捏造の王国 その29 ニホン国政府アベノ総理ご親族企業との取引の手引きbyスワップランド政府
四菱社員パカセガワは驚愕の声をあげた。アフリカ新興国スワップランドでの契約にいたるまでの書類、手続きの煩雑さ、厳しさは半端なく、ついにアベノ総理の遠縁である(だから配慮して)と訴えた。しかし、彼を待っていたのは、総理の親族であるが故のおそるべき対応であった。
「さあ、やっていただきましょう」
「ひぃ、そ、そこまでしなければならないんですかー」
とアフリカの新興国スワップランドの首都の高層ビルの一室。まさに政府とニホンの大企業四菱との契約が結ばれようとしていたのだが
「さっき、嘘発見器もかけたし、DNAの提出もしたじゃないですかー。この上指を切って、その血で指紋を押せ、なんて」
四菱側の契約担当者パカセガワの声は怒りと恐怖で震えていた。それもそのはず、根回し済みの契約にサインするだけーのつもりでいったところが、部屋に入るまで何回ものチェックをうけ、体を調べられるわ、最終の打ち合わせで、こちらの会話はすべて嘘発見器にかけられ、そのうえ舌を綿棒でぬぐってDNAの提出をさせられるという始末。これでは契約を結びに来たというより尋問を受けに来た容疑者扱い、その上、自分の血で指紋を押して提出というマフィア映画の撮影のような状況なのである。
「わ、私は四菱スワップランド支社のパカセガワ支社長なんですよ、なんでこんな目に!」
支社長がたどたどしい英語で抗議すると、政府側高官ズンベは流暢な英語で答えた。
「ニホン企業で、しかもアベノ総理と深い関係にある企業の方ですからな」
「わかっているなら、もっと丁寧に扱ってほしいものですな。しかも私は総理の従兄弟の妻の叔父の兄嫁の又従兄なんですよ!」
要するに総理のちょっとは関係者なんです!とパカセガワは主張したかったようだが、語彙数が少なすぎる上にいくつかの単語を間違えていたので、相手側に正確には伝わっていなかった。が、肝心の総理の遠―いけど親戚と言えなくはないということは理解されたようだ。
「なんですと、それでは」
つややかな浅黒い顔のズンベの目が驚きで見開く。ズンベは側にいる部下に何か言いつけた。部下は急いで部屋を立ち去る。
(ふふふ、驚いたか。私は遠いとはいえ、アベノ総理の身内なんだぞー)
と、内心自慢していたパカセガワは次の瞬間、叫び声をあげた。
「ぎょええええええー、な、なにをするんだー」
パカセガワはスワップランド政府警護にいきなり両腕を掴まれた。両脇から抱えられるようにして、さきほどの役人が運んできた巨大な装置に括り付けられる。
「ただのニホン人なら嘘発見器ぐらいでよかったのだ。四菱の支社長となるとアベノ総理がやったという血の連判状提出まではやらせろと命じられていたが、アベノ総理の親族ならば、やはりここは”強化版、超ホンネちゃん“made in chinaを使わねばなるまい」
装置の真ん中に手足を括りつけられた支社長はまるでウエストフィリス人体像のように両手両足を開らかされていた。パカセガワの手首、足首にガチャンと金属製の輪のようなものがぴっちりとはめられている。パカセガワは少し痛みを感じた。手足には微細な針がささり、計測された値を信号で送るコードが後方に伸びている。頭にはペタペタとプラスチック製の丸い小さな装置がいくつもつけられ、手足のコードと同様に幾本ものコードが後ろの機械につながっている。ウィーンという音とともに小型スクリーンが目にぴったりと装着された。
「わー、ど、どうなるんだー」
「どうせ忘れるのだから、教えてあげましょう。アベノ総理とその関係者は嘘つきというのは世界に知れ渡っているのですよ。文書偽造に、証拠捏造、不利なことは隠蔽があなた方のやり方だ。桜を愛でる会の件でシュレッダーは隠蔽の隠語になっているということも知っています」
「ひえええー、そ、それはニホン政府がああ」
「そうですか?貴方の会社の子会社四菱マテリアルズの品質偽装に始まり、ニホン大手の企業もかなり不正なことをやっていますね」
「みんな不起訴だし、お、お咎めないし、改善もー」
