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モテ期なんて来なくていい

月曜の朝。俺は月曜特有の憂鬱な気持ちを感じながら目を覚ます。一番布団から出たくない曜日だろう。外は雪が降り積もり、寒い。布団と学校へ行きたいよ。学校に行きたい気持ちがあるだけ褒めてほしい。

 俺はゆっくりと寝返りを打ち、カーテンから入ってきているまぶしい光を浴びて目を覚まそうとする。すると、そこにはスマホを構えているつむぎの姿があった。


「は?」


 俺は思わず声が出る。何故ここにこいつがいるんだ。なに人の部屋に侵入してるんだ。俺は全然働かない頭を必死に働かせ状況を理解しようとしていた。


「あ……結人ゆいとおはよう」


「おはよう」


 条件反射的に返事を返してしまった。


「じゃあ、結人。下で待ってるから、早く学校の準備してね」


 つむぎはそそくさと扉の方へ向かっていく。俺は、紬を取り押さえるために布団を思いきり投げつけた。


    ◆


「で、俺の部屋にいた理由を聞こうか」


 俺は結局取り逃がし、登校中に事情聴取をしていた。紬は全く悪いと思ってないのかニコニコしている。


「それがね、結人朗報よ!」


「何が朗報だ」


「実はね、今日部屋で、結人の寝顔を写真に取ってたのよ」


 どこが朗報だ。デメリットしかないだろ。


「それを何に使うんだよ……ネットにだけは上げるなよ? デジタルタトゥーってやつになるから」


「安心して。友達に見せるだけだから」


「え、普通に嫌なんだけど」


 何故友達に寝顔を見られなきゃならない。


「そんなこと言わないの。あのね、その友達に頼まれたのよ」


「は?」


「その子がね、結人と私の関係をしつこく聞いてきてね? それで、結人の寝顔を取ってきてよと言われたのよ。これ、きっと結人に脈ありよ」


 いや、普通に俺たちの関係を気になってる人なんじゃないか?


「で、俺の寝顔を見せると」


「うん。何枚か取ったから、一番かっこいいやつ見せるから安心してね。あ、二人の仲取り持ってあげるから期待しといて」


 つむぎはテンションが上がっているのか、スキップして鼻歌を歌い先に行ってしまう。


「俺は別に仲を取り持って欲しいなんて思ってないぞ」


「そんなこと言わないの。結人は女の子の気配なかったし良いじゃない!」


 それは絶対お前が近くにいるからだと思うぞ。しょっちゅう女子といる男にどうやって好かれようとするんだよ。お前の容姿の良さを自覚すべきだ。


    ◆


「おい結人、どうした眠そうだな」


 放課後、またまた机で寝ていると、永倉が話しかけてくる。


「ちょっとな。やはり、睡眠時間は十時間くらいほしいよな」


「なんだ。夜遅くまで起きてたのか。嫁さんと」


「一人で読書してたんだよ」


 紬を嫁さん呼びするイジリを無視し俺は机の上の本を指さす。永倉は興味深そうにその本を眺める。


「えっと? 『分かりやすい心理学。これであなたも異性をメロメロ』か。なんだ、嫁さん差し置いて好きな人でも出来たのか」


「違う。これは紬のためだ。あいつは、自身の見た目の良さとコミュ力と社交性を自覚してない。だからか、男は寄り付かないし、人を勘違いさせるんだ。だから、そろそろあいつの将来のために調べておこうと思ってな」


