第4話・従兄弟が病室に見舞いに来た
病室で目覚めてもう3日目の朝、私は未だに病室のベッドの上で横になったままである。
この世界では、大概の怪我や病気はお金次第で解決する事が出来る。
この世界には回復薬と云う便利な薬が存在するからだ、即死以外の怪我なら大抵は治るし、ある程度の毒ならば有効だし、ハイポーションならば欠損した四肢でも元通りに治す事が出来る。
ただ、普通の市民では手に入れるのは難しい程に高価ではあるが、ハイポーションさえ手に入れる事が出来れば、それを飲んだ瞬間に普通の生活に戻る事が可能なのだが、しかし私はハイポーションを飲んだにも関わらず、未だに病院のベッドの上での生活を余儀なくされている。
何でかって?
確かにハイポーションを飲んだら、銀髪の彼女との激しい戦闘で受けた左胸の深い斬撃の痕も、それ以外に受けた傷痕も一瞬で綺麗に完治したのだけれども、銀髪の彼女の角を、自分の左胸に突き刺して砕き折った時の傷だけが完治せず、今も左胸にポッカリト開いた傷口からは、血がポタリポタリと滴り落ちている。
まあ、ノーマルポーションさえ定期的に飲んでいれば出血死する心配は無いのだが、そのせいで左腕が自由に使えなくて不自由している上に、今! 物凄〜〜〜く!!! 暇を持て余している。・・・
そんな暇な入院生活3日目の昼を過ぎた頃、珍しい人物が私の病室を訪ねて来た。
『あ〜〜〜ッ! 暇だ〜〜〜! 誰か暇な私の話し相手をしてくれないかな〜?』と溢していると、病室のドアがコンコンとノックされた。
「はい、どうぞ!」
「失礼するよ!」と言いながら1人の紳士が若い女性を連れて私の病室へと入って来た。
「珍しい人物が現れた〜♫ てっきり忙しくて見舞いには来てくれないだろうな?って思ってたのに♫ 」
「仕事が忙しくて、毎日寝不足な顔をしている従兄が、可愛い弟分の顔を見に来てやったんだ、喜べ!喜べ!」
「ジェス兄さんありがとう♫」
「うん、うん♫」
私がジェス兄さんと呼んだ目の前の紳士は、この王都在住の従兄弟で、私とは10才も歳は離れてはいたが、ジェス兄さんが若い頃に私の生まれ故郷でもあるロロナ村に一時期一緒に住んでいた事があり、本当の兄弟の様に仲良く過ごしていたし、その頃に馬鹿親父から変な特訓を色々と一緒に受けさせられていた仲間でもある。
そんな訳で、他の王都在住の従兄弟達と比べても私と一番仲が良かったと言えるだろう。
そしてジェス兄さんは、現在は本当に忙しい人だった。
誰もがジェス兄さんの役職を聞くと、その余りにもな多忙さに納得をするか?その立場に同情する事だろう。
私も王都に来て2年目にはなるが、未だにプライベートでは一緒に夕食事を取った事すら無い、ここ数年のジェス兄さんの毎晩の夕食は、ハンバーガーか?サンドイッチに紅茶だけらしいと伝え聞いていた・・・
だから、こんなにジェス兄さんとゆっくり話しをするのも、私が初めて王都に来た日以来の事だろうか?
