第27話・亜神竜ブリュンヒルドと、『商売と旅』の神メルク
僕が『開いている部屋を書斎にでもしようか?』と思って入った部屋には、何故か主神の爺さんと、商売と旅の神のメルクが居たのだが、今回、この主神と副神様が僕のアパートへと訪問した理由は、先ず第一に僕への謝罪、二番目に貿易都市国家フロト近郊での『貿易路の安全確保』が目的らしく、正直な話しヒルドとも和解して、下位の竜達のキャラバンへの襲撃を辞めさせて欲しいとの思いもある様で、
「ジン様、どうかブリュンヒルド様に『ワイバーン達が、貿易都市国家フロトに出入りするキャラバン達の襲撃を辞める様に』と執り成しして下さいませんでしょうか?」と縋ってお願いされてしまい、思わず、
「わッ、判りましたからメルク様、取り敢えず僕の腕を離して貰えませんか?」
「本当ですか?! ジン様ありがとうございます!」と嬉しさの余りに、興奮して僕に抱き着いて来るメルク、
「・・・・(いっ、息が・・・)」と、メルクと比べても頭一つ分ほど背が低い僕は、女神さまの『Iカップ級』の感触を堪能すると言う幸運以前に、危うくその女神様の『Iカップ級』で窒息死する所だった。
そんな訳で、外から帰って来たヒルドを書斎に連れて行き、女神のメルクと話をする機会を作ったのだが、
「えっ、妾に『下位の竜達を説得しろ』ですって? そんな事は・・・ 多分、無理よ?!」
「何故? 何故なのよブリュンヒルド、フロトの市民達は流入して来る物資が不足して、大勢の罪の無い市民達が・・・
小麦などの価格が高騰したせいで、少ない賃金しか貰えてない人達はまともにパンも買えなくて、その日食べる物にも困っている人達や、奴隷達には雇い主から食事すら与えてもらえずに、やせ細ってしまい、体の弱い者や幼子達には、餓死する者達までもが大勢出始めているのよ!
大体、貴女があんな事をしなければ、下位の竜達もあんな行動はしなかったと思うわッ!」と強気でメルクがヒルドに詰め寄ると、
「アレは妾だけの意思では無いし、今でも妾は『あんな国なんぞは焼き尽くしてしまえ!』と思っておるしのう。
第一、そこに居る主神殿が『ちょっとフロトの首都に行って、バカどもを脅かして来てくれんかのう?』って言わなければ、妾は間違いなくあんな国なんぞ、とっくに焼き尽くしとる。
それに『商売と旅の神』じゃつたかのう? 自分が商売を民達に推奨しておいて『少ない賃金しか貰えてない人達』と言うのは少しおかしいと思うのは妾だけだろうか? 商いには成功も失敗も有るだろうし、商いを成功させようと思えば、他者を陥」れてでも成功して金を稼ごうとするし、自分の利益を多く出そうと思えば、安い賃金で人を雇うし、奴隷を購入して扱き使って使い潰す。
元々そんな考えしか持たぬバカ者達が支配する国、妾にそんな話しを持って来なくても『商売と旅』の神なら、その少ない賃金しか稼げない市民達や奴隷達に『少ない賃金しか得られぬなら、己も商売をして稼げば良い』と言っておれば良い事だけの話しなのではないのか? それに『小麦などの価格が高騰したせいで、少ない賃金しか貰えてない人達はまともにパンも買えない』じゃと? それは小麦を扱う商人が『入って来る小麦が少ない事を利用して、商売で儲けようとした』からで、何故、それが妾の責任として妾が副神に責められねばならぬのか? その理屈なら、先ず一番先に責められるのは主神ではないのか?」と、ヒルドもメルクに対して胸を当て返して更に強気の発言をする。
「そんな事は私も理解しています。
ですから、先ずは主神に話しをさせて頂きましたが、主神には『この件に関しては、儂は何も動く気がない』と言われ、それならばと思い、主神に貴女を紹介して貰いたくて此処まで来ました。」とメルクは、何処から持ち出したのか? 安楽椅子に座って『我、関せず!』とでも言う様にホットウイスキーを飲んでいる主神を一瞥すると、
「そう? なら妾の答えも『何も動く気がない』と言うしか無いわね!」
