第47話・ジンの王族としての遠征
今、ジンの目の前でブラストの街を治めている領主からの使者だと言う男が、跪いて頭を垂れていた。
「さて使者殿、今回の主様へのご用件とは?」と、使者を案内して来た『soldier/Ⅸ』が、ジンの代わりに使者へと話し掛ける。
「この軍勢の旗印から、アルバ王国の軍勢かと思われますが、何用でこのブラストに向けての進行なのでしょうか?」
「余が、使者殿に用向きを説明せねば分からぬのか?」
「はい、失礼ですが私にはアルバ王国の軍勢が進行して来る意味は分かりかねます。」
「では明日の早朝、陽が昇る頃に、このブラストの領主だと自称している男と、その男の長男、そしてこのブラストの衛兵の隊長、冒険者ギルドのギルドマスター、そして、この街に潜んでいる元Aランク冒険者で『虎頭のザンギエフ』とやらを、余の前に出頭させろ。
それともう一つ、万が一、日が出た後に1時間が経過しても、今、余が言った5人が余の前に現れなかった場合、余はブラストの街へと向かって余の軍勢を引き連れて進行し、あの街を占拠した後、改めて5人を地獄の果てだろうと探し出すと伝えておけ話しは以上だ!」と言って使者として訪れていた男を街に追い返した。
無論、セバスの子機達を、使者として訪れていた男の衣服に付着させて潜ませておいての事だ、この男自身が本当に『ブラストの街を治めている領主からの使者』と言うのなら、間違いなくブラストの街の領主を気取っている男に会って、今の会話を『領主』とやらに報告するのは分かっている事だ、その後は芋づる式で目的の人物達に子機達を張り付かせて行く算段なのだ、
ジンは今にも沈みそうな夕陽を背にして、今しがたジンの下を去った使者が、広大な草原の中に伸びる一本道の街道を、ブラストの街へと向かって馬を走らせている後ろ姿を小高い場所から見下ろしていた。
そして、まるで使者を追うかの様に真っ白い霧が草原を覆い始めていた。
街にたどり着いた男は、そのままブラストの領主だと自称している男の所に戻ると、ジンに言われた事をそのまま男には伝えたが、
「何が『明日の早朝、陽が昇る頃に出頭せよ』だ! このブラストの街の支配者である俺様をバカにしやがって! しかも出頭して来なければ街に向かって軍勢を進行させるだと! おいお前! この事を俺の長男に直接会って話して来い!」とそのまま男の執務室を追い出されてしまった。
そんな対応をされたにも関わらず、使者役を務めた男は律儀にも男の長男の所に行き、先ほどと同じ話を男の長男にした後、冒険者ギルドに出向いてギルドマスターにも話した。
そして、その話しを聞いたギルドマスターは、ブラストの街の衛兵隊長と虎頭のザンギにもそれぞれ人を送って知らせていた。
ブラストの領主だと自称している男とその長男、そしてザンギが取った行動は一緒だった。
三人は、ジンから出頭勧告を受けていたにも関わらず、ジン達が陣取っている小高い場が見える南門とは別の反対側の北門を使い、夜陰に紛れてブラストの街から逃走していた。
特に、このブラストの街でザンギと名乗っていた男は、
「アルバからこの街まで逃げて来ておいて、今更、自分から出頭して捕まるバカが居るかよ! 俺はさっさとトンズラさせて貰うぜ!」と、ブラストの街に潜伏していた元アルバ王国所属のAランク冒険者で、指名手配中だった『虎頭のザンギエフ』は、自称『領主』の男とその長男の護衛役を買って出ると、二人を連れて北門から逃走したが、別に二人を助けるのが目的では無く、二人が持ち出そうとしている金と貴金属類が目的だけの事だったが、そんな夜陰に紛れて逃亡する者達を、白く濃い霧だけが見守っていたが、当の三人は全く気にもせず、逆に自分達の姿が霧に紛れて発見され難いと喜んでいる様だった。
