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空を愛してはいけません

作者: あいますく

見上げた先には、青空があった。

空、なーんにもない、空。


私は空を見上げていた。


太陽は私を暑く照らしていて、それでも空を見上げるのはやめられなかった。


空には雲一つなかった。


「死せる魂は空高く昇っていくのだ」なんて誰かが言っていた。


そうだとしたら、今彼らはどこにいるのだろう。


この空に隠れられる場所なんてないじゃない。


やっぱり、大人は嘘つきなのかしら。


それとも空の一番奥深くから私たちを見ているのかしら。


一陣の風が吹き抜ける。靡く髪を押さえつけながら、その乾いた風に夏を感じた。


もしも空を海みたいに泳げるなら、きっと遭難してしまうわ。


だって目印の(ブイ)は浮かんでいないし、浮かんでいてもすぐに風にさらわれてしまうもの。


そんなことを考えていると、奥の方から私を呼ぶ声がする。


「ああ、こんなところにいた。早く行かないと授業、遅れちゃうよ?」


もうそんな時間になっていたらしい。


私はこの空を名残惜しく思いながら、彼女に手を引っ張られて、授業に連れていかれる。


-----------------------


授業は退屈なものだった。


窓の外から青空は見えるのかしら。よそ見なんてしたら怒られるから見ないのだけれど。


教師は、陰で魔女って呼ばれる鬼婆だもの。授業に集中してないと……


-----------------------


就業のベルが鳴らされる。魔女はいつものむっとした表情で出ていく。


授業の記憶がない。寝ていたか、とるに足らない物だったのか、


「魔女に薬を飲まされた、か、なんてね」


部屋には私一人が残された。このひとりの時間が私の至福の時。


と、出口付近に小瓶を見つけた。


「本当に魔女の薬……?」


人魚姫だったら足が生えるんでしょうけど、私は翼が生えてほしい。


あの高い青空に届くほど羽ばたける翼。


空に飛び込んだらどんな気分なのかしら。


そんな空想をしていると、魔女が帰ってくる。


「ここに小瓶が落ちて……って、拾っていましたか。ありがとうございます」


「ねえ、これは何の薬なの?」


そう言いながら小瓶を手渡すと、魔女の顔は一層強張る。


「薬ではありませんよ。少なくとも、今の貴女にとっては」


そう言ってそそくさと部屋から出ていった。何なの今の。


-----------------------


私はまた、空を見ていた。


今日は雲が流れていた。あの上にご先祖様とか神様がいるのかしら。


でも、ご先祖様も神様と話を合わせるのは大変だろうな。


同じ種族でも年齢が違えば話は全然合わないんだもの。


神様とのお話なんて成り立たないに決まってるわ。


なんて。


一度陸に上がった人魚は二度と海に戻れない。


そんな天罰を考えた神様なんだから、きっと性格はサイアクだわ。


そんなことを思っていたら、急に水平線のから雲が伸びてくる。


あ、これが天罰か。ってことは、やっぱり図星だったんだな。


そうは思っても自然に逆らえるわけもなく。


雲に背を向けて、振り返って天に向かいベーっ、と舌を出して、自分の家に帰っていった。


-----------------------


ランタンに照らされ、薄暗い私の部屋。周囲からの生活音が私の子守歌になってもう半年。


私の通う学校はちょっとお嬢様で、全寮制。


暗いのは嫌だけど、ここだけは私のお城で、私は一国一城のお姫様。


なんて。そんな空想ばかりしているから、お姫様になれないのよね。


コンコン、とノックが響く。


「ごめんなさいね、こんな時間に」


戸を開けた先にいたのは魔女だった。なんで来たのよ、なんて言えず。


「この間の小瓶、これをあなたに差し上げます」


そう言って紫色の小瓶が手渡された。


「それは惑わす毒。使った者に夢を見せるというものです。なぜ、と思われるかもしれませんが、これは国を追われた貴女のお母様の物。なかなか許可が下りませんでしたが、本来の、正当な継承者である貴女に渡すのが筋でしょう」


