表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

休日/吊り橋効果を試したい

 休日の究極の過ごし方はなにか。それは――睡眠だ。誰にも邪魔されず好きなだけの睡眠。これが一番の過ごし方だ。やることないしな。友人は永倉くらいだし。あいつ彼女と遊びに行ってるらしいし。三大欲求は最大限満たすべきだと思うんだ。

 プルルルルッ

 俺の枕元にあるスマホが振動し着信音が鳴る。朝から電話か? こんな時間に掛けてくるのは非常識だぞ。

 俺は重いまぶたを開けスマホを取り電話を取る。


「もしもし……?」


結人ゆいと。早く起きてきてよ」


 電話から何ともよく聞く声が聞こえてくる。何やら金属音や何かを焼いている音が聞こえてくる。調理してるのか?


「……つむぎか。何の用だよ」


「結人、そろそろ起きてきなさいよ」


「まだ朝早いだろ」


「もう午後二時よ」


「まだ朝だな。寝るからもういいか?」


 俺は電話を切ろうとする。


「オムライス作ったから降りてきなさい」


「分かったすぐ行く。準備しといて」


 俺は布団から飛び起き、部屋から出てリビングへ向かう。そういえばよく考えてみたら、家にいるなら電話する必要なくないか?




「結人、おはよ」


「ああ、おはよう」


 リビングへ行くと、エプロンを身に付けたつむぎが台所に立っていた。


「お母さんなら、仕事があるから帰りは遅いって。夕飯は自分たちでお願いって」


「了解」


 じゃあ今日は夕飯を作るか買いに行くしかないか

「あ、夕飯なら私が用意するから安心して」


「何作るんだ?」


「ピザを頼むわ」


 作るわけではなかった。

 俺はつむぎに誘導され椅子に座る。紬は台所からとても綺麗に作られたオムライスを持って来る。こいつが料理とは珍しい。


「おー、美味しそう」


「でしょでしょ。レシピ見ながら完璧に作ったから」


「いただきます」


 俺はオムライスを口に運ぶ。


「美味しい!」


 卵はふわふわで、かつ砂糖で甘く作られていて俺好みだ。紬は俺の食べる姿をジッと観察して、ニコニコしている。


「結人、これから用事ある?」


「何もないけど」


「じゃあ、ちょっと検証したいことがあるの」


「嫌だ断る」


 つむぎがなにか変なことを考えているのを察知しすぐさま断る。


「オムライス。食べたわよね?」


「あー……そういうことね」


 どうやら、オムライスを餌にして釣られたらしい。こいつが料理していたのはこういうことか。オムライスで俺を釣れるとはよくわかってるじゃないか。流石幼馴染。



 俺はゆっくりとオムライスを味わった後、紬の話を聞いていた。


吊り橋(つりばし)効果って知ってる?」


「吊り橋効果……? ああ、確か、一緒に怖い思いするとそのドキドキを恋愛感情と勘違いするってやつだっけ」


「そうそう。人は、その経験を風景を結び付けるでしょ? だから、一緒に怖い思い――例えばジェットコースターとかでドキドキすると、その一緒にいた人にドキドキしたと錯覚するやつのことよ」


 紬は、自信満々に、スマホでガッツリ調べながら俺に解説する。


「それがどうしたって?」


「こんなものを用意しました」


 つむぎは背中に隠してあったものを取り出す。それは、有名なホラー映画のⅮⅤⅮだった。


「まてつむぎ。もしかして」


 俺はすごく嫌な予感がして立ち去ろうとする。


「そう! この映画を見て、吊り橋効果ってアテになるのか検証しましょう!」


「俺はホラーとか、怖いものが大の苦手なんだ! やめてくれ。本当にやめてくれごめんなさい本当にやめて」


「オムライス」


「……この野郎」


 紬はいそいそとディスクをセットしに行く。


「俺たち、一緒にいる時間長いから、意味ないんじゃないか?」


「あ……」


 紬の動きがピタッと止まる。あ、こいつ深く考えてねえな。


「まあ、見れば分かる!」


「お前が見たいだけだろ!」


 つむぎはすぐさまセットし再生ボタンを押す。俺はその隙に扉へ全力ダッシュする。


「待ちなさい!」


 しかし、俺はあっけなく腕をつかまれ脱出不可能になる。紬は運動部に入っていたので俺よりも力があるから力ずくは難しいかも。もうオムライスは食べないでおこう。

 2時間ほどのホラー地獄が確定した。



――1時間後

 俺たちは、電気を消し、カーテンを閉め、ソファーで二人肩を寄せ合いながら映画を見ていた。紬は俺の腕にしがみつき「きゃあ!」とめちゃめちゃ怖がっている。その姿は小動物みたいで可愛いなと思ったが、そんなこと考えれるレベルじゃないほど俺も怖がっていた。紬も昔からお化けが苦手なのだ。何故見ようと思った。


「紬、お前怖がりすぎだな」


「結人も同じでしょ? その手はなに? 私の服をがっつり摘まんでるじゃない。服が伸びる」


 紬は震えながらも余裕な感じを演じている。


「お、お前こそビビッて俺の腕にしがみついてるじゃないか」


「こ、こここれは結人が逃げ出さないようにだから! 別に怖がってるわけじゃないから!」


 二人共お化けが苦手だというのに、それを肯定しないがためにさっきからこの調子で言い合っている。やっていないと怖くて泣き出しそうだからだ。


 映画を止めればいいのだが、紬が「結人が止めそうだから」と、かなり前に手の届かない場所に置いてしまっている。お互い、一歩も引かないから取りに行くことさえできない。


「もうやだ……」


 紬が弱音を吐き、泣きそうになってるのを見て、俺は紬をがっちりつかんで最後まで見ることにした。紬が一生見ようと言わないように。



――俺たちは映画が終わった後も恐怖で少しの間そのままだった。紬はまだ少し涙ぐんでいる。


「結人。どうだった? 吊り橋効果」


「まだそれ言ってるのか……」


「ドキドキ、した?」


 紬は密着した状態のまま、悪魔的な笑みを浮かべて聞いてくる。


「恐怖で覚えてない」


「めちゃめちゃ怖がってたもんね」


 それはお前もだろと言いたくなる。が。どうせ認めないし、可哀想なのでやめておこう。


「紬はどうだったんだよ」


「私はね……」



「すごくドキドキしたよ」



 暗くてよく見えないが、少しつむぎの顔が赤くなっている気がする。泣いたからだろうか。俺はつむぎの笑顔で少し胸の鼓動が早くなる。いや、これは映画のせいだな。うん、絶対そうだ。


「さて、ピザを頼もうか」


 紬はすぐさま顔をそらし電話の方へ行く。


「結人、何食べたい?」


「メニュー教えて」


 俺たちはもう二度とあの映画を思い出さないように話題を切り替える。怖いの怖い。多分、一生忘れない。



 夜中、美雪さんが帰ってきてその映画を笑いながら見ていたのはまた別の話――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