「そうでしょうか?ニホン国内でうまく誤魔化したようですが、我々は違う。なにしろ中国だのヨーロッパだのを相手に独立の資金を援助させたり、カッコクレンに認めさせたりとやってきたんですからな。外国にはそれなりに警戒をしているのですよ。まして捏造隠蔽偽造政府にはね」
「いやその我々も国外では真面目にやってるー」
「はあ?品質誤魔化しの製品は輸出されてましたが。だいたい我が国の国民はニホン企業との取引に不安を覚え始めてるんです、特に桜を愛でる会の件以降はね。ニホンで開発されたという本音発見アプリ、ホンネちゃんを以前から活用していましたが、あの件で我が国政府より通達がでました。ニホン企業担当者、特にアベノ総理親族には必ず嘘発見器、またはホンネちゃんを使用せよとのことで。あの本音発見アプリはスゴイ、民間開発とは思えぬ正確さと評判ですな」
「ホ、ホンネちゃんなんて、本当のこと言ってるかどうかわからないじゃないか」
「そうとも言い切れませんな。我が国の女性官僚がニホン国で試したところ“ニホンの中高年男性の本音をそのまま表している”と報告しましたから。彼女はニホン国で随分と不快な思いをしたが、ホンネちゃんのおかげで理由がよくわかったと言っていましたし」
「いやあ、そのう」
(ううう、その女性、オヤジ根性丸出し役人にあったのかあ)
と言いつつパカセガワ自身もスワップランド国で、現地の女性に“彼氏いないのー、寂しくないー”だの“アフリカは性に開放的なんだよね、僕もね~”だの、“お茶ぐらいいれてくれよー、僕は緑茶じゃないと嫌なんだよー”などのセクハラ及びパワハラ言動を繰り返していた。そのこともズンベは調査済みだろう。
「よ、よくわからないんだが。第一、ま、前置きが長すぎる!」
「ああ、すみません。アベノ総理の身内は前の話をすぐ忘れるということでしたな。要は嘘つき連中との契約の際には嘘を見抜くあらゆる装置と、裏切った時の保険が必要だということです」
「だ、だから血やら唾液をとるのかー。の、呪いでもかけるのか?」
「失礼な。そのような方法をとるべきという長老もいますが、主に本人の確認のためです。契約不履行の場合、サインしたものの責任となるのでね。あなたを拘束するときに偽者を差し出されたら困る」
「そ、そんな内容だったっけ?」
パカセガワの問いにズンベは頭に手をそえ、早口の小声で言った。
「はあ、本当に契約書をよく読んでいないのか。英語が苦手で総理のコネで支社長になったとは聞いていたが、せめて部下か翻訳者に読ませるとかしないのか。バカを自覚していないというのは確かに“Mighty fool”の親族だな」
「な、なんだー、よくわからないけど、早く終わらせてくれー」
「やはり英単語はよく理解できないのか、ならば」
ズンベが装置のスィッチをいれた。
ウンウンと装置は回転しだした
「平時と緊急時の脈拍、発汗、皮膚の微細な運動を比較し、さらに表情筋の動きや脳波の測定も行う。そしてその結果を分析して個々人の平常値の表情や仕草を特定する。そこから契約時にみせた仕草表情などを比較する、か。元の“ホンネちゃん”と突き合せればより正確に嘘が見抜けるな」
うきゃ、きゃ。パカセガワが悲鳴とも叫びともつかぬ奇妙な声をあげているのを横目にズンベは契約書を読み返す。
「“スワップランドの水道工事にかかわる資材の搬入のための資材置き場建設工事にかかわる契約”か。この程度の契約でもニホン国相手だとここまでしないと信用ができない。やはり素直に中国にすべてやってもらえばよかったか。一国独占だと何かと外野がうるさいが、これでは余計に金と手間がかかる」
きゃうん、きゃうん、バタッ。パカセガワの首が下に垂れた。どうやら気絶したらしい。バチバチと火花が散る。
「さてデータはとれたようだな。この後、こちらの都合のよい記憶を植え付けるのだが、やらなくてもアベノの仲間はどうせ忘れそうだな。しかし、規則は規則。キチンと遂行せねばなるまい。こいつらみたいに公文書を偽造しただの、シュレッダーにかけただの、紛失しただのと思われては困るのだ」
キュルンキュルン。脳に電流が流れ、目の前のスクリーンに“契約時に美女にもてなされている”つもり映像が流れる。
