第38話・商売と旅の神がまた来た
メトに滞在して5日目の朝、僕達が朝食を取っていると、メトのギルド本部から手紙が届いていると宿の主人が部屋まで手紙を届けてくれた。
差出人を見ると『テラノ商会・メルク』と有ったので、余り良い話しでは無いだろうと思い、元々は今日も一日、僕とバーニャはラムネに戦闘訓練を付けて貰うつもりだったので、食後はそのままメトのギルド本部には行く予定では有ったが、メルクへの対応はポプラに丸投げして、僕達はそのまま地下の疑似闘技場に直行して籠る事にした。
地下の疑似闘技場で有れば、クラウンの関係者以外は立ち入り禁止に出来るからだ、しかし、僕達が疑似闘技場のバトルフィールド外で軽い運動をしている最中に、ポプラがメルクを伴って疑似闘技場に入って来るのが見えた。
「ポプラ、メルクさんがココに来るなんて前回の護衛任務に関して何か有った?」
「・・・・・」
「あれ? どうしたのポプラ?」
「旦那様、ポプラは『商売と旅の神』であるメルクに操られておる。 その証拠に、ホレ、妾と旦那様以外の他の皆は、時間凍結されてしまって固まっておるわ! 可哀そうにペコなんぞ幼い姿の妾が抱いておったから、中途半端に時間凍結されてしまって、超スローモーションで床に落下中じゃ」
「ペコは兎も角、ポプラの方は問題は無いの?」
「まあ時間凍結が解除された時に、急に自分が居る場所が疑似闘技場になってて驚くぐらいかのう?」
「なら良いけど・・・ で、今日は何の用ですか商売の旅の神様?」
「いや、ジン殿は私に少々冷たい対応だと思うのは、私の気のせいでしょうか?」
「商売の旅の神様、ご自分の言動には心当たりは有りませんか?」
「私には、ジン殿から冷たい扱いを受ける覚えが無いのですが?・・・ 」
「ほう! 護衛任務の依頼料をケチろうとしたり、当日の朝に集合場所に行ったら、そこに集まっていたキャラバン隊の荷馬車の数が、聞いていた数の3倍近い数に膨れ上がってて、その事で契約違反だと言ったら、確か、契約に対しては『騙される冒険者が悪いんですよ~ 』とか言って一切悪怯れた様子も無く、逆に『てへぺろ♪』ってやってたよね? しかも、大勢の商人達に僕の固有スキル『thousand swords』の事もバラしてしまってたよね?」
「いや、あのですね、アレは・・・ 『商人の娘のメルク』が仕出かした事で、私には関係が・・・(汗 」
「ほう! 『商売と旅の神』のメルク様には一切関係が無いと? 第一、『商人の娘のメルク』から、『商売と旅の神メルク』様の気配がしてましたが?」
「いやいや、それはのう『商人の娘のメルク』には、私の魂が髪の毛一本分入っておるし、私の加護もしっかりと付与しとるから、あの時は『あっ晴れ私!』って、商人の娘のメルクを褒めたぐらいじゃ」
「ダメじゃん・・・ 」
「して『商売と旅』の神メルクよ、今回は旦那様に何用じゃ?」
「ああ、その事だが『商人の娘』の方のメルクが、ジンに仕事を・・・」
「却下!」
「なんでじゃ~! せめて依頼の内容ぐらい聞いて欲しいのだが・・・」
「嫌です! ポプラから聞きましたが、依頼料が未だ全て払われて無い様ですが? しかも違約金の方のお金は一切振り込まれていませんよね?」
「だからその金を払う為にも・・・」
「で、『商人の娘』としてのメルクの本心は?」
「こんなに濡れ手に粟な金儲けの道具を、そうそう簡単に手放してたまるもんですか~♪・・・ アッ!しまったのです!これはジン殿には内緒な話しだったのです!」
「もう言葉に出して言っちゃってるから・・・ えぇ~っと、神様の爺ちゃん、居るかな?」と、商売と旅の神メルクを回収して貰おうと思って、この世界の主神である爺さんに声を掛けると、『儂を呼んだかのう?』と言って、直ぐに姿を顕してくれた。
その後、主神の爺ちゃんに商売と旅の神メルクに対してのクレームを入れたが、
「ジンや、それは商売の神としてのメルクの教義じゃから、儂にはどうこうとは言えんのじゃ、良く考えてみよ、商人とは『相手との取引で如何に多くの利益を取引相手から引っ張り出せるか?』が、その商人の仕事じゃな、では、そんな商人と対等以上に取引をしようとしたら、ジンはどうしたら良いと思うかのう?」
「う~ん・・・ そんな商人とは付き合わないとか? 商人とは仕事しないとか? 信頼出来る商人を頼るとかかな? 正直な話し、余り思い付かない・・・」
「まあ、この貿易都市国家フロトの商人達を相手しない限りは、余り食い物にされる事は無いじゃろうが、この国家以外にも『商売と旅の神』の教義が広まっている場所も有るし、メルク神の教えを信仰している信者も、程度の差が有れどこの世界には大勢居る。 そして、その信仰を食い物にしている聖職者もな、ではその事を踏まえて、ジンはどうする事が一番良いと思うかのう? ジンは前世の記憶と言う知識を持っているよな?」
「ああ、判ったよ! お爺ちゃんヒントをくれてありがとう! 『商売と旅』の神メルク、僕と取引しないかい?」
「ジン殿、私と取引ですか?」
「この後、神様達が帰った後に僕は、商人のメルクと商談をしなければならない、何故なら、商売と旅の神が、商人の娘のメルクを、ココに連れて来たからだよね?」
「ああ、商人の娘の方のメルクが、商売と旅の神である私にそう望んだからね、だから私がそう仕組んだんだ」
「判った。なら僕はメルクの話しは今後一切聞かずに断ることにするよ! だって神様の意思で僕は要らない苦労を背負わされて、しかも固有スキルまで勝手に他人にバラされてしまって大損害を受けたからね」
「ジン殿が大損害を受けたのは、ジン殿が予めメルクと細かい契約を交わして居なかった為だ、それは結果的にジン殿個人の責任では無いかな?」
「うん、それは僕が勉強不足で、メルクに騙された僕の方が悪いって事が言いたいんだよね?」
「商売と旅の神である私には、そう答えるしかないが・・・」
「では、商売と旅の神であるメルクは、僕に対して悪い事をしたとは思って居ないのかな?」
「ああ、正直な所、商人の娘のメルクがここまでジン殿を良い様に使うとは、正直思って居なかった。 この娘が抱えている色々な事情が幾重にも重なってしまって、周りが見えなくなってしまった結果、成果を挙げる為だけに突っ走ってしまって居るんだとは理解しているし、ジン殿には悪い事をしたと思って居る。」
「そうだよね、彼女はちょっと暴走し始めている感じがするんだ・・・ それで相談なんだけれど、今のうちに・・・・・」と、
僕は、少し思い付いた事を、商売と旅の神メルクに提案してみる事にした。




