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第五話

「隊長、哨戒中の斥候部隊からの報告です。キャンプへ進攻するモンスターの群れが確認されたとの事です」

「わかった。種類と数は?」

 大剣を背中に背負う青年。


「成体モクブートが少なくとも20体以上。数体の超大型が先頭を走っています」

「20体以上ですって!? 到達予定時刻は?」

 流線形で先端に特大の鉱石が埋め込まれた魔法杖を、コートの裏から抜き出す小柄な女性。

「腕輪時間で03:06。約10分後です」


「よーし! 冒険者は全員、戦闘準備。学者と御付きのポーターはフカフ村まで退避してくれ!」

 村までは結構な距離がある。

「護衛部隊の半分を、退避中の護衛に当ててください」

 青年達の直属の人員が、統率の取れた動きをみせる。

 鉄槍が付いたバリケードが設置され、ツタを切って落とし穴も作られた。


 僕は、他の冒険者達の手際を見てるので、精一杯(せいいっぱい)

 ロットリンデさんはツタを切るのに駆り出されたりしたけど、スグ戻ってきた。



 まだ、迎撃のための配置が決まってない冒険者たちが、テーブルの周りに集まった。

 現在の状況は〝方陣記述魔法(ピクトペンマジック)〟の光跡によって、テーブル上に再構成(・・・)されている。


 元になる情報は、『遠見』の方陣結界(ピクトグラム)で眼力を強化した斥候部隊の視界……なんだそうだ。

「へえ、私達ほどじゃありませんけど……リンクしてる?」

 何かに感心するロットリンデさん。ふーん、ティーナさんなら分かるんだろうけど――。


 現在地点(キャンプ)を表す、大きな『(さんかく)』。

 離れていく小さな点の集まりは、出発したばかりの学者や護衛達だ。


 その反対側のテーブルの縁――ワワワワッ♪

 現れたのは大きな『(まる)』。

 もちろん、コッチはモクブートだ。その数が増えていく。


 ツタで出来た道は、森の地表から約10バーテル高いところにある。

 ――(メキメキメキ、ドスズン)。

 木々を薙ぎ倒す音が遠くから聞こえてきた。

 先頭の特大サイズの『(モクブート)』を指先で叩く小柄な女性。


 ◎から横棒が伸びて、詳しい情報が書き込まれていく。

 すごく便利だな、あとでティーナさんかロットリンデさんに聞いてみよう。

 ◎ーーー全長15バーテル

     速度30キャサ

     推定LV46


 たぶん、大森林の中でも一番大きなヤツっぽい。

 まさにモクブートの王様だ。

 そしてこの巨体が、ツタを登れるとは思えない。


 地表を走り木々を粉砕しながら、一直線にこちらへ向かってきているのだ。

 デコボコの悪路や、自分の全長以上の太さの大木をモノともせずに突き進む、凄まじい勢い。

 このまま、なだれ込まれたらキャンプだけじゃなく、進行方向にあるフカフ村も壊滅しかねない。


      §


 ――メキメキメキ、ドスズン。

 キャンプ正面。遠くの木々が、へし折れていく。


「総員! モクブートの姿が見えたら総攻撃だ!」

 そう言う彼の得物は大剣だ。どれだけの手練でも、有効射程はせいぜい5バーテル。

 ウェェェェーイ!

 彼らの直属ではない冒険者達の返事は、すこし間が抜けていた。


「おそらく余力はありません。全弾撃ち尽くして下さい! なお、弾薬と各種増強薬は全てコチラが持ちます」

 小柄な女性の号令で、冒険者達の足下に支給された弾薬や、魔力となる血流を回復させる大瓶が積み上げられた。

 ウォォォォォォォォーッ!

 正式な礼や軍隊式の作法にうとい冒険者達でも、〝全部持ち〟なんて言葉には即座に反応する。


 このクエストの発注者でもある彼らのギルドの背後には、〝オダイジンさん〟と同じくらいのお金持ちがいるのだろう。

 僕達が担いできた物資を、全部使いきる勢いだ。


 小柄な女性が、魔法杖を正面に向ける。

 魔法杖を使った方陣結界(ピクトグラム)の有効射程は100バーテル程度有る。

 モクブート達が視界に入ってから、どれだけ遠距離攻撃を持続できるかにかかっているっぽい?


「私も、もうすこし長いのが(・・・・)欲しいわね」

 ロットリンデさんの本来、不発(ハズレ)でしかない爆発魔法の有効射程は、大剣に毛が生えた程度だ。

 長い杖を使ったからといって伸びるのは、杖の長さ程度だけど……気持ちは分かる。


      §


「極大魔法記述開始!」

 小柄な女性を中心にした10人程度の円陣。

 やたらと大きな光の平面を、よってたかって埋め尽くしていく。

 〝方陣記述魔法(ピクトペンマジック)〟を大人数で使うのなんて初めて見た。


「極大魔法? 聞いたことないわね。やっぱり〝方律(ほうりつ)〟が書き換えられてる? ブツブツ……複数の方陣結界(ピクトグラム)を連結した広域型記述拡張……ブツブツ……私とジュークの〝血の方陣結界(ブラッドグラム)をほどくヒントになるんじゃないかしら――」

 コッチをチラリと見て、ブツブツ一人言を言うロットリンデさん。



 ――――ヴァパァァァァァァァァァァッ♪

 開始される、珍しいっぽい遠距離攻撃。

 ソレは10バーテル下の地表に現れた。


 ――――ヴォン!

