第10話・離宮に居た全員が凍りついた・・・
「そんな状態のブリュンヒルド様を連れ帰ってもジンも大変でしょう? 今夜はこの離宮に泊まって行けば良いわ!」
「せっかくだけど、離宮だと気を遣って寝れないし、この離宮でヒルドが万が一にでも元の姿に戻りでもしたら一大事なんで、私とヒルドは自分のアパートに戻ります。」
「あら? アパートに戻った方がブリュンヒルド様が元の姿に戻った時には大惨事になるんじゃない? それともどうしてもアパートに帰りたい特別な理由でも有るのかしら?」
「ただ気を抜いてゆっくりとしたいからです。 ミランダさんの方こそ何か企んでませんか?」
「わっ、私が何か企んでいるなんて・・・ それよりも! アパートにブリュンヒルド様を連れ帰っても本当に大丈夫なの? それはどんな根拠を持っての事なのかしらジン?」
ちょっと酒が入っている感があるミランダさんが、物凄く絡んで来る。
私の直感が『今夜、この離宮に泊まって行ったら絶対に面倒な事態になる。』とレッドシグナルを発信し始めた。
過去に一度だけ別の離宮に泊まった事が有ったが、その際にも色々とミランダさんに悩まされたのだ、この人、普段はもの静かな王妃を演じてはいるが、時々、素が出て回りの人達を巻き込んで大騒ぎする事が有るのだ、特に、ターゲットに対して悪戯を仕掛けては、ミランダが仕掛けた悪戯に引っ掛かった相手が困っている時の顔を見るのが好きな上に、個人の秘密を暴くのが好きと言う・・・ ちょっと困った趣味なのだが、普段ならばこの趣味もアルバ王国に敵対している諸外国に向けられているが、これが身内に向けられるとちょっと洒落にならない事もある。
前回、一度だけ離宮に泊まった時にはメイドさん達にお色気攻めに会ったのだが、そのお色気攻めがとにかく洒落にならなかった。
その時は、一晩中『森の離宮』と言う名の離宮で、30人近い様々な種族の美人メイドさん達に追いかけ回されたのだ! しかも美人メイドさん達の全員が生まれたままの姿、スッポンポンの姿で・・・
しかも、翌朝の朝食の時にミランダさんは『昨夜はお楽しみだった様子でッ♫』って満面の笑みで言うもんだから『思春期の健全な男子の忍耐力を舐めるな〜!!!』って言い返して、そのまま朝食も食べずに帰って以来、王宮には遊びに来て無かったので、その意趣返しでも企んでいたのだろうか? 祖父のエドカードも『なあミラ、今宵は良いではないか? またジンが王宮に遊びに来てくれなくなっても困るしな?』と口添えしたのだが、どうもミランダさんは『ジンが王宮に遊びに来ないのは、ミランダの悪戯が原因』だと旦那であるエドカードに言われた気がしたのか? 余計に意固地に成ってしまった。
実はミランダ、ジンが王宮に遊びに来なく成った事に対して物凄く気にしていたのだ、しかも当時ミランダは、メイド達には『ジンが快適に過ごせる様に手配しなさい。』としか指示を出して無かった。
しかし、真相はジンの入浴を介助しに入ったメイド達が、ジンに浴場から追い出された事にプライドを傷付けられて、ジンに対して過度なお色気攻めに出た事が発端であり、ミランダが特別にお色気作戦の指示を出した訳では無かったのだが、ジンに対して過度なお色気攻めをして上役のメイドに咎められた際に『ミランダ様のご指示で・・・』と言い訳してしまったばかりに、『ミランダ様のご指示ならば仕方がないですね、ならば皆で接待しなければ!』と言う事と成ってしまったのだ、そして暴走したメイド達の胸中には『上手く行けば玉の輿♫』の二文字が点灯していたとか?してなかったとか?