そしてジェス兄さんの後ろに控えている若い女性は、別にジェス兄さんの嫁でも彼女でも無いらしい、その関係を詳しくは聞いてはいないのだが、強いて言えば『ジェス兄さんのお目付け役として一緒に付いて来た秘書みたいな感じの人なのだろうか?それとも私の見舞いに訪れた事を理由にして、これ幸いにと途中で仕事を放棄して雲隠れさせない為の監視要員的な人物なのだろうか?』と思ったりしている。
ジェス兄さんの後ろで静かに控える彼女からの探る様な視線を感じつつも、ジェス兄さんとちょっとた私の日常生活での軽い出来事や、最近聞いた王都での噂話しを話していると、
「そうそう、ジンが怪我した原因と言うか? その原因であるパーティの一員についての事なのだけれども・・・ 」とジェス兄さんが、今日、私の病室を訪れた本来の理由についての話をし始めた。
「それでね、話は変わると言うか? 今日、ジンを見舞いに来た理由というか・・・ まあこんな理由でも尤もらしく付けないと、こんな真昼間に私が堂々と外を出歩けないというか・・・ 」
どうもジェス兄さんの言葉の歯切れが悪い、だから私の方から話題を振る事にした。
「ジェス兄さんが聞きたい事って、ダンジョンの地下30階層での出来事だよね?」
「ああ、実はそうなんだ・・・ 悪い、未だにジンの左肩の傷も癒えて無ければ治療方法も判明していないのに・・・ 純粋にジンの見舞いで来たんじゃなくて本来の目的が『私が直接事情徴収する為』にだったなんて・・・ 」
「大丈夫だよジェス兄さん、思っていた程には左胸の傷は痛くは無いし、ジェス兄さんの立場を考えるとね・・・ 」
「本当にすまん! それで聞きたいのはドドルフと云う重戦士に付いてなんだが・・・ このドドルフ、ちょつと一筋縄では行かない悪党的な人物で、裏ではかなりあくどい事を沢山しでかしているのは確実なんだが、我々に全く尻尾掴ませてくれなくて対応に苦慮していたんだ、さらにドドルフの父親と言うのが王都で大ドルフ商会と云う名の店を営む豪商で名前はドルフと言うのだが、この父親がドドルフに更に輪をかけた様な悪党で、金にものを言わせてかなりあくどい事をしていると噂の有る人物だと云う事もあり、その息子であるドドルフも親父のドルフの金の力で好き放題、我儘放題の悪行三昧なんだが、今回の出来事を上手く利用してそろそろこの悪行三昧の親子に引導を渡して、少しでもこの王都を静かで過ごしやすい王都にしたいんだ! それに、そろそろあの人たちが痺れを切らして行動に出そうで怖くて・・・ 」
「ああ~~~ あの人たちなら十分にあり得る事だよね~ ジェス兄さん・・・ 」
「ジンもそう思うだろう? 私も部下たちにその事を誠心誠意説明した上で、そろそろ時間的猶予的にもこの問題に対しての解決の兆しを見せないと『彼らが出しゃばって来る!』って説明したら、幹部連中や部下達は快く君のお見舞いに送り出してくれたよ」と静かに笑いながら、今回私の病室を訪れた一番の理由を話してくれた。
今回の出来事の経緯と問題点として、まずこの王都に存在するダンジョン『トロ』に於いて、地下30階層と言う浅い階層では、これまでにハイオークが出現した事が無かった事、そしてそのハイオークの出現が人為的で有ったかもしれない事、任意の場所に脅威度が高い魔物を自由に出現させる実験をしている集団が、この王都に居るという事、そして少ないとは言い切れない数の冒険者クラウンがその実験に関わっている事、そして、ドルフ商会がその実験を請け負っている冒険者クラウンに対して多額の資金援助を行っている事、その対応にここ数年はジェス兄さん達が謀殺されている事を聞いた。
無論の事、一般的にはその様な事実は一切公表されてはおらず、対外的には王都に存在する冒険者ギルド本部のギルド総長及び冒険者ギルドの幹部達と、王都に存在する多数の悪質な冒険者クラウンとの『鼬ごっこ』に、冒険者ギルドのギルド総長及び冒険者ギルド幹部達が謀殺される日々が続いていると、王都に住む住民達は思っている。
だからジェス兄さんの職業を聞いた全員が全員、ジェス兄さんの忙しさに謀殺される日々を納得し、日々寝不足な顔をしているのを見て納得するのだった。
そして、ジェス兄さんの本名は『ジェスター・フォン・アルバトロス』と言い、今、この王都で一番忙しい人物だと言われている『王都・冒険者ギルド総本部のギルド総長』その人であった。