「うむ、小型とはいえ中国製の4K立体映像。これでこの箇所に電流を流せば今見ている映像が偽の記憶となって残る、はずだ」
うふふ。余程パカセガワに都合のよい記憶だったのか、パカセガワは笑い声を漏らす。データを分析し、先ほどのパカセガワの仕草などと照合するズンベの部下たち。一人がズンベに耳打ちをする。ズンベは満足げにうなずく。
「どうやら嘘はついていないようだな、しかし」
口を開けて笑うパカセガワ。ヨダレが口からたれ床に落ちる。ズンベの部下たちが雑巾で素早くふき取った。
「若い女性官僚が横に座って、ただ茶をいれるというだけの映像なのだが。こんなことで喜ぶとは下劣というかチキンというかなんというか」
ズンベは呆れながら、装置を止めた。放心状態のパカセガワは目隠しをされたまま座らされた。装置は素早く片付けられ、テーブルの上にはお茶のカップが置かれる。パカセガワは起きているのか、いないのか、うすら笑いを唇の上に浮かべたまま、じっとして動かない。
「さて、パカセガワ支社長」
ズンベが話しかけながら、そっと目隠しをとる。目の焦点があっておらず、少し口を開けた間抜け顔でパカセガワは上を向いていた。
「うむ、どうやら成功したようだ」
ズンベはパカセガワの肩を軽くたたいた。はっとしたようにパカセガワが起きあがる。
「あ、ぼ、僕は、さっきの美女はどこに?」
「お茶を召し上がって、うとうとされたようですな。さ、サインを」
「そ、そうですね」
サラサラとローマ字でサインをしたパカセガワはウキウキした様子でズンベに尋ねた。
「あ、先ほどの女性は今後契約担当でわが社に来てくれるの?」
「ズンベ長官、あれではニホン側にあまりにも失礼では」
契約を終え、執務室に戻ったズンベに部下ケレンが進言した。
「お前がそういうのもわからんではないが、あのアベノ総理をいまだ引きずりおろせない国だからな」
「本来、外交のための要人もてなしの桜を愛でる会に、自分の支援者を呼んで税金でもてなしたうえ、子飼いの学者やお世辞ばかり言う芸人も招待して、総理の座を維持したとは聞いていますが」
「そうだ、しかもマフィアや詐欺師まで招待したとのことだ」
「私共ではわかりかねますが、ニホン国は暴力行為を常とする集団は社会的に容認されているのでしょうか」
「いや、反社会的勢力として企業、団体との取引は法的に禁じられているはずだが。ニホン政府の高官、ガース長官は“結果的に招待してしまった、だいたい反社会的勢力の定義は決まってない、名簿はシュレッダーにかけたんで復元できない”などと言っている」
「そ、それでは犯罪行為を政府が率先して行って、しかも書類を隠蔽したというのですか。とても民主主義国家の行いとは思えません。ニホン国というのは先進国と聞いていましたが、違うのでしょうか。今時我が国でもそのような露骨な真似はできないのに」
「先進国といわれているが、実際はわからん。そのようなことがニホン国で行われているのではないかと疑いはもたれていたのだ。なにしろアベノ総理の親友で親族でもあるガケイ氏のカケカケ学園グループに過分な補助金を与え、赤字をだした学園グループを維持したとか。アベノ総理はガケイ氏とゴルフをするとき、金をだしてもらったそうだが、そのことを追及されると“ゴルフがなぜいけないのか、テニスならいいのか”と言い出した、反論のつもりらしい」
「そ、それは反論になっていないのでは」
「非論理的だが、ニホンではその程度の説明でも許されるようだ。さらにアベノ総理の妻アキエコ夫人が名誉校長を務め、総理自身も講演をおこなったモリモリ幼稚園に国の土地を時価の八割引で払い下げたとか。もっともモリモリ幼稚園の園長はその後、総理を告発しようとして逆に投獄され、八か月間独房ですごしたそうだ。逆らうものには容赦しないらしい」
「それは私も聞いておりますが、ロシア、中国よりは、その」
マシなのではと言おうとしたケレンをズンベ長官は遮った。
「その通りだが、ニホン国はG7だぞ。G20で今から発展し国家体制を整える国とは違う。さらに曲がりなりにも民主主義を標榜するアメリカの子分なのだ。やるにしても、もう少しスマートなやり方があるだろう」
