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中編③


――結論から言うと、勇者は指輪を嵌めなかった。


例え、王女にどう言いくるめられようが、それだけはしなかった。


指輪なんてものを、王女からしかもシスリーの前で嵌めることなど、勇者は絶対にしたくなかった。


指輪を投げ捨てたい衝動にかられたが、こらえてポケットにしまい込んだ。


そして、目線を合わせないシスリーに近づき、


「元気になったら迎えに来る。いつでも呼んでくれ。……それまで俺は魔物討伐に行く」


強い口調で言い放ち、城を後にした。


王女は、「いつでもお待ちしておりますよ。勇者様。フフ」と微笑を浮かべて勇者を見送った。


☆★☆


シスリーと再び一緒にいる日を夢見て、勇者は魔物討伐を再開した。


だが、半年もの間、討伐を行わなかったため、魔物は雑草の如く各地に繁殖し、国民はその被害に苦しんでいた。


各地から要請を受けて、一つ一つ処理に当たっていたが、ブランクもあり、以前より腕はさらに数段落ちていた。


傷は毎日のように身体のどこかに負い、血を流さない日はない。


おまけに、傷を癒してくれるシスリーも居ない。


だが、勇者に弱音を吐くことは出来なかった。


国民が、魔物に苦しむ民が、勇者に救いを求めていた。


勇者には休暇など無かった。


――弱きを助け、強きを挫く。


彼の信念は、確実に彼を壊していた。


☆★☆


勇者の力が衰える一途を辿る一方で、魔物は繁栄を遂げようとしていた。


進化を遂げ、魔物から魔族へと昇華した種族もいるとかいない、とか。


それらを抑止する力などとうの昔に失せており、国民は魔物に蹂躙され、国土は荒れに荒れていた。


それでも勇者は諦めなかった。


村を巡って、村人に護身術を教え、抵抗する術を伝授するなどをして、策を講じた。


が、まるでそこに狙いを打ったかのように、村は魔物に破壊された。


しかもタイミングはいつも同じで、勇者が村を去った数刻後。


急いで村に引き返した時には、既に遅し。


燃え盛る炎に包まれた村を前にして、勇者は涙を流して、村を当てもなく彷徨った。


生存者を求めて。



――見つけた。


瓦礫の下敷きになり、気絶しているがまだ生きている15に届くか届かないかの少女。


勇者はすぐに瓦礫をどかして、子供を救助した。


(この子の他に生存者は………?)


急いで探索したが、少女以外にはいなかった。


勇者は諦め、少女をおぶって、近隣の診療所まで運んだ。



☆★☆


その少女の名ははカレン。


色白でどこか人間離れした容姿をしていて、将来はとてつもなく美女になるであろう事は想像に難くない。


カレンは、診療所のベッドの上で意識を取り戻した。


勇者は、目を覚ました彼女に体調を気遣う言葉をかけた。


カレンは目をパチリパチリとさせるだけで、状況を飲み込めていない様子だったが、しばらくして、両親の死を直感的に悟ったのか、ワンワン泣き出して、勇者を責めた。


勇者は甘んじてカレンの言葉を黙って聞いていた。


『詐欺師』と言われるまでは。

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