可愛げのない女はモテない
『好きです。付き合ってください!』
『ごめん。てか、お前だれ?』
ピピピピ――――。目覚ましを止めてAM6:00起床。胸糞悪い夢を見た。テレビをつけてニュースを見ながら朝食を食べる。化粧をして会社に行く準備をして朝のテレビ占いを見てから家を出る。
「さて、今日の1位はおとめ座のあなたです!運命の出会いがあるかも!?」
占いは昔から信じない。くだらないと思いつつも毎朝この占いを見るのが日課。
AM7:15家を出る。駅まで歩いて15分の道なりはいい運動になる。約1時間、電車に揺られ会社へ向かう。AM9:00朝礼を行い1日の仕事が始まる。27歳OLの朝は平凡だ。
「先月も営業成績トップは谷だ。今月も頼むぞ」
「はい」
ここ最近はずっと私がトップ。この仕事はわりと好きだ。
「谷さぁーん、企画書チェックお願いしますぅー」
甲高い声でいかにもぶりっ子という感じの部下。営業成績は悪いが社内の男性陣からの評判は高い。
「このグラフ、縦軸と横軸の数字が逆よ。それと、言葉遣いがめちゃくちゃでおかしな文章になってるから直して」
「さすが谷さんね。こっちまでスカッとするわ」
女性陣がひそひそと話しているのが聞こえる。それに反して男どもは、
「言い方きついなぁ。可哀想に」
なんて言うもんだから本当に呆れる。
「恋叶、お昼休憩行こ」
同僚の早苗に誘われ食堂へ向かう。
「いやー、しかし今日も谷さん怖かったなぁ。美人なのにもったいない。彼氏とかいるのかな」
「確かに!まぁ、あれだけ美人だったら彼氏くらいいるだろ!」
近くに座ってる男性社員たちの会話が丸聞こえだ。残念ながら私に彼氏はいない。
「今日も浄化しに行こうか」
これは早苗が毎回飲みに誘うときに使うセリフである。私が会社内で本音を言える人物は彼女だけなのだ。
飲みに行くと決まった日の私の仕事の速さは誰にも負けない。それは早苗も同じだ。どちらかの仕事が多い場合はお互いに助け合い必ず定時で終わらせる。
「お疲れ様です」
そして残業確定の部下と話が長い上司に捕まらぬようスピーディーに退社する。
「おつかれーい!」
キンキンに冷えた生ビールを一気に飲み干す。
「いい飲みっぷりね、恋叶さん」
「いやいや、早苗さんも負けてないわよ」
私たちのストレス発散方法はこうして飲みに行くこと。飲む約束をした後は仕事中だろうとなんだろうとお酒のことで頭がいっぱいになるのだ。
「なんだかんだ週5で飲みに行ってるわね」
「仕方ないじゃない。毎日ストレス発散しないとやっていけないもの」
続けて二杯目の生ビールがテーブルに運ばれてくる。
「しかし、今日もぶりっ子ちゃんすごかったね」
私に企画書の指摘をされた後さらに印刷ミスと会議で使う資料を間違えて配布するというミスをしていた。相変わらず「すみませぇん」と甲高い声で謝っていたが、なぜあれで許されるのか未だに理解できない。
「男はあの子みたいにキャピキャピした子が好きなのかね」
「あたしは恋叶みたいに仕事ができる美人のほうが好きよ」
「早苗みたいな性格の男の人で世の中が溢れてたら今頃彼氏できてたかなぁ」
「大丈夫よ。そのままのあんたを好きになってくれる人が必ず現れるから」
「うー、神様仏様早苗様ああああ」
気づけばテーブルの上には空になったジョッキがたくさん並んでいた。
二軒三軒と飲み歩き、大量の生ビールと最後のほうに飲んだ日本酒がかなり効いてる。
「早苗ぇー、大丈夫かー」
「なんとか…明日が休みでよかったわ…また会社で」
立っているのがやっとな彼女のためにタクシーを呼んだ。
「おねえさんは乗らなくていいのかい?」
「私は家が近いので大丈夫です」
タクシーのドアを閉めて姿が見えなくなるまで見送った。
歩道橋を上り、通路で一息つく。
好きな人か。今朝見た夢を思い出す。高校二年生のとき同じクラスになった人気者の男子に一目惚れをした。当時の私はとても地味で彼とは正反対だった。なにも接点がなかったけどそれでも近づきたくて勇気を出して告白をしたがあえなく撃沈。高校卒業後、メイクの勉強をしたり根暗な性格を直そうと努力をして結果的に私は変わった。だが、拒絶されたことへの恐怖からなのかそれ以来、人を好きになれなくなってしまった。
いくら仕事ができるとはいえ、もう27歳。相手さえいればそろそろ結婚だってしたい。もし一度だけ人生をやり直せるのなら、あの頃に戻って素敵な恋をして恋愛は楽しいんだって思える大人になりたい。
「なーんて、今更考えても遅いか」
歩道橋を下ろうとしたとき突然めまいがした。
「えっ」
そのまま階段を踏み外し落下した。なんであいつの顔が思い浮かぶんだ。そうか、これが走馬灯か。やっぱり朝の占いは当たらない。
ピピピピ――――。部屋に鳴り響く目覚まし時計を止める。
「れんー、起きたのー?」
「いま起きたー…ん?」
私を「れん」と呼ぶのは家族しかいない。最後に会ったのは年末年始だから半年以上前。確かにここは私の部屋だが実家にある私の部屋だ。壁にかかってるカレンダーには「2010年 4月」の文字。
「まさか…ね…」
恐る恐る部屋の鏡を見た。
「うそ…まじ?」
鏡に映ったのは地味で冴えない10年前の自分の姿だった。