第46話・ブラストの街に向けて
結果的に1万5千体もの『soldier / Ⅹ』がジンの固有スキル『thousand swords』で出て来たのだが、何が千の剣なんだろうか? 『thousand swords』で呼び出した『soldier/Ⅹ』が、1万5千体も出て来ている上に、『soldier/Ⅹ』が軽装歩兵と呼ばれる物なら、その『soldier/Ⅹ』よりもフルメタルアーマーの装甲自体が重厚な鎧となり、剣だけを装備していた『soldier/Ⅹ』とは違い、左手には小型の盾を装備して、右手には長槍を携えた兵士達が、今も尚ジンの固有スキルである『thousand swords』の青白く輝く魔法陣の中からゾロゾロと湧いて出て来ている。
そして、その兵士達の額には『soldier / Ⅷ』と刻印されており、soldier達が『ザッ!ザッ!ザッ!』と規則正しく腹に響く軍靴の音を立てながら進行している姿は、まるで、何処かの国の軍隊が他国を侵略するかの様な光景だった。
しかもジン本人は、シオンの姉だと言っていたSDF-01号さん達に、山賊達に囚われて居た人達を、自分達が引き連れて来たキャラバン隊が居る場所まで搬送して欲しい事と、セバスが間一髪で助けて来てくれたポプラとラムネの介抱を頼み、シオン宛の伝言も頼んだ上で、セバスのナノマシンで自分が騎乗するスレイプニルを作らせると、周りをセバスと10体の『soldier/Ⅸ』に守らせて、ジン自身も、その行軍に加わってブラストを目指して軍馬の歩みを進めた。
その軍隊が軍行している異様な様は、朝早くから街道を往来している者達には驚きを持って見守られていた。
その『異様な様』だと言われる理由の一つに、軍行している集団の先頭は、3騎のデュラハン達が右手に軍旗を掲げて先導している事、次に、その軍旗の2つに付いてはアルバ王国の旗だと確認する事が出来る事、そして、これだけの規模の軍の行進だと言うのに、この軍団がこの街道のこの場所に現れるまで、誰も知らなかったと言う事、そして、その軍行の最後尾には、数十台編成のキャラバン隊が付き従っており、その中の馬車数台には、手足を拘束された山賊達が乗せられて居た事だった。
今、この時を迎えるまで、その男は幸せだった。
過去、このブラストを管理運営していたのは、五つの商家の家長達だったが、貿易都市国家フロトがアルバ王国を経済侵略しようとしていた事がバレて、最高理事会が解散させられた直後の混乱を利用して、先ずは一番厄介な商家の家長が首都メトへ行った帰りに、街道でブラストでも評判の悪い冒険者達を利用して襲わせて暗殺した。
次に目障りな商家の家長は、その家の使用人を金で買収して、家族の食事に毒を混入させて家族全員を殺してやった。
その次の商家の家長は、例の評判の悪い冒険者達が『仕事は無いか?』と聞いて来たので、家族を誘拐させて身代金を請求して呼び出し、買収していた衛兵を利用して誘拐した家族と一緒に埋めてやった。
最後の商家の家長は流石にその男の悪行には気付いた様だったが、今年で22歳となる長男の嫁に寄越せと言ったら、『今年で10歳に成ったばかりの可愛い一人娘を、女、特に若い女を痛めつけて喜ぶ性癖の有るお前の息子になぞに渡せるか!』と言って、その一人娘を首都メトの親戚に託そうとしてブラストの街から逃がしたので、代わりにその家長と家長の嫁を冒険者達に捕らえさせて長男に与えたら、長男は怒り狂ってその家長夫婦を鞭で一晩じゅう叩き責めたら、翌朝には動かなくなっていたそうだ、しかも、その家長夫婦の可愛い一人娘も、次男が頭をしている山賊達が街道の途中で捕らえたと聞いている。
そしてその男は、ブラストの街で一番高い場所に建つ建物で、元は五つの商家の家長達が集まってブラストの自治に関する会合を開く場所であり、古い時代にはこの辺一帯を治めていた人物の城だった建物を、自分の屋敷とし、その執務室で前日の売上金の計算するのが好きで、その男にとっては至福の時間だった。
その執務室のドアをノックする音を聞くまでは・・・
「失礼しますご主人様」
「何の用だ! 俺がこの部屋に居る間は声を掛けるなと言ってあるだろう!」
「はい、しかし、どうしてもご主人様に報告しておかなければならない事が・・・」
「俺の今日の予定には、この時間に貴様から報告を受ける予定なんぞ無いが?」
「しかし、どうしても主人様に報告しなければ・・・」
「まあ良い、話せ!」
この男、飽くまでも自分が一番偉いと勘違いをしているようで、下男扱いしている男に偉そうに対応していたが、
「この街に向かって、アルバ王国の軍勢が進行して来ている様です。
その数は約3万の軍勢だと報告を受けています。」
「約3万ものアルバ王国の軍勢が、この街を目指して進行中だと!? 俺はそんな話は聞いて無いぞ! おいお前、それは本当の話しか?」
「はい、同様の報告が複数、冒険者ギルドとこの館に届いています。」
「取り敢えず、アルバ王国の軍勢の進行をお前が止めて来い!」
「そんな無茶な・・・」
「無茶でも何でも良い! その軍勢を止めるまでお前は帰ってくるな!」と、報告に来た下男を執務室から追い出した。
そして男は考えた。
何故、約3万ものアルバ王国の軍勢が、この街を目指して進行して来たのか?と・・・
まあ思い当たる節は色々と有るが、これまで男の悪事は全て上手く事が運んでいた。
今回も、進軍して来ているアルバ王国の総大将を食事にでも誘い、毒殺するか? 暗殺を生業にしている連中に殺させて有耶無耶にしても良いし、『そうだ! あの元はAランク冒険者だったと言う虎頭の冒険者にでも襲わせれば良いではないか?』などと、いまだに甘い考えを持っていた。
自身の、身の破滅を知らせる軍靴の音が『ザッ!ザッ!ザッ!』と規則正しく腹に響く軍靴の音を立てながら近付いて来ていたと言うのに・・・
この軍勢の先頭を行く3騎のデュラハン達の下に、何度か使者らしき者が訪れていたが、全ての者達を無視して軍勢の進行は止まらずに、とうとう軍勢の先頭は街が見下ろせる小高い場所に到着すると、その場所に陣を設営し始めた。
陣を設営し始めたとは言っても、小高い場所に到着した『soldier / Ⅹ』達は、順次隊列を組んで直立不動の体制を取っているだけなのだが、先頭を行っていた3騎の『soldier/Ⅸ』と『soldier/Ⅹ』が目的地に到着した後、3時間以上は時間が経過していたが、まだ周りをセバスと7体の『soldier/Ⅸ』に守らせて一緒に進軍していたジン自身は、進軍の目的地である場所には到着して居なかった。
軍勢の先頭が街を見下ろせる小高い場所に到着すると、直ぐに街からの使者が『この軍勢の責任者に合わせて欲しい』と面会を求めてやって来たが、
「まだ主様は到着されてはおられない! 主様にお目道理りしたくば、主様の到着をお待ちしろ!」と言い、その場に使者を待たせていた。
その使者がジンに会えたのは、その6時間も後の事で、辺りはアフタータイムを過ぎていた事も有り既に薄暗くなり始めていた。




