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難度SSSダンジョン最下層で発見された░░░░に、命を狙われている件について。  作者: スサノワ
追記事項~その2

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第六話

 縦も横も巨大なキノコで、みっちりと埋まってる。

 ――ボッシュゴッガァァァァッァンッ!

 そんな中を、隊長の爆発魔法で無理矢理進んでいくロットリンデ隊。


 プスプスプスプス。

 ドカドカドカッ――――焦げた横穴を、悪い顔の冒険者達が切りつけ、一瞬で立派な通路にしてしまう。

 見た目も中身も悪党気味だけど、キャンプ設営に駆り出されただけあって、彼らは腕が良かった。


「おかしらー、なんか旨そうなニオイがしやすぜ?」

「ほんとだ。おかしら、お腹空いたわー」

「あっしもでさぁ」


「どわれが、おかしらか! サーをつけなさい!」

「「「「「「サーイェッサー!」」」」」」

 ロットリンデさんが言わせてる言葉の意味は分からない。本人もうろ覚えで使ってるみたいだし。

 けど、それが軍隊式の規律であることは伝わってくる。

 でも、ロットリンデさんがいくらオークみたいな顔で睨み付けたところで、僕からしたらロットリンデさんで有ることに変わりない。むしろ、その形相が僕に向いてない分、居心地良い。


「ロットリンデー、他のみんなは~?」

「知りませんわよ。でも逃げ遅れたのは私たちだけだから、どうにか無事じゃないかしら…………なんか、本当にお腹空いてきましたわ…………」

 ベリベリッ……パクリ。モグモグ、ごくん。

「あら、イケるわよこのカベ? ほらっ」

 ――ムグリ。モグモグ、ごくん。

「ホントだ旨ぇー!」

 むしり取った焦げたカベを、無理矢理口に押し込まれたけど――ステーキの付け合わせによく合いそうな上品な味だった。


「「「「「なんだって!?」」」」」

 俺にもくれ、アタイにも、あっしにもくだせえ!

 僕に群がらなくても幾らでも生えてるって言うか――悪人顔を責める気は無いけど……少し怖い。

「その辺、むしればイイじゃないですか!」

 ソウだな。ソウわね。じゃあ、あっしも。

 思い思いに通路を拡張し始める無軌道な冒険者達。


「ちょっと、お待ちなさい!」

 隊長の鋭い号令がかかり、途端に緊迫の度合いを高めていく菌糸類通路(キノコダンジョン)

 そりゃそうだ。今はモクブートとの一大決戦中で――


「――ちゃんと火を通してからになさい。いま()いてさしあげあげますから」


      §


「なんっか、飲み物欲しーですわねー。あ、そうだジュークの回復薬(ポーション)があるじゃありませんの」

 なんて言って、ロットリンデさんが僕の弾帯を掴んだとき、ロットリンデ隊の頭上が抜けた。


「――――何をしているのですか?」

 苦い顔の小柄な女性。

 隣にはワーフさんや、青年の顔もあった。

 よかった、みんな無事だったみたいだ。


「どうかされましたかしらぁ? 皆さんお揃いで……モグモグ、うふふー♪」

 あー、あの顔は食堂が終わった後に、美味しいまかない料理を食べて完全に気が緩んでる時の顔だ。


「いえまあ、無事なら無事でいいのですが。それ……何を、お召し上がりに?」

 小柄な女性の疑問はもっともだ。焦げたキノコ通路の真ん中で、焦げた何かを旨い旨いと食べ散らかしてるのだから。

「ああコレ、斑色のどぎついのが塩で。真っ白いのはジューク特製のソッ草ソースがとっても合うんですのよ、うふふー♪」

 あれ? すこしご機嫌すぎる気もしてきた。

 あ、いつの間にか回復薬(ポーション)の空き瓶が転がってる。

 まさか、中身お酒じゃないよなっ!?

