第22話・この世界にも和風茶屋が、そして主人には
翌朝、メイドのシオンに起こされて朝食を取った後、シオンに甲斐甲斐しく身嗜みを整えられて、昨日、ポプラさん達と待ち合わせの約束をした『ウサギ茶屋』にと向かうと、既に二人は来店いるとの事で、店員さんの案内で個室に通された。
個室へと案内してくれた店員さんに『個室の戸』を開けて貰い、室内に入ろうとして固まってしまう。
店員さんに案内された個室の入口の『戸』が、『引き戸』に成っていたから『もしかして?』とは思って居たけど、個室に入って驚いた! 個室の入口には『上がり框』そして、横を見ると『下駄箱』まで・・・
そして一番驚いたのは、個室の部屋の向こうに見えている景色・・・
広い庭に作られた瓢箪型の池、その池に架かる赤い橋、その後ろに数個の巨石が配置され、一番奥には、ピンク色した小さな花を無数の枝に咲かせた巨木が、静かに鎮座していた。
「ほらバーニャさん、私が言った通りに成りましたね〜 」
「・・・(コクコク)」
悪戯が大成功した子供達の様に、満面の笑みで二人が出迎えてくれたけど、僕はそれ所では無い、ポプラさん達が座って待っていた個室の部屋自体も、上座だと思われる場所には『床の間』らしき物と、何故か?茶釜がセットして有る囲炉裏鉢、ポプラさん達が座っているのは、床を一段低くした場所にテーブル・・・ 寒くなれば掘り炬燵として活躍するのだろう。
そして、部屋から庭に出る為に縁側まで設えていた。
「ジンさん、どうぞそちらに座って下さい。」とポプラさん達の対面、上座に座らせられる。
この個室、一日に2組だけの限定だと言う事で、今、王都では女性達を中心にかなりの人気なのだそうだ、
「ジンさん、今日お越し頂いたのは、先日バーニャさんが暴走した件での謝罪とお礼、そして私自身もジンさんに謝罪とお礼がしたいと思い、このお店『ウサギ茶屋』さんの個室にご招待させて頂きました。」と言い、ポプラさんが深々と頭を下げると、その横で神妙な顔をしていたバーニャさんも深々とお辞儀する。
「先ず、バーニャさんが暴走した件で僕が謝罪される謂れは無いので、謝罪は無用です。第一、アレは僕のお節介ですから、お礼に関しては有難く受けさせて頂きます。
次に、ポプラさんに関してですが、僕にはポプラさんから『謝罪とお礼』を受ける様な覚えが無いのですが?・・・ 」
「ジンさんに覚えが無くても、私には覚えが有ります。 先ず、お礼の件ですが、バーニャさんを暴走状態から助けて頂きありがとうございました。
バーニャは私の大切か友人なのです。
そして、謝罪の件ですが、ジンさんは『鍛冶職人のホビイ』と言う名前に、お心当たりは無いでしょうか?」
「確かに『鍛冶職人のホビイ』さんには、半年前に剣と防具の制作を依頼してましたが・・・ 今日には注文の品が出来ているハズなので、この後ホビイさんの店に取りに行く予定なのですが、何故それをポプラさんが?」
「その『鍛冶職人のホビイ』は、私の父です。それにジンさんの剣も防具も完成どころか、作り始めてはいませんでした・・・ ジンさんが父に最後に会ったのは何時の事ですか?」
「確か? バーニャさんが暴走した日の前日だつたと思いますが・・・」
「父はその日以来、消息が不明なのと、父の工房に有る筈の刀剣類や防具類が一切無いんです。
工房内が一切荒らされて無い事から、もしかしたら父が夜逃げでもしたのでは無いのか?と、捜査を依頼した憲兵隊の隊長は言っていますし、実は私も『父は夜逃げしたのでは無いか?』と疑っています。親の恥を晒す様ですが、ここ数年、父は仕事を碌にせず酒ばかり呑んでいた上に、多額の借金も抱えていた様で、工房内には、炭はおろか仕事道具のハンマーすら残って無くて・・・ 因みに、ジンさんは父に剣と防具の制作費として一体幾らのお金を支払ったのでしょうか?」
「工賃として白金貨で5枚(約5千万円分)・・・」
「はあぁ~? 工賃で白金貨5枚! 頭が痛くなってきた・・・」
「それと・・・」
「まだ有るのですか?」
「はい、黒竜の鱗を10枚と、黒竜の牙が2本と、爪が2本・・・」
「はあああぁ~~~!? 竜の鱗に牙と爪!? 何なんですか? 勇者の防具でも作るんですか? ジンさんはお伽話しに出て来る魔王を倒しに行くんですか? バカなんなんですか?」
「いや、ホビイさんに『剣と防具を作るなら素材を用意しろ』と言われて、黒竜の鱗を一枚出したら『持っている素材を全部出せ!』と言われて・・・」
「それで全部出したと・・・」
「はい・・・」
「あのバカおやじ~~~! 母さんが居ないと思って好き勝手して~~~! はぁぁぁぁぁぁ~~~ッ!