 ココからだと真下を見ることは出来ない。

 けど浮き上がる光の強さから、それが大きな魔力を秘めていることが把握できる。


 ヴォ、ヴォ、ヴォ、ヴォ、ヴォ、ヴォ、ヴォ――――

 強力な方陣結界(ピクトグラム)が次々に現れ、林立する大樹を縫うように連なっていく。

 僕が思ってた攻撃魔法とは違うけど――――なんか地面が揺れてる?


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ――――チリッ!

 光の軌跡は途切れることなく、巨獣の鼻先へ到達した。

 ――――ゴヴァァァァァァ!

 一斉に発動する方陣結界(ピクトグラム)


 ――――メキメキメキ!

 大地が割れ、立ち並ぶ大樹を揺さぶる。

 ドゴゴゴッ、ゴヴァゴヴァヴァヴァッ――――!

 蛇行していた亀裂が一直線になり(・・・・・・)、大きな口を開けた。

 牙のような断崖の輪郭が、巨獣や岩石や大木を、すべて呑み込んでいく。


 ブモー、プギー、ブブーーーーモッ!

 巨獣達の断末魔。ティーナさんなら絶対、食材として利用するために地割れに落としたりしない。

「あら、もったいないですわね」

 ロットリンデさんも同意見だった。

 僕達は新米だけど、コッヘル商会の従業員(へいたい)として、少しずつだけど成長している。


 学者コートの小柄な魔導師による、〝地割れ〟攻撃は凄まじかった。

 それでも、僕たちの正面。

 亀裂よりも大きな超特大の巨獣が、亀裂に落ちまいと踏ん張っているのが見えた。


「敵、残数4――――クッ!」

 ヒザをつく小柄な魔導師。

 亀裂を押し広げていた巨大な方陣結界(ピクトグラム)が――――パリパリパリパリィンッ♪

 まるで光の川のようだった文様が壊れていく。


「地割れが戻るっ! 全員、何かにつかまれっ!」

 大剣を地面(ツタ)に突き立てた青年が叫ぶ。


 ――――――――ゴゴヴァッゴガギャッ!

 大地が震える。

 割れた地面が目と鼻の先で閉じたのだ。

 ――――――――ドズズズズズズズムン!

 その衝撃は凄まじかった。


「ぐえっ!」

 倒れた僕の背中にロットリンデさんが尻餅をついた――HP26/51(ムギュー)!

「なんですのっ!? いくじのないこと! わ、私はソコまで重くありませんですわよっ!?」

「いいから、どいてくだ……さい」

 男なら、か弱い女性を抱きかかえられる程度には、体を鍛えておきたい。

 それが冒険者ならなおさらだ。


 ブーモォォォォォッ!

 地割れに足を挟まれたモクブートが咆哮(ほうこう)する。

 木々は目の前の一本を残して、全てなぎ払われていた。

 冒険者達の陣形は、その木を避け左右に展開されていて、射線を塞ぐモノはない。


「出し惜しみは無しだっ! 全部叩き込めーー!」

 へたり込んでしまった小柄な女性を抱きかかえた青年が、号令をかける。

 そうそう、冒険者ならこういうの。


 僕だってあーなりたい。

 ロットリンデさんの細腕が、僕をひょいっと持ち上げ――ストン。

 あら、お熱いですわね。青年と女性をジト眼で見やるご令嬢が、フンと鼻息をついた。


      §


 ヒュボッガァァァン! ヴァヴァリバリバリィ!

 巨獣達の足下から噴き出す、火炎や雷撃。


 ヒュヒュヒュヒュン!

 ゴゴゴゴッガァァン!

 シュカシュカ、シュカシュカァン!

 同時に、氷塊や鉄塊や光の矢が、上空からも降り注ぐ。


 ブォォォォン――――長大なツノを振りかぶる最前列の超巨体。

 ボゴン、ガキン、ゴガガン、ボゴゴゴゴゴォッ!

 長大な牙でなぎ払われる上空からの攻撃。

 そして、返す刀で地面に叩きつけられる、大樹の枝より太い象牙質――――――――ドガァァァァァァァァァァァァァァン!


 巻き上がる土砂!

 火山が噴火したかのような土砂が晴れるには、時間が掛かった。


 月明かりが巨獣を照らす。

 ブモォーーーーーッ!

 額のあたりの毛先が少し焦げただけで、ピンピンしてる。

 ちなみに、毛と言っても間違いなく、僕の腕より太い。


「あわわっ、全然効いてない!?」

 慌てふためく僕の尻を、魔法杖に付いた鉄鋲で――HP19/51(グサリ)!