 もし、お酒だったとしても、小瓶ひとつでこんなに出来上がらないだろうけど――


「モクブート達は、どうなったんですか!?」

「ハハッ、おうボウズ。それがよ、群れを覆い隠してた〝一番でっけーキノコ〟を切ってみたらよ――」

「――ひょっとしたらぁ、うふふー♪ もぬけの殻でしたのかしらぁ~? ……モグモグ」

 予言者ロットリンデのキノコをつまむ手は止まらない。


「よっと――アナタには分かっていたのですか?」

 大剣をキノコの天井に突き刺し、切っ先に乗ってザクザクと降りてくる青年。

 ワーフさんほどじゃなくてもパワーファイターと思ってたけど、随分と器用だな。


「ええまあ、昔似たようなことが王都であったのを思い出しましてー、うふふー♪ ……モグモグ♪」

「王都……いやまさかな」

 なんか考え込む青年。そしてご令嬢の食欲に際限はなかった。

 あとで、「なんで止めて下さらなかったのっ!」て爆発魔法で攻撃されそうだから、口を挟んでおく。


「ロットリンデ、太るよ? ……ぼそり」

「なっ、なななな、何ですって! 痩身は淑女のたしなみですわよ! この私、ロットリンデ・ナァク・ルシランツェルの名にかけて、1ダルトたりとも肥えたりなんて致しませんことよーーーーっ!?」


 ――――――!!!!

 あわてて、ロットリンデさんの口を押さえようとしたけど軽くひねられて――ムギュリ!

 背中に座られてしまった。


 ――――ガギィンッ!

 ――――シャキンッ!

 ――――ガッシャリッ!

 間近で大剣が、頭上で魔法杖と鉄杭が構えられる気配。


「なんだなんだぁ、俺っちたちのおかしらに文句有んスかぁ!?」

 ソウだぜ! ソウわよ! あっしもでさぁ!

「サーがぬけてましてよ? ……モグモグ♪」

「「「「「サーイェッサー!」」」」」

 悪虐令嬢・吸血鬼ロットリンデの悪名が轟いていたのは結構昔らしく、最近生まれた僕もトゥナも聞いたことがなかった。


 ティーナさんは当時の本人と会ったこともあって、その上で「まー、いまのロットリンデちゃんはジュークという魔術的なでっかい(・・・・)ハンデ付きだから、せいぜい出来てもフカフ村四分の一壊滅が関の山なので、心配要りませんよぉ」なんて言ってたし。

 たとえロットリンデさんが本当に悪逆非道だったとしても、人類に対してソレほどの脅威ではないはず。たぶん。


 それでも、人を束ねる青年達やワーフさんには〝僕に座る女性のフルネーム〟に聞き覚えが有り、こうして即時敵対されるくらいには、〝何かをやった〟ことも確かっぽい。


 ――ど、どうしよう!?


「あ、あの、ロットリンデさんは魔物みたいに意地悪な顔をする時があるけど、根は優しく……もないけど決して悪い魔物じゃなくて――――」

「どわれが魔物か! まったく、弁解ベタにもほどがありましてよ?」


「そーだぜー、ジュークのぼっちゃん。おかしらが本気で怒ったらこんなもんじゃねーぜ」

「ソウわよ。魔物なんか目じゃねーわよ」

「あっしも、そう思いまさぁ」


「アナタが彼の悪名高い、〝悪虐令嬢〟というのは確かか!? とても光陣暦50年生まれには見えないが!?」

 ――ヴッヴォウゥン!

 あーなんか大剣が、凄い色に光りだした。


「フフッ、さすがは宮廷魔導師、バレちゃぁ仕方が有りませんわっ! そうよ私が、かの悪名高い〝悪逆令嬢、吸血姫ロットリンデ〟よ!」

 ――ボムボムボボボボボボォム、ボボボムッワン!

