第16話・ギルド本部からの呼出状が届いてた
その日の朝は、明らかにヒルドの柔らかさとは違う『知らない女性の柔らかさと、知らない女性の匂い』に包まれて意識が覚醒し始めた途端に、『えっ!? 誰! 誰に頭を抱き抱えられているの?』と混乱しつつも、恐る恐る顔を上げて、僕の頭を胸に抱きしめながら寝息を立てて寝ている女性の顔を覗き見ると、その顔は僕の顔は知らない女性ではなくラタニーだった。
「ラ・・・ ラタニー、 ラタニー起きて!起きて!」と覚醒した意識と理性を動員して、未だに僕を抱き枕にして爆睡しているラタニーを起こしに掛かったが、どうも彼女は深酒し過ぎた様子で一向に起きる気配すら無い、まあ現実問題として困る事と言えば僕がトイレに行きたいだけだが・・・ と、思い掛けて良く思い出してみると、僕が生まれ育った村である『ロロナ村』から、両親と妹達が家族総出で王都に出て来ているのだった。
『こんな姿を見られたら、ヤバイどころの話では無くなる!』と思い直してラタニーの胸の中で藻掻いていたら、
「うぅ~!んんん~~~~♪ ・・・!? !~~~~!!! "#$%&' ? ? ? ・・・? !~~~~!!!」と、最初は意識を覚醒させ始めたラタニーが、やっと僕の頭を開放してベッドに寝転んだままで手足を伸ばして伸びをして、次に何か違和感を覚えたラタニーが、ボーっとした頭で辺りを見回して僕の姿を発見!
しばらくはパニクるものの次第に冷静さを取り戻し、先ずは額に脂汗を滲ませながらも自分と僕が寝ている際の格好を確認して、自分の着衣の乱れを確認(まあお互いにポロを着ているだけの恰好なんで余り意味も無い事なのですが・・・汗)、
そして、意を決してラタニーが真顔で左指で輪っかを作ると、右手の指を左手の輪っかにイン!
それに対して僕は真顔のまま顔の前で『イヤ!イヤ!』と手を横に振ると、ラタニーは僕に背を向けて自分の股間を確認して、それまで一言もしゃべらずに無言だったラタニーが、
「ふうぅ~~~~~~~~! 焦ったニャ~~~~♪」とやっと喋った。
その後は、ベッドの上で『うぅ~~~ん・・・ うぅ~~~ん・・・』と、両腕を組んで胡坐を掻いた格好で暫く悩んでいたラタニーだったが、両目を見開いて膝を叩いたと思ったら、おもむろに着ていたポロを脱いで全裸になると、魔法使いの服装に着替えて『また来る!』と短く言って出て行った。
「えっ!?・・・ 『また来る!』って言って出て言ったけど・・・ この大きな天蓋付きのベッド、邪魔だから片付けて行って欲しかった・・・」
慌ただしく出て行ったラタニーを茫然としながらも見送り、昨夜、屋台で買った肉の残りと2個のコッペパンで朝食を済ませた後、ラタニーが残して行った天蓋付きベッドやその他の荷物を、収納魔法で空間収納すると、そのままアパートの残骸も僕の魔法で作られた空間へと収納し始める。
この空間魔法系の収納能力魔法、これまで見て来た魔法使いやスキル保持者達が、いとも簡単に色々な物を収納している所を見ていたせいか?
『自分も能力が解放されてしまえば、大きな荷物も簡単に収納する事が出来る。』と思っていたが、それは大きな間違いだったと今更ながらに反省してます・・・
何故か?と言うと、僕の魔法で作られた空間へと一つ物を収納する度に、僕の脳みそに負担が掛かってしまう上に、収納魔法で物を収納するのに時間が掛かる様になったんです。
そして、収納魔法を行使し続けている影響で頭痛と眩暈でフラフラになった頃、
「おーいジン! 優しいパパが飯に誘いに来てやったぞ〜♫ って、オイ! 青い顔してる上に!そんなにフラフラして一体どうしたんだジン?」
「なんだ父さんかぁ〜 どうしたの?」
「いや、どうしたこうしたも無いんだが・・・ お前の方こそどうした? 見た感じ『魔法酔い』している感じに見えるが?」
「ああ、今、アパート内の瓦礫を片付けるのに・・・ 覚えたての収納魔法を使ってて・・・」
「あ〜〜〜 ・・・ そりゃあそうなるわ〜〜〜 お前、今日はもう魔法を使うのは禁止なッ! それよりも!母さん達がアパートの前で馬車に乗ったままお前を待ってるんだ! 早く行くぞ!」とジンの顔色が悪い理由を理解したダンは、ガシガシと頭を掻くと、小柄なジンを小脇に抱えてアパートを出る。
