第18話・カエルを捕まえようとしたら、闇より深い影がメイドの姿に
冒険者ギルド本部を出て来たのが、夕方前のアフタータイム間際だったせいか? 表道りに面した食堂や居酒屋を始め、多くの店が活気に溢れている様に見えた。
そんな表道りに出ている食料品関係の店や、屋台の店なんかを覗きながら『今夜の晩飯はどうしようか?』などと考え歩いていると、通りの向こうから僕を見かけた二人の女性に声を掛けられた。
「こんにちはジンさん」
「はい、こんにちはポプラさん、それとバーニャさんで良かったかな?」
「(コクコク)・・・」と笑顔でコクコクと頷いて答えているバーニャさん
ポプラさんは冒険者ギルド本部で受付嬢をしていて、僕が王都に来て以来、僕の受付担当をしてくれている女性で、栗色の髪をちょっと長めのボブにして、活発な見た目通りの明るく優しいお姉さんで、多くの男性冒険者達から人気がある。
バーニャさんは、例の鬼神化スキルのせいでダンジョン地下30階層で暴走していたアノ冒険者だ、それとバーニャさんは喋れないのでは無く、鬼神化スキルの影響で『無口化』が進み、普段から余り喋らないが、その代わりに表情や仕草で答えているのだが、その無口さと言葉を表情や仕草で表現しようと頑張っている姿のギャップが可愛いと、ギルド本部の受付嬢達には可愛がられており、ギルト本部の受付嬢には『情報共有化スキル』や『意思疎通スキル』を持っている職員も多く、バーニャとしても自分の意志が伝わり易いので結構頼りにしている。
「ジンさん、突然で申し訳ないんですが、ジンさんが最近色々と忙しくしている事は重々承知なのですが、明日、お時間を少し私達に頂く事は出来ませんか?」
「(バーニャさん真剣な眼差しでコクコクと頷く)」
ポプラさん達から突然のデートのお誘いか?とも思ったけど、バーニャさんの真剣な眼差しで僕を見つめて頷く様子と、ポプラさん自身からも何か話したい事が有る様子が窺えたので、
「明日ですか?時間的には何時頃にしますか?」
「えっ!良いんですか? てっきり私達はジンさんには・・・ いえ、ジンさんがご迷惑で無ければ! ジンさんは表通りに在るお茶屋さんで『ウサギ茶屋』と言う店はご存じですか?」
「はい、ギルド本部の受付嬢の方々が良く行かれていて、何でも美味しい茶菓子を出している店ですよね?」
「はい、その店で間違い有りません。 そうですね待ち合わせ時間なのですが・・・ 」と、ポプラさんは僕と待ち合わせする場所と時間を決めると、
「ジンさん、明日は私達の勝手な要望で、ジンさんの貴重なお時間を頂く事になりますが、何卒よろしくお願いします。」と頭を下げると、僕に対して何か話したい事があるのに、上手く喋る事が出来ない心苦しさを顕しているか?眉間に少し皺を寄せて、物凄~く!申し訳ない顔をしているバーニャさんの手を引いてギルド本部の方へと歩いて行った。
ポプラさん達が歩き去る際に、何か気になるワードを言っていた気がして・・・ つい、彼女達の姿が見えなくなるまで、その後ろ姿を見送ってしまった。
その後は、肉屋でオークのバラ肉を買うか?ミノタリウスのTボーンを買うか?をしばらく悩んだ後、結果的には両方を購入して、肉屋の女将さんの進めで、香辛料をたっぷりと混ぜ込んだオークの腸詰のウインナーも一緒に買い、スープは行きつけの食堂で、アッサリした味の赤カブのスープをテイクアウトして、パン屋でコッペパンを買ってアパートへと帰って来た。
「あ〜 失敗した・・・ 公衆浴場に寄ってからアパートに帰ってくれば良かった・・・」とアパートに帰ってから、今回のヒキ男爵達の襲撃の一件で、お風呂場までが破壊し尽くされていた事を思い出し、取り敢えず買って帰った物を、ダイニングキッチン痕に残った暖炉の残骸の前に置き、ポロを取り出して公衆浴場に向かおうとして気付いた。
肉屋で買って帰った袋を覗き込む、オレンジ色した不思議な生き物に・・・
「ち、ちょっと待った! それは僕の明日の朝ごはん~~~!」
「グェッ?」
そのオレンジ色した不思議な生き物は、肉屋の女将さんおススメの、オークの腸詰のウインナーを袋から引きずり出すと、『グェッ!』っと一鳴きして上で、そのまま逃げ出そうとしたので、