翌朝、ジンの前に大人しく出頭しては来たのは、ブラストの街の冒険者ギルドのギルドマスターと、街の衛兵隊長の二人だったらしいが、その後、彼ら二人の姿を見た街の者は誰も居なかったと言う。
「セバス、そろそろか?」
「はい、ジン様、もう間もなくジン様が指定していた刻限かと思われます。」
「そうか・・・ では、これよりブラストに向かって進軍を開始する!」
「はっ! 3騎の『soldier/Ⅸ』を奥様達の護衛として残し、それ以外の全『soldier / Ⅹ』及び『soldier / Ⅷ』は、ブラストの街に向けて進軍せよ!」とのセバスの号令で、それまで彫像の様に身動き一つしなかったsoldier達が、一斉に動き始める。
soldier達が、草原の横幅一杯に広がり一斉に進軍し始めた光景は、ブラストの街に住む住人達には恐怖以外の何物で無く、前日の夜から街の南門を守っていた衛兵達は到頭来たかと言う思いで、soldier達が進軍して来るのを何も出来ずに見ていただけで、誰一人、ブラストの街に進軍して来たsoldier達を足止めしようとする衛兵は居なかった。
ブラストの街の住人達からは、抵抗らしい抵抗が全く無かった事も有り、太陽が真上に上がる頃には実質的に街の実権をジンが握っており、街の治安や防衛に関する事はセバスに任せて掌握させ、街の様々な運営に関わる事は、昨夜のショックから既に立ち直っていたポプラが、シオンの姉達の力を借りて掌握してしまっていた。
無論の事だが、ブラストの街をジンがアルバ王国の軍旗を掲げて占拠する事は、既にアルバ王国の国王である祖父には報告済であり、逆に、祖父に自称領主の男の事を相談した際に、
「実はのうジン、今のフロトで問題視されておる事案が、今、ジンから聞いた話しと良く似ておってのう。
各地域を管理統括しておった管理者達が、勝手に領主を名乗り、勝手に自分達が定めた額の税金を徴収し始めたり、勝手に法を歪曲して定めたりと、好き勝手な事をし始める者が多くてのう。
儂らも散々話し合って来たが、フロトを属国扱いするのを辞めて、いっその事、アルバ王国に吸収してしまおうと言う話しが出て来ておってのう。
ちょうど良い機会じゃ、ジンよ! 既にお前の固有スキルである『thousand swords』を使って、大量の兵士達をそのブラストとか言う街の直前まで進軍しておるのであろう? その方が儂の名代である『ジーンサイザー・フォン・アルバトロス』として一時期で良いから、そのブラストとやらと言う街を統治してみよ!」と、祖父であるアルバ王国の国王直々に勅命が下っていたからだった。
そして、ジンが率いていた軍勢の先頭を行っていた3騎の『soldier/Ⅸ』が掲げていた軍旗は、アルバ王国を示す旗と、アルバ王国の正規軍で有る事を示す旗、そして、アルバ王国の王族が軍を率いて遠征して来ている事を示している旗だったのだ、だからブラストの街の衛兵達は一切の抵抗が出来なかったし、その逆に、軍勢の先頭を行く3騎の『soldier/Ⅸ』が掲げていた軍旗を見たブラストの街の住人達は、これでやっと『あの男』から解放されると喜んでジンが率いる軍勢を受け入れていたのだった。
この、ジンがブラストの街へと進軍して、わずか半日で街を掌握してしまったと言う事実は、かなりの驚きを持って旧貿易都市国家フロト全土に知れわたる事と成った。
しかも、その影響でフロト国内で自由に好き勝手な事をし始めていた者達は、次は自分の所に例の軍勢が突然押し寄せて来るのではないのか? しかもあの大群が押し寄せて来る前日まで、誰も軍勢の存在に気付いて無かったと言うでは無いか! などと話しが飛び交わされている様で、明日は我が身か?と思って居る悪人達は軒並み身を処して大人しく成ったと言う話しだった。