翌朝、メイドに昨夜のジンの様子を聞いた際に『昨夜はジン様と楽しく遊ばせて頂きました♫』と報告を受けていたので、ジンの顔を見た時に『昨夜はお楽しみだった様子でッ♫』と言ったのだが、その言葉に怒って帰ってしまったジンの態度に困惑したミランダが、メイドに『昨夜のジンはどんな様子だったの?』と問い掛けてみれば、『森の離宮所属のメイドに聞いた所では、昨夜はミランダ様のご指示通りに、メイド全員でジン様をもてなそうとしたのですが、ジン様にはご不興だったご様子で・・・』と説明を受けたミランダが、森の離宮所属のメイド主任者を呼び出して初めてメイド達の仕出かした事の事実を知ったのだが、嘘をついたメイドと、その嘘に乗った上役のメイド主任者は極秘に処罰したものの、何も知らないメイド達まで突然処分してしまう事も出来なかったので、昨夜のメイド達の過激な行為はミランダの指示だったと言う事にしたのだった。
そして今夜は、その時に暴走したメイド達の懇願もあり、ジンへの謝罪の場を与える為の機会を作ろうとしての事だった。
ただ、素直に当時の真相をジンに話しさえすれば、ジンも頑なに拒みはしなかったのだろうが、今夜はヒルドも一緒だった事もあり『また全裸のメイドさん達に追いかけられる事態に巻き込まれるのか?』と思ったら、いくら離宮に泊まって行けば良いと言われても、断固拒否の一択しか無かった。
まあジンの方も良く考えてみれば直ぐに気付けた事なのだろうが、流石に悪戯好きのミランダでも『ヒルドがジンと一緒に居る時に、果たしてジンに対して色仕掛けの悪戯を仕掛けて来るだろうか?』と・・・
そして次にミランダが言ってしまった一言は例え酒が入っていたとしても・・・ 言ってしまって良いものでは無かった。
「竜種であるブリュンヒルド様を人の姿に留め置く秘術でも有ると言うなら、今! この場で証明して見せなさい! そんな秘術があるならば、私がその秘術を使って全ての竜種を駆逐して来てあげますわッ!」と宣言したのだったが、突然、水の離宮全体が凄まじい神気に覆われたと感じた瞬間、
「ほう? オヌシはまた禁忌の深淵を覗こうとするのかのう?」と、その場に居た誰でも無い老人の声だけが聞こえて来た。
「「「 &#*#&:@#〜〜〜〜〜〜〜!!!」」」
そして、その場に居た全員が金縛りに遭ったかの様に体を硬直させると、ジンとヒルド以外の全員が本人の意思とは関係なく、その場に突然現れた老人に向かって片膝を突いて頭を垂れる。
この世界の創造主が、アルバ王国の水の離宮に降臨した瞬間だった。
「!?・・・ みんなどうしたの?」
「いや、儂、一応は神様じゃから・・・ しかも主神じゃし、地上の住民が儂の姿を見たら誰でも無意識に跪くじゃろうて、儂に跪かんのはお主ぐらいじゃろうて・・・ 」
確かに、皆が突然の神の降臨に対して思考が停止して、ただだ畏怖して畏れている気配だけが伝わって来る。
あっ、ヒルドは自分の意思でしっかりと神に対して敬意を持って頭を垂れていた。
でも何故か?5歳児の姿のままだと・・・ あっ、今、そんなヒルドを、まるで『良くご挨拶出来ましたねヒルドちゃん♫』的にお爺ちゃんが孫を褒める感じで頭を撫でてる。 しかも何処から出したのか?ヒルドの両の手のひらに山盛りの飴ちゃん渡してるし・・・汗
「で、今日はどんな御用件で?」
「ジンや、お主、ちょっと儂に対しての対応が塩すぎん? 儂、泣くよ!?」
「どんな御用件で?」
「儂、本気で泣くぞ〜!」
「いやいや、先日のアレやコレな出来事を思い出すとね〜 」
「その件に関しましては、後日、担当の者が菓子折りを持参しまして、お客様の所に謝罪を・・・ 」
「いやいや、コントはこれぐらいにして、神様が直々に出て来たのは何故?」
「・・・ 突然梯子を外しに来たなオイ! まあ、場を和ませる為の茶番劇はここ迄にして、」と神様が宣言した瞬間、緩みかけていた場の空気が一瞬のうちにピリピリとした空気へと変わる。
「再び問おうぞ! 幼く賢きハイエルフの姫よ!《オヌシはまた禁忌の深淵を覗こうとするのかの?》 特別に許すゆえ、儂の問いに答えよ!」
「・・・・・・・・・・・ ありません。」
「うんうん、日々、深淵はオヌシを観ておる。その事、心しておれ・・・」
「はい、ありがとうございます。・・・」
『うぅん?なんか、ミランダさんと神様って知り合いなのかな?』
「幼く賢きハイエルフの姫よ! 素直に語るが吉じゃ、これは一応に儂からの『久しぶりの神託』じゃ、しかも御利益満載てんこ盛りじゃ!」と神様が言うと、その神様の姿が一瞬で掻き消えてしまった。
神様の姿が消えた途端に、その場に居たヒルド以外の全員が『はあ〜〜〜〜〜〜 』と長い溜息をついたのだった。
その後、私はミランダさんに言い過ぎた事を謝罪され、無事、アパートに帰って来る事は出来たが、
「おかえり、存外に帰って来るのが遅かったのう?」と私のアパートのダイニングキッチンで、自分でお茶を淹れて寛いでいる神様を見て、膝から崩れ落ちてしまった。
因みに、その弾みで私に抱き抱えられてご満悦な5歳児バージョンのヒルドは、ダイニングキッチンの石畳で強かに尾骶骨を打ったのが余程痛かったのか? 両目いっぱいに涙を溜めながら神様の肩をポカポカ叩いてます・・・汗