「なんだよ惚気か」


「どこがだよ」


 永倉は深いため息をついて、俺に同情の視線を送ってくる。


「結人。お前は、もうちょっと自覚すべきだ」


「俺ほど客観的に見れてる人間はいないと思う」


「凄い自信だな」


「当たり前だろ」


 俺はその本を手に持ち、永倉に熱弁をする。


「この本に、『共感するということはとても大事です』と書かれていた。俺は紬の話に共感から入るし、しっかり話を聞いてやるんだ」


「はいはいそうかよ。お幸せにな」


 永倉は、「この後、彼女とカラオケ行くから」と行ってしまった。なんだよ。面白くない。カラオケなんて、ゲーム機でできる時代だろ。しょっちゅう紬は家でやってるぞ。


「さて、俺も帰ろうかなぁ」


 俺は帰るために、教室の端で友達と話していた紬に話しかけに行く。いつも、帰りの予定などを聞いてから計画を立てるのだ。


「紬。今日どうするんだ?」


「あ、噂をすれば結人ゆいと!」


 噂? つむぎは何言ってたんだろう。


「結人、あたしも帰るけどさ、今日は友達も一緒に良い?」


 紬は俺の返事を聞く前に、「じゃあ行きましょう」と紬の隣にいた小柄な女の子を引っ張っていく。

 俺は、その子と紬の後ろに付いて行く。どうやら、この子が一緒に帰る子らしい。


    ◆


 俺たちは家に向かって歩き出した。この子も途中まで同じ方向らしい。


「結人。この子が、寝顔を見たがっていたのよ」


 紬は俺に耳打ちしてくる。

 へえ。この子がねぇ。身長は俺たちより頭一つ分小さく、髪は全体的に長い。そして丸眼鏡。紬とは真逆のタイプっぽいな。お淑やかな感じだ。


「君の名前はなんていうの?」


「……秋元奈緒あきもとなおです」


 秋元奈緒か。確か何回か同じグループになって話したことはあったような……


「え、結人もしかして奈緒ちゃんの名前を知らなかったの?」


「クラスメイトの名前なんて覚えてない」


「記憶力赤ちゃんね」


 なんだこいつ俺をキレさせたいのか? 友好関係広くないんだよほっとけ。

 紬はそんな俺をよそに、なにかソワソワし始める。


「あ、そうだわ。あたし忘れ物したから先行ってていいわよ」


「え、じゃあ俺も一緒に……」


「いいから! えっとね見られたくない忘れ物なの!」


「何忘れたんだよ」


「……下着忘れたの! だから行ってて」


 紬はあまりに分かりやすい演技をして全速力で学校へ走っていった。俺と秋元さんは取り残されてしまう。

 にしても、噓つくの下手すぎるだろ。今のは誰でも演技って分かるぞ。それに内容がヤバい。


「紬ちゃん、下着なんてどこに忘れたんだろ……」


 騙された人いたわ。隣にいる秋元さんはぼそぼそ何かを言ってめちゃめちゃ考えている。


「あの、秋元さん?」


「はい?」


「……行きましょうか」


 俺は、紬のヤバい発言は無視して秋元さんと歩き出した。


     ◆


「秋元さんって本が好きなんですね」


「そうなんですよ! やっぱり文章の中に含まれる意味とか気持ちっていいですよね」


「分かる分かる」


 俺たちは歩きながら会話に花を咲かせていた。周りには何故か肩を寄せ合うカップルばかりでなんともムズムズする。しかし、うまく会話が回ってるのは読んでいたあの本のおかげだな。あとで紬に教えてやろう。

 秋元さんは急に止まって何かを言いたげに俺を見つめてくる。


「あの、結人さん」


「どうしましたか?」


「あの……聞きたいことがあります」


 秋元さんは顔をとても赤くして下を向いている。そして、意を決したのか俺の目をしっかりと見つめ、


「紬ちゃんと、恋人なんですか!?」


 彼女はとても真剣に見つめてくる。彼女の綺麗な瞳には不安や期待などが入り混じっているように思えた。


「紬と……? あいつとは、ただの幼馴染っだよ」


「本当ですか?」


「本当です」


「本当の本当ですか?」


「何回聞くんですか! 本当ですよ! あいつとはそれ以上でもそれ以下でもないです」


 紬との関係は一体いつまで周りに聞かれるんだろう。紬との距離を改めたほうがいいかもしれない。


「……そうなんですね。すっきりしました。あ、私はここで」


 そういうと秋元さんは小さく手を振り別の道へ行ってしまった。

 一体、何だったんだろうか。結局秋元さんも俺と紬の関係を聞きたかっただけなんだろう。それしか考えられない。脈ありという紬の話は疑わしくなった。

 俺は来た道に振り返り、さっきから隠れて見ている人物に話しかける。


「おいつむぎ。出てこい」


「げ。あたしの居場所がバレてた……」


「演技も隠れるのも下手すぎるんだよ。嘘が酷い。もっとしっかり考えろ」


「う……でも、それだけ正直ってことじゃない?」


 紬は笑いながら言う。なんというポジティブ精神。そこは見習いたい。


「あのなぁ。下着忘れたってやべえやつだぞ。それに、俺はお前の洗濯物で見慣れてる」


「うわぁ、デリカシーの欠片もない」


 紬が隠さないから悪いんだろ。洗濯物は別にしてるのに、外に干したり、洗濯物の一番上に置くとか馬鹿なのか。まあ、ただの布切れと思うと何も思わないが。


「結人、奈緒ちゃん可愛いよね」


「まあ、顔は整ってたな」


「彼女にしたいって思った?」


「いや全く」


 知り合って数十分でそこまで考えれると思ってるのかこいつは。一目惚れじゃないと無理なスピードだろ。


「あたしが、結人にぴったりな彼女を見つけてあげます!」


「大きなお世話だ」


 なるほど、そういう魂胆か。秋元奈緒がまず一人目と。もう一度言う。なんて余計なお世話な奴なんだ。


「じゃあ、俺もお前の彼氏を見つけてやろう」


「え、いらない」


 ガチで引いている顔だ。なんだ、頭の中恋愛ばかりのお花畑人間だと思ったが違うみたいだ。人に探すと言っておいて自分は要らないのかよ。

 それにしても、さっきから紬の距離が近い。歩けば方がぶつかるくらいの距離にいて、何とも歩きずらい。


「なあ、近いからもうちょっとそっちいってくれ」


「……気のせいよ。諦めて」


「ええ……」


 紬は顔を背けさらに近づいてくる。どうも、機嫌が悪いらしくなかなか会話をしてくれない。しかし、このまま行くと壁にぶつかる。

 俺は紬の方により、押し返す。


「こんなに近いと、まるで恋人だな」


 試しにからかってみた。気まぐれだし、機嫌の悪い時にやるとはとても俺は性格が悪い。



「そうね。そう見えるかもね。……そんな日もあってもいいんじゃない?」


 予想とは違う返答が返ってきて戸惑う。いつもなら「幼馴染にそんなこと思ってるの?」 とか、「頭の中お花畑なんだね」とか言ってくるのに。


 すると、紬が顔をあげ、からかうような表情で問いかけてくる。




「恋人やってみる?」




「断る。お前とは幼馴染で充分だ」


 俺たちは笑い合い、いつものように軽口を叩きながら帰路に着くのだった。


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