「ええっ!?お母様の?」


「はい。貴女のお母様が国を追われるはめになった原因がこれを使ったせい、とは言えませんが、一因ではあるでしょう」


そう言うと、いつも以上のしかめっ面で、


「決して、使ってはなりませんよ」


と言い残して去っていった。


部屋にあるのは、私と小瓶。


夢を見るのなら、私が物心つく前にいなくなった母親の夢なのかしら。


でも、そんなのよくわからないし、翼が生える夢が見たいわ。


じっ、と小瓶を見る。中身は半分くらいの空気と、半分くらいの液体。


先の半分はお母様が使ったのかしら。それとも適当を言われただけで、実は中身は水だったりして。


窓を開けて、上の方を見る。


暗くて、よくわかんない。ぼんやりと、月が見えてるような。


夢の中だけでいいから、あの空の中へ行ってみたい。


夢だってわかっていたら、すぐに目覚められるもの。


窓際に腰掛け、小瓶を開ける。変な匂い。十年以上前のものだもの。


隣の部屋から明かりが消えて、辺りは真っ暗。私の部屋のランタンだけが仄かに手元を照らしている。


ええい、ままよ。くっ、と飲み込んだ。


-----------------------


何も変わらないじゃない。ちょっとがっかり。


ベッドに入り、ランタンを消す。


おやすみなさい。いい夢が見れますように。


願わくば、足だけは生えていませんように。


-----------------------


強い光で目を覚ました。窓の外がひどく明るい。


窓を開けた。そこには太陽が差し込み、道ができていた。


ああ、これが夢なのかしら。それとも寝坊?


なんだかどうでもよくなってきた。私は光に誘われて進んでいく。


水面に顔を出した。空にはまだ(きざはし)が残っている。


でも、空は泳げない。


そう思いながらも尾ひれをえいやっ、と振るってみた。


私は空に浮いていた。もう一振りしてみた。まだ高く昇った。


私、空を泳いじゃった。


人間たちの街が見える。そう言えば、人間は私たちの歌に誘われて死ぬんだっけ。


だったら私は空の歌に誘われて、このまま死んじゃうのかも。


でも、今だけはいいよね。夢だし。


どんどん空の奥深くに潜っていく。


他の誰も届いたことのない場所にたどり着ける。


大きな鳥が轟音と共に私の横を通り過ぎる。中の人間はぎょっとしてた。


まだ深く泳げる。


まだ遠くまで行ける。


今まで見上げてた空の中にいる。下を見たら夢が覚めちゃいそうだから、見ない。


月がこんなに大きくはっきりと見える。水の中からじゃよく見えないものね。


ふう、と一息。


そろそろ疲れたし、目覚めようかな。


……


どうやって?


気づかなかったけど、体はだんだん空の底に沈んでいく。


えっ、嘘でしょ?もしかして悪夢?


それとも、


それとも、現実、なの?


-----------------------


必死に泳いだ。でも、疲れて、疲れ果てて。今は光の無い、寒い空の底。


どっちが上で、どっちが下かわかんない。


空って、つまんないな。


空の底には月も太陽も星もなくて。


あれ、じゃあ、どこにあるんだろう。


一瞬、空が揺らめいた。気がした。


そっちの方向に、あるの?


手を伸ばしてみる。私の手がわずかに見える。


そっちが光の方。


帰れなくても、暗いところは、嫌だから。


疲れた体を必死で動かして、光の方へ。揺らめきは強くなる。


太陽の微かな、けれど暖かな光が見える。


届いて、欲しくて。


熱くなっていく。息ができなくなっていく。


焼かれていく。前へ、進んでいく。


-----------------------


ここは、人魚の住む王国。


悪い魔女はいないけれど、好奇心は人魚を殺す。


だから、王国にはこういう言葉がありました。


「人間を愛してはいけません」


一人の教師は悲しい表情をして、そこに書き加えました。


「空を愛してはいけません」

私が作詞した曲(公開されてません)から着想を得て5割くらい書き直しました。

公開されたら公式二次小説になってしまうので、タグは一応つけておきました。


あと、人魚姫の二次創作ということにもなるんですかね?オマージュ程度にしたつもりですが。

小説家になろう、よくわからん。

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