まあ余談だが、ジンの名誉の為に言っておくと、ジン自身は同じ年頃の男の子達と比べて『少し背が低くて、体付きもやや細くて華奢』だと思われガチだが、隣りに並ぶ父親のダンがデカいのだ、巨人族(光の)の遺伝子を持つダンの身長は2mオーバーで筋肉盛り盛りのゴリマッチョ! 対してジンは母親譲りの華奢な容姿をしているから小さく見えるのだ!と申しておりましたとさ・・・
「ちょっと待って・・・ 着替え、着替え〜!」と親父の強引な扱いに抗議したが結果は変わらず、
「着替えなんぞ馬車の中でも出来る!」と言いながら、小脇に抱えて連れて来たジンを馬車の中に投げ入れて強制連行するダンだった。
この日のダンは、村では到底出来る機会が無い『劇場で劇を観た後にショッピングに行きたい!』と妻のプラウと妹達にせがまれ、宮廷で馬車を借りて出て来たのだが、プラウの
「そうそう、折角だからジンも連れて行きましょうよ♪ 久しぶりに家族全員でのお出掛けなんて素敵じゃない?」との言葉に、
『いや~、ジンももう18歳にもなるし、家族と出掛けるよりも友達と遊んでた方が嬉しい年頃だし、アイツ、今はアパートの修復で忙しくて、出掛けようとは思わねぇんじゃないか?』とは思ったものの、ここでプラウの機嫌を損ねると後が怖いので、
「まあアパートがあんな状態だし、ジンにも色々と予定は有ると思うから、取り敢えずは昼飯でも一緒に食べに行こうって誘って、その時にプラウが劇場に一緒に行きたいって誘ってみたら? 流石にジンもプラウの誘いは中々断らないと思うし?」と言う話になりジンを連れに来たのだが、ジン本人が行きたくは無いと言うならば、そもそも連れ出すつもりは無かったが、魔法酔いしたジンの顔を見た途端に強引にでも連れ出して魔法を使わせない事にしたのだった。
本来、魔法を使う才能や素質が有る者が、魔法を使える様に成る為には、師匠と成る者に幼少期から師事するか?多くの指導者が在籍する魔法専門の学園等に通って指導を受けないと、効率よく魔法を使う事も出来なければ、魔法を暴走させて大惨事となる事もあるのだが、そもそも魔法を全く使った事のない者が、簡単な魔法を発動させる事自体が無理な話しなのだが、ダンはアパートの状態を見て実はかなり慌てていた。
上級職クラスの魔法使いならば、大抵の場合は誰かが行使した魔法の残滓を感知する事が出来るのだが、これまで『才能は有ったが魔法を行使する事が出来なかったジン』が、魔法を発露させて僅か数日で、空間魔法系の上位魔法である『収納魔法』を、先ほどまで行使していた形跡があったのだ、ダンが慌てて中断させたのも、自分自身が空間魔法を暴走させてしまい、小さな山を空間魔法で消滅させてしまった経験が有ったからだった。
因みに、ダンの魔法の師匠は、当時、小さな山が消失した事件を捜査していた宮廷魔導士しで、プラウの魔法の師匠でもあり、現宮廷魔導士の筆頭魔導士だったりもする。
そんな事情で強引に連れ出された上、ジンの顔色が悪い理由を知ったプラウに滾々と説教をされてしまい、そのまま家族が泊っている宮殿内の離宮に連れて行かれて、宮廷魔導士達の立ち合いで色々と魔法に関する検査を受けさせられた挙句、やっと宮廷魔導士達から開放されてアパートに帰って来たのは二日後の昼前の事だった。
その際、ラタニーがジェス兄さんに付き添われて、筆頭宮廷魔導士と面会していた事はジンには一切知らされてはいなかった。
城から『質素な馬車』に偽装された馬車でアパートに帰って来たジンが、玄関先に設置しているポストの中を確認してみると一通の手紙が入っていた。
中身の手紙は、冒険者ギルド本部から呼び出しの通知で、呼び出し期日は明記されていなかつた事もあり、ジンはそのまま徒歩で冒険者ギルド本部へと向かう事にした。
冒険者ギルド本部に到着すると、お昼を少し過ぎたぐらいの時刻だと言う事もあり、ギルド本部の受付よりも、ギルド本部に併設されている食堂の方が少し混んでいる様で、割と直ぐに僕の順番は回って来た。
「ギルド本部から、呼出状が届いていたのですが?」と窓口業務の女性に呼出状を提示すると、
「こちの方で、確かに冒険者ランクDランクのジン様宛の呼出状だと確認が取れました。 係の者が上役担当者の所在を確認しに行っておりますので、恐れ入りますが受付側の冒険者用の談話室では無く、二階の第3会議室でお待ち下さい。」と案内された。
ただ、ちょつと気になったのが、僕の担当受付嬢であるポプラさんの姿が見えなかった事が気に掛ったが、
「まあお昼時だし、今日は外の食堂へ行って食事しているのだろう」と思い、その時は全く気にもして無かった。




