ほど取り出すと、ベッドの上に投げて寄越して来た。
金貨4枚分の価値とは、分かり易く言うと約400万円相当のお金である。
「まあそれだけの金をポンと出したのには、それだけの理由がある。 なあお前、俺のクラウンに入らないか? 俺のクラウンに入ったら毎月金貨で5枚、無論、俺から依頼する仕事を受けてくれたらその都度に金貨で最低でも更に2枚は支払う。 どうだ?良い仕事だと思わないか?」
「やけにあっさりと手のひらを裏返して来たけど?・・・ 」
「いや、俺も馬鹿じゃねぇのよ! この前の連中は失敗したが、結果的にお前さんが後片付けをしてくれた。 で、思ったのさ! お前さんとなら上手くやれそうな気がするのさ、それに、そこに居るのはお前の従兄弟夫婦か?見るからに金なんて持って無さそうな従兄弟に金の無心をするぐらいなら、金を持っている俺の部下になったほうが、旨い酒も飯も、良い女も、食べたい放題飲み放題だぜ!」と、ドドルフが先ほどとは打って変わって気持ちが悪くなるほどの猫撫で声で私に話しかけて来た。
まあ『毎日、日中は悪質な冒険者クラウンへの対応に追われ、夜は夜でゆっくりと夕食を楽しむ間も無く、寝る暇も惜しんで深夜遅くまで収集した情報の精査に勤しみ、日々王都の安全の為に頑張って働いているジェス兄さんが、少しでも楽になるのならば!』と、ドドルフの誘いに乗るか?どうしようか?と悩む振りをしながら、神様に解放して貰ったスキルの中に何か便利なスキルが無いか?とドドルフと話しをしながら脳内でスキルツリーを検索してみると、有りました!空間魔法系スキル『誘導』ってスキルが!
このスキル本来の使い方は、同じフィールド内に居る対象に対して、その対象の意識や行動を自分が任意する方向へ誘導する為のスキルなのだが、このスキルでドドルフの意識を誘導して地下30階層で何をしていたのか?とか、ドドルフのクラウンの活動目的は何なのか?と話を振ってみると、出るわ出るわの出血大サービス!
ドドルフのクラウンの規模は、所属団員が約30人規模の中小規模だとの事、クラウン単位では冒険者ギルドで斡旋している依頼は余り受ける事は無い事、主に貴族絡みの研究所からの依頼がメインな事、その研究所からの依頼報酬が破格に良い事、またドドルフの父親が経営している大ドルフ商会からは潤沢な活動資金や装備が提供される環境にある事、そしてドドルフはとんでもない事を話し始めた。
ドドルフが話した事が事実ならば、この王国は他国から真綿で首を絞めるかの様に、じわじわとゆっくりと侵略され続けている事となる。
そして、現在の王国国内の経済、政治、軍事状況を鑑みるに、多分、それは事実なのだろう。
ジェスの頭の中で思考が加速し、バラバラだったパズルのピースが嵌まり始めると、近年アルバ王国で起こっている事件や、国内の貴族達の政治的な対立、そして経済的な問題に対して要因的な繋がりが見えて来て、ジェスの疑心が確信へと変わり、あの国の確信的侵略行為が明確に浮き彫りになって来て、ここ迄気付く事が出来なかった自分自身に怒りを覚えてしまい、病室であるにも関わらず思わず、
『そんなバカな事が有ってたまるか〜〜〜!』と激しい怒りに我を忘れて、ドドルフに対して怒鳴りそうになった瞬間、王都中にけたたましい爆音で緊急事態を報せる緊急警報が鳴り響き、王都に12ケ所存在する教会の鐘が王宮魔道士の風魔法に寄ってスピーカーの役割を果たすかの如く、王国宰相の言葉を伝え始めた。
「第一級非常事態である! 繰り返す! 第一級非常事態である! 全ての王都住民に言明する! 現在、超神災級ドラゴンが王都に向かって一直線に飛来して来ておる!直ちに王都住民は・・・ 」
それ以上王国宰相の言葉は続かなかった。
既に巨大な黒竜が、王都の街並みに巨大な影を落としながら、金色の瞳で眼下の街並みを睥睨していたからだ、