 彼女(ロットリンデ)の手から噴き出す大爆煙。

 ロットリンデさんの口調は、どこか芝居じみてるって言うか、魔物役者としての血がソウさせるのかも知れないけど。


「……宮廷魔導師? ティーナさんはいま居ないよ?」

「おだまりなさい、舌を噛みますわよ」

 細腕が僕を持ち上げたと思ったら、放り投げられた。


「ホソヒゲ、バクチの両名はそのままジュークを確保。全員ついてきなさーい」

 ウェェェェェィ!

 悪虐令嬢(ロットリンデ)を先頭に、僕を抱えたロットリンデ隊は、菌糸類通路(キノコダンジョン)を一目散に掘り進み始めた。


      §


「ロットリンデー。そろそろ自分で走るよー」

「もう少しお待ちなさい。いま迷子になられると面倒ですのよ」

「こんな一本道で迷子になんてならないよう。降ろしてよー」


「ハハッ、そりゃ無理な相談だぜボウズ。お前さん夜目が利かねえだろ?」


「その声――ワーフさん!? いつの間に!?」

「腕輪時間で四分の一目盛りほど前からですわ」

「でも、ワーフさんもロットリンデを、やっつけようとしてたんじゃ!?」


「ハハッ、やっつけるって、ボウズ。お嬢ちゃんは魔物じゃねえだろ?」

「でも、ロットリンデは魔物役者の吸血鬼で大飯ぐらいの――HP18/51(いって)!

 暗闇から伸びてきた白い手に顔をはたかれた。


「ハハッ、悪虐令嬢の名は、いろんな意味で年季がはいってるってこった。あとで説明してやる」

「レディーに向かって〝年季がはいってる〟ですって、聞き捨てなりませんでしてよー」

 もう、腕輪時間で一目盛り分。両手の厚み(ツーハンド)のステーキがじっくりと焼き上がるくらいの時間、彼女は爆発魔法を連発している。

 ティーナさんだって草刈りに魔法を使ったとき、十分の二目盛りくらいで休憩してた。

 それをこの悪虐令嬢でお馴染みのお嬢様は、回復薬(小瓶)も増強薬(大瓶)もなしに打ち続けている。


「ハハッ、お嬢ちゃんにはあとで詳しいはなしを聞かせてもらわなきゃな。けどボウズ、『夜眼』のひとつも使えねえんじゃ、この先、このお嬢ちゃんに付いてくのは至難の業だぜ?」

 スグそばから厳つい声が聞こえる。ガチャガチャとした装備や鉄杭が鳴る音が聞こえるだけで、暗闇しかない。


 冒険者さん達は商売柄|(?)、夜目が利くんだとしても、ワーフさんだってこうして使えている。

 冒険者としてはポピュラーなスキルみたいだ。


      §


「こうかな――――?」

 ギュヴァギギギギィィィィィィィィン!!


 ――――ボッガァァァァァァァァァン!

「ぅ()っぶねーー! ぼっちゃん、あっしを殺す気ですかい!?」

 横っ飛びに僕の視線を避けた〝バクチ〟さんが怒ってる。

 そりゃそうだ、さっきまで彼が腰掛けていた大きな岩が丸ごと粉砕されている。


「ハハッ! さすがは、吸血鬼ロットリンデの弟子って事……か? しかし旨えなこのキノコ……モグモグ♪」

「私、弟子を取ったことなど有りませんでしてよ。ああでも少し前、素質がある小っさいのに教えましたけど」

 少し前ってのはウン十年も昔のことで、小っさいのってのはティーナさんのことだ。

 いまはボバボーンで、全然小さくないけど。


 そしてココは、キノコが生えてない大きな隙間みたいな場所で、追っ手も撒いたみたいだしと休憩中。


「ふふふ、丁度良い腹ごなしになりそうですわねー♪」

 なんて言って、ロットリンデさんが両手をニギニギしながらにじり寄ってくる。

 その瞳には妖しい光が灯ってる。

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