七夕ターニングポイント
年に一度、彦星と織姫が逢瀬を許される特別な日に私、星川あずさはは目の前にいる織元希美とお互いの嫌いなところを言い合っていた。というか、喧嘩していた。
コロナのせいで久々に希美と会えたのに、顔を合わせるといつもこんな調子。ほんとはこんなことに時間を費やしたくないのに。
飯田橋、サクラテラス一階にあるスタバの窓際の席で希美は抹茶フラッペを飲んでいた。私はコーヒージェリー
キャラメルフラペチーノ、限定に弱いんだよね。みんなにもオススメなぐらい美味しいから一度注文してみて。
って、脱線しすぎた。
なんとも気まずい雰囲気に希美はずずっと飲みきっていた。私も私で飲むこと以外やることがない。ほんとに気まずい。
「あのさ、あずさ。その……、言いにくいんだけど……。ごめん、言い過ぎた」
窓の向こうを見ながら謝る希美、照れくさい時に目を合わせないのは彼女らしい。実のところ、言い合っても怒ってるわけではない。楽しい時間をこういう形で消費してしまうことにもったいない。
「私も。せっかく一年ぶりに会えたのに」
「だよね、ははは」
照れくさそうに頬を掻きながら笑う希美。揺れるセミロングの金髪に八重歯を見せながら愛らしく笑う姿はまるで絵に描いたみたいに綺麗で女性の私でも見惚れてしまう。
「希美ってモテるでしょ?」
思ったことがそのまま口に出てしまった。
「モテるけど、好きな人がいるからって言って全部フッてる」
苦笑しながら答えてくれた。こうやって否定しないところは希美らしい。
「って、好きな人いるの!?」
「いるよ、鈍感すぎてイライラするけど」
さらっと認めるんだ、意外。私なんて近寄りがたいって誰も告白なんてしてくれない。心の中で嘆いていると希美が現実に引き戻してくれた。
「お〜い、あずさ〜? またどっか行ってたよ」
「ありがと、心の中で膝抱えてた」
「何それ? ウケるんだけど!」
前かがみになるぐらい笑われてしまった。すると、また窓の向こうを見ながら、何かを確かめるように話しだした。
「……覚えていたらでいいんだけど、あたしが金髪に染めた理由、あずさは覚えてる?」
「覚えてるよ。高校性の時だよね。私が銀髪に染めたからだったっけ、それも翌日に」
強く印象に残っていて、忘れたことはない。だって、翌日に希美が綺麗な金髪に染めて登校してきたから。
「あれはびっくりしたよ、いくら自由な校風だからって二人で呼び出されてさ」
思い出して笑みが溢れた。でも、希美は違った。
「友達だけが理由じゃないよ。わからない?」
突然の質問に溢れていた笑みが影を潜めていく。
「それだけじゃないの?」
わからないことは聞くのが一番。ということで質問返ししてみた。希美がプルプル震えだす。地雷踏んじゃったかな……?
「マジ鈍感、タヒればいいのに」
「さっき仲直りしたのに、また言ったぁ!! あずさは何もわかってな……」
「…き」
言い切る前に希美が何かを口にした。けど、聞こえなかった。
「もう一回いい?」
爆発しそうなぐらい顔が赤くなっていく希美。わけがわからない。すると、突然爆発した。
「っだぁもう!! あんたが好きだからって言ったの!!! 一回で聞けよ!!!! その耳、飾りなの!!!???」
「飾りじゃないわ!!! って、え? なんて???」
好きって言った? どういうこと? ショートしそうなんだけど!!!
頬杖をつきながら窓の向こうをみる希美はボソリともう一度
「だから好きなんだって」
と、告白してくれた。
「って、あずさ? 何固まってんの?」
また心の中に逃げ込んでしまった。告白って何? 付き合いたいとかだっけ? わかんなくなってきた? それも希美だよ? あの希美なんだよ?
希美はショートしていた私の肩を掴んで揺らしてくれた。そのおかげで現実に戻ることができた。
「あ、ありがと。またどっか行ってた」
「ううん、いいよ。たぶん、というか絶対混乱してると思うし答えはまた会った時にでも決まってたら教えてよ」
「じゃあ明後日にまた会えない? それまでに整理つけておくから」
明後日って言いながら、決まってる自信ないんだけど……。
それから私たちはスタバから出て、友達として約束していた服とか見て回って解散した。
「はぁ〜、なんか……。どっと疲れた……」
まさか友達から告白されるなんて思ってもなかった。
受け入れたらどうなるんだろう? てか、そもそも彼氏ができたこともないし。付き合うって何?
「ぬぅあああぁぁぁぁぁ」
声にならない声が漏れる。遠くからお母さんが「うるさいよあんた!!!」って言ってるけど、お母さんは今はいいや。
今日のことを一旦忘れようとLINEニュースを開いた。
「えっ、嘘じゃん」
偶然目に入った緊急事態宣言再発令、それも約束した七月九日から期間は未定って。
「希美の返事、どうすりゃいいのよーーー!!!!!」