「なさけない、まだまだコレからですわよ!」

 なんて言う淑女の顔が引きつってる。


 冒険者達の渾身の一斉攻撃は、たった一撃で粉砕された。


 〝森の主(ファローモ)〟もツノで、トゥナのナイフをなぎ払ってた。

 大森林の動物は無抵抗にやられてくれたりはしない。

 あのサイズまで育ってきた事実が、その利口さを証明している。


 ブモッボファッ、モゴファヴォファァァァァァァァァァッ――――!

 凄まじい咆哮(ほうこう)


「――敵、残数変わらず!」

 後ろに下がった小柄な女性が報告する。

「射撃部隊前へ!」

 大剣を二つ折れの長銃に持ち替える青年――――ガシャリ♪

 ガシャガシャガシャリッ♪

 青年の周囲に密集した冒険者達が、銃を引き延ばして発射態勢を整えた。


 アレだけの凄まじい魔法攻撃に耐えた標的(モクブート)にライフルの弾丸は、とても有効な攻撃とは思えない。

 それでも、近接攻撃がメインの冒険者達の戦力を遊ばせておくよりはマシだし、彼らの持つ長銃(ソレ)はフカフ村の冒険者達が使ってるヤツと比べると倍くらいの長さがあった。


 ロットリンデさんが耳を塞ぐ。

 僕も息をのんだけど、聞こえてきたのは発射音じゃなくて――――――――――――


 ブモッボファッ、モゴファヴォファァァァァァァァァァッ――――!?

 ブモッボファッ、モゴファヴォファァァァァァァァァァッ――――!?

 ブモッボファッ、モゴファヴォファァァァァァァァァァッ――――!?

 3連続の凄まじい咆哮(ほうこう)


 最大級のモクブートが、変な鳴き方をした直後。

 キャンプと巨獣の間――――ボッギュヴァ!

 何かが炸裂した!


 ヴォギャリン、ヴォブルァン、ヴォゴルァン!

 不気味な破裂音。それは――――

「なんですのアレ!? ――キノコ?」

 そう、モクブート達の周囲に現れたのは、身の丈10バーテルオーバーの極彩色。

 一番巨大なモクブートの頭頂部以外をすべて覆い隠した。


「「まさか――詠唱魔法!?」」

 小柄な女性と、お嬢様の声が重なった。


 たしかにキノコが出現する直前に、地面が光り輝いている。

 そしてソコから毒々しい色のキノコが出現する度に、弾け飛ぶ背が低い茂みや岩石。

「あぶなっ!」

 ひと抱えはある大石が僕のスグ横に落ちた。

 あんなのを喰らったら一撃で死んでしまう。

 僕は、回復薬(ポーション)蘇生薬(エリクサー)が詰まった弾帯を握りしめた。


 ブモッボファッ、ブモッボファッ、モゴファヴォファァァァァァァァァァッ――――!?

 群れをキノコで覆い隠しても、なお止まらない咆哮(ほうこう)

 揺れる音階、不思議な鳴き声。

 極彩色がキャンプに向かって押し寄せる!


 散乱していた弾薬や増強薬入りの木箱、盾や槍やバリケードが一瞬でキノコになった。


「「「「「「「「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」

 僕も逃げたけど、ツタに足を取られてすっ転んだ。

 キノコにされる直前、細い腕に持ち上げられ――――ボッギュヴァ!


      §


 ――――起きなさい、ジューク!」

 ぱしん、ぺしん!

「……い、痛い。ひどいよ、ロットリンデさん」

 頬を押さえ体を起こすと、ソコはさっき作戦会議をした丸太小屋の中だった。

 他のみんなはどうなったんだろう。


「やっぱり、ジュークは本格的に鍛えないとダメね」

 牙を剥き、人差し指を突き出す、ご令嬢ロットリンデ。

 そして、その背後には――悪い顔をした数名の冒険者達がいた。

 彼らは、僕達を襲ってきた冒険者達だった。

 既に縄は解かれ、それぞれ得物(ぶき)を手にしている。


「それとアナタ達、あとでお説教いたしますから、そのおつもりで。……逃げたら承知致しませんわよ」

 ロットリンデさんは、僕達よりよっぽど手練なハズの冒険者達をオークみたいな顔で威圧した。

 やっぱり、前世は大猿か魔物かオークだったんだと思う。


「わかった。冒険者の魂に誓う」「これからは心を入れ替えると約束する」「お説教大好き」

「お返事は、額に手を当てて〝サーイエッサー!〟と唱えなさい。それと改心する必要はありません。ただ、必ず生き延びて私の小言を聞きに来なさい。おわかり?」


「「「「「さー、いえっ、さー!」」」」」

 オデコに手刀を当てる、変なポーズ。

 なんでか、僕までやらされた。


「じゃ、ついてきなさい」

 冒険者達が、僕達の後に付いてくる。

 さながら、ロットリンデ隊だな……僕も含めて。


 ロットリンデさんの爆発(ハズレ)魔法が、キノコで埋め尽くされた出入口を吹き飛ばした。

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