ズンベの言い分にケレンも同意する。
「アメリカも裏ではいろいろ画策されているとはいいますが、マスコミは追及しますし、政府も表向き真摯に答えます。ニホン国のように意味不明の擁護や論点のすり替えなどはありませんね」
「ニホンでは政府の論点ずらしを“ご飯論法”だの、“信号無視論法”などと揶揄されているようだ。アベノ総理らはずっとそのような不正まがいのことを行ってきたのだ。しかし今度の桜の件、アベノ総理はさすがに降ろされるとは思っていた。しかし、名簿だのなんだのと誤魔化していまだ総理は居座っている。子飼いの議員の汚職が明らかになっても開き直ってそのままという腐敗ぶりだ」
「名簿は復元できないということですが、ニホンではデータとしてコンピューターに保存などはしていないのでしょうか。それではそのITに関しては国際的にかなり遅れているのでは」
「名簿云々はむろん出まかせだろう。しかし、疑わない支持者が4割近くもいるのだぞ。もちろん抗議する市民もいるようだが。というか民意が無視されても抗議しないし、人ごとのように無関心な市民も少なくない」
ケレンが驚きの声をあげた。
「わ、わが国では建国以来、市民が抗議しないなんてことはありませんよ。政府が勝手に何かやろうとすると野党が騒ぎ、市民が押し掛ける。まあそのおかげで腐敗しないですんでいるところもありますが」
「ニホン国民の多くは自分が騙され奴隷にされてもかまわないらしい。税金が上がって暮らしが成り立たないとぼやく割には、アベノ総理夫妻の個人的宴会に血税がつかわれようと、アベノ総理以下ジコウ党議員が選挙民を実質税金で買収しようとかまわないという市民もいるということだ」
ズンベ長官の声には一種の羨望が混じっていた。
「“ホンネちゃん”が発売されて、政府の嘘がバレても、それですか」
「少しは改善されている。政府のバレバレの嘘に憤る市民も少しずつだが増えているという。だから欧米では一般の旅行者でも野党支持者や政府批判の市民団体のメンバーなどには嘘発見器を使用しないのだ。おそらく彼らはニホン政府のように捏造・隠蔽・偽造はしないだろうからな」
「で、では我が国もアベノ支持者のみホンネちゃんを使用すればよいのでは?」
「そうだが、リベラルのフリをしたアベノ支持者も存在する。アメリカやEUではアベノ総理支持者や御用学者・太鼓持ち芸人の名簿はすでに出回っているからいい。だが、わが国ではそんなものは手に入らない。それで我が国に来たニホン国民には全員ホンネちゃんまたは嘘発見器を使用すべきとの通達を出したのだ。アベノ総理支持者かどうか、リベラルの皮を被ったアベノの手先かどうか判別するためにな。むろん取引相手の企業はその上の処置をとっている」
「それにしも、いくらアベノ総理が操りやすいとはいえ、なぜそのような、その」
「馬鹿、阿保、間抜け、頭にアホ石が10個ぐらい入っていそうなアベノ総理の首をアメリカの連中が挿げ替えないのか。そして中国とロシアが黙っているのか、か」
「はあ、確かにアベノ総理が諸外国に金をばらまくので、我々にとっても都合がいい面はあるかもしれません。先日のロシアとの協議もニホン国は金をだすだけで、念願の領土返還も事実上諦め、ロシアに差し出す形になったそうですし」
「そういったことでニホン国以外の諸国にはアベノ総理のほうが得ではある。アメリカのドランプ大統領もアベノ総理からはいくらでも貿易での有利な条件を引き出せると考えているようだし」
「ですが、あまりにも愚かです。そういったものをトップの座に据えておくのはニホン国の衰退を招き、ひいては周辺諸国にも影響がでるのでは」
「その通りだ。アメリカや中国の連中が何かを企んでいるに違いない。英国やヨーロッパ各国もニホンに対して何かたくらみがあるとの情報もある。朝鮮半島が経済的に統一される年か、あるいは大不評の来年の国際大運動会に何か大きなことが起きるに違いない、と我がスワップランド政府は予測している。それでニホン政府及び政府の息のかかった企業には警戒を決して怠らぬよう、しかし表向きは他国と同一に扱うよう指示がでているのだ。捏