「待った~~~!」と、オレンジ色した不思議な生き物が咥えたオークの腸詰のウインナーを、取り返そうとしたら、勢い余って目の前のボロボロに壊された暖炉の残骸に頭から突っ込んでしまい、悪い事に、慌てて暖炉の残骸から頭を引き抜いた瞬間、耐熱煉瓦で作られた暖炉の煙突に、一気に天井まで亀裂が入ったかと思うと、その煙突が壁からごっそりと剥がれ落ちて来たが・・・
その次の瞬間、物凄い轟音と共に、ダイニングキッチンと隣のリビングを隔てていた壁が、綺麗に消滅していた。
予想外の展開と、予想外の光景に、僕は顎でも外れるのでわ?と言うぐらいに驚き、あんぐりと口を開けて放心状態だったが、咄嗟に助けようとして救い上げたオレンジ色した不思議な生き物も、咥えていたオークの腸詰のウインナーを口から離して、その生き物特有の大きな口を限界まで開いたままで固まっていた。
何故なら、闇より深い影から人の姿が滲み出たと思ったら、轟音と共に、床に届きそうな長いスカートのメイド服に、真っ白なエプロンを着けたメイドさんが、片足を真横に高く上げた状態で額には脂汗をダラダラと流しながら、色々な意味で『失敗してしまいました!』と言う感じで固まっていたからだ、
ジンの冒険者ステータスを表すステータス表の職業欄には『剣士』とだけ表記されているのだが、これはジンが初めて冒険者ギルド本部を訪れて冒険者登録をした際に、ギルド総長であるジェス兄さんの指示で書き換えられて表示されている職業で、実際にジンの職業欄に表記されている職業は、ヒルドとの関係性にも因る事が大きいのだが、職業欄には『竜騎士』と表示されていた。
そして、闇より深い影から滲み出て来たメイドさんの行動は、無意識のうちに発露していた『竜騎士』の専有スキル『神眼』のおかげで、メイドさんが姿を顕した所から、崩れて来る暖炉の煙突の残骸をその細い足で一瞬に蹴り飛ばしてしまう所が全て見えていたのだ、
この『竜騎士』と云う職業、とても珍しい職業らしく、
「まあジンの職業欄には『平凡な職業は表示されないだろうな?』とは思ってはいたけど・・・ この職業欄の表示は一体何なんだい? ダンおじさんの職業欄を見せて貰った時も『ドラゴンスレイヤー・S』って表示に驚いてしまったが、今回の『竜騎士』の表示は全く意味が判らないよ!」と言われてしまった。
この『竜騎士』と言う職業、約200年近く前のアルバ王国が建国された頃の古い文献に『竜騎士殿に助力を願い』との一文が有る事から、職業としての『竜騎士』と言うステータスが有る事は言われて来ていたが、誰もその実態を知る由も無かったのが実状で、その『竜騎士』に発露する専有スキル自体も全く知られていなかった。
そんな理由からか? ジェス兄さんが『竜騎士』が持つ専有スキルを知りたいと思ったのは、なんら不思議では無い話しだし、ギルド本部のギルド総長の立場としても当然だと理解する事が出来たので、当然の様にスキルを解放しようとしたのだが、突然、青い顔をしたジェス兄さんが『竜騎士』の専有スキルの発露に待ったを掛けた。
「ちょっと待てジン! 今思い出したんだが、お前の親父さんのダンさんが『ドラゴンスレイヤー・S』のステータスを得た時の話しって聞いてるか!?」
「いいえ、親父からは『母さんとの馴初め話し』としてなら聞いてますが、そんなに詳しくは・・・ 聞いて無いですね、大体、親の惚気話しをそんなに真面目には聞いてませんよ! 第一、あの妹達でさえ『お父さん、またその話しなの?』とか、お母さんが『お父さんの話しは、話半分で聞いてた方が良いわよ~♪』と言って、全然本気にはして無かったし」
「まあ、あの親にしてこの子ありだな・・・ ジンは『ドラゴンスレイヤー』の専有スキルは知っているよな? では、ダンさんの『光の戦士』の専有スキルの方はどうだ?」
「余り詳しくは無いかな? 精々僕が知っているのは、親父が『黒竜王と三日三晩もぶっ通しで、ガチの殴り合いの喧嘩が出来る。』ぐらいは、人族を辞めているって事ぐらいかな?」
「ならば丁度いいかもしれないから、ギルド総長としての権限で、当時のギルド本部職員達が冒険者達に直接聞いて集めて得た情報を開示しよう。」とジェス兄さんは、真面目な顔で話し始めるのだった。