「何故? 何故なの? 何故、主神も貴女も動いてくれ様とはしないの?」
「それは『商売と旅の神』の女神?の貴女も、本当は理解しているハズでは?」
「そッ・・・・・・・・ いいえ、・・・・ ええ、その通りね! 当然そんな事は理解しているわ、これでも神と云う存在ですもの・・・・ でも、もう時間が無いの・・・ マウガが・・・ 教会の・・・ 私の小さなマウガが、段々と痩せて・・・ 助けてあげたくても・・・ 私、神だから・・・ 特定の誰かだけを助ける事は出来ないから・・・ だから、私のマウガを助けてよ~~~!」と言いながら、ヒルドの肩を掴んで揺さぶりながら号泣し始めたメルクに、今度は一転して優しい口調でその『マウガ』と言う名前の人物に付いて聞き出すヒルド、
どうもメルクが言うには、
「マウガはね、スラム地区に近い場所に建っている教会の尼さんなの、彼女は、幼い頃にその教会に預けられて以来、毎日、私にお花を捧げてくれて、お祈りしてくれて、色々な話をしてくれていたの、それに彼女が大きくなると下の子達の面倒をよく見るとても良い子だったの、そんな彼女だから、大人になっても教会に残って多くの孤児達の面倒を見てたの、でもね、もう彼女もヨボヨボのお婆ちゃんに成ったの、そんなお婆ちゃんが、自分は何も食べて無いのに、子供達には毎日パンを食べさせてあげているの、あんなに元気だったマウガの手も足も指も、もう枯れ木の様に細くなってて、でも子供たちの為に毎日毎日、街の人達に『どうか幼い孤児達を助けて下さい。』と言っては頭を下げてお願いして回り、少しずつだけれど食料を分けて貰ってたの、でも悪い大人達は、そんなマウガからも食料と僅かなお金を奪って行くの、私、神なのにそれを見ている事しか出来ないの、『商売と旅の神』だから・・・ 全ては自分で勝ち取れとしか言えないの、言っちゃあダメなの・・・ だから、せめてもと思って貴女にお願いしに来たの・・・・」
「と!言う事らしいけれど、もしも旦那様が『キャラバンから護衛の依頼』を受ける事が有ったら、『商売と旅』の神からの話しとは別にして、妾が旦那様にくっ付いて一緒に行っても問題は無いよね、そして途中で出て来たワイバーン達に妾が『邪魔』だと説教したとしても、何も問題は無いよね?お爺ちゃん♪」
「そうじゃのう・・・ ヒルドの嬢ちゃんがジンと一緒に出掛けて、そこでワイバーン達下位の竜達に出会って、そこで邪魔だと説教するも、奴らを狩って肉として食べるのも、ヒルドの嬢ちゃんの自由じゃし、儂は何も言えんのう、フロトの首都には良い酒が有ると聞いとるが、それが土産なら言う事は無しじゃのう」
「と、言う事らしいが、どうかの旦那様」と、ヒルドが僕の顔を見て笑う。
そんな良い笑顔で見られると、僕も笑顔で頷くしか無いよね♪
それから暫くして、アパートに帰宅したポプラから、手渡された手紙を見て『神様達って仕事が早すぎ』だと思ってしまう。
その手紙には、
『突然のお手紙失礼します。
私は、貿易都市国家フロトの首都で小麦問屋を商う商家の娘で、今回は他の同業者達と一緒にアルバ王国まで小麦を買い付けに来ています。
幸にも、私達一行は大量の小麦を買い付ける事は出来たのですが、フロトの首都まで帰るキャラバンを護衛して貰おうと、ギルド本部にて護衛募集の張り紙をさせて頂いたのですが、応募して来る冒険者さんも少なく、また応募して来た冒険者さんとの交渉も様々な理由で上手く行かず、フロトの首都へと帰らないといけない期日も迫っており、困ってギルド本部のギルド総長様にご相談させて頂いた所、ジン様をご紹介して頂いた次第です。
もし宜しければ明日にでもギルド本部にて、一度お話をさせて頂きたいのですが如何でしょうか?
明日、昼前の時間にギルド本部でお待ちしております。』とあり、最後に『フロトの首都で小麦問屋を商う商家の娘・メルク』と有った。
僕は近い内に、貿易都市国家フロトの首都まで、馬車の旅をする事になりそうです。