ジンさん! ジンさんは竜の鱗1枚の価値って知ってますか?」
「まあ高いとは思いますが、価値と言われるとそこまで詳しくは・・・」
「良いですかジンさん! 鱗一枚で最低でも1千万! これはワイバーンの鱗等の小型の亜種竜での話しです。 竜種なら軽く10倍、しかも黒竜なら、多分、20~30倍! それに牙と爪・・・ 豪邸・・・ いいえ小さな城ですら買えますよ・・・ それを簡単に預けるジンさんもジンさんですが・・・ はぁぁぁぁぁぁ~~~ッ! それを猫糞を決め込んだ、あのバカおやじ~~~! トホホホホ・・・・(泣 」とポプラさんは頭を抱え込んでしまった。
そんなタイミングだと知ってか?知らずか?
「失礼します。」と個室の戸がノックされ、体格の良い大柄な男性と女性、そして若い女性が個室に入って来た。
「ご歓談中失礼します。 ワッシはこの『ウサギ茶屋』の店主をしております『卯吉』と申します。
横に居ますのが妻のラムダ、その横は娘のラムネと申します。
本日は、ジン様に一言お礼がしたいと思いまして、この場を用意させて頂きました。
そのお礼と言うのは、バーニャの事です。
バーニャはワッシの兄じゃの娘で、ワッシから見ると姪となります。
本来、成人した一人の冒険者の礼を叔父であるワッシが述べるのも、失礼な話だと思いますが、なにぶんバーニャは『鬼神の呪い』で、ジンさんに十分な礼を述べたくとも述べれません。
叔父バカだとは思いますが、兄じゃに成り代わってお礼申し上げます。」
「初めましてジンです。 本日の招待、そしてバーニャさんの件でのお礼との事、有難く頂戴します。」
突然の卯吉達三人の登場に、驚きもしたし、それ以上に驚いた事も多いが、それを顔に出さずに答えたジン、しかし、ジンの視線は卯吉の横に居る綺麗な女性達では無く、卯吉に注がれていた。
「はてジン殿、ワッシの額に何か付いていましょうか?」とジンの視線に気づいた卯吉が、気になって聞いて来る。
この『ウサギ茶屋』の主人だと言う卯吉、顔立ちは割と二枚目だとは思うが、口には牙が生え、額にはバーニャと同じ様に3本の立派な角が生えており、その頭には、真っ白で立派な長い耳が生えていた・・・
その真っ白でふわふわなウサギ耳にジンの視線が釘付けになっていたのに卯吉は気付いた様だった。
「すみません、その立派な『鬼の角』と、真っ白でもふもふな『ウサギの耳』に、思わず視線を奪われてしまって、バーニャさんの叔父さんと言うので、鬼神族の方だとは理解してますが、その『ウサギの耳』が物凄く真っ白でふわふわして見えて、つい・・・」
「そうでしょう!そうでしょう! 驚くのは無理もない、ワッシとワッシの兄じゃとは母者が違いますから、兄じゃの母は鬼人とハイヒューマンのハーフ、ワッシの母は兎人とヒューマンのハーフですからのう。
ジン殿、そんなに『このウサ耳』が気に入ったのでしたら、妻と娘や親族以外には触らせた事は無いのですが、特別に後で・・・」と言い掛けた所で、横に居る奥さんから卯吉さんは横腹を突かれていた。
そんな感じで、今日の『ウサギ茶屋の個室』での茶会のホストが挨拶を済ませた後、その個室では穏やかに談笑が続いていたが、それまで会話に参加して居なかったポプラさんが、真顔で途轍もない爆弾を投下した。
「私! ジン君の!"#$%&'()\~~~!・・・ 」と、ポプラさんの絶叫が個室内に響きわたると、
その内容を聞いた全員が固まって、ポプラさんの顔を凝視しする事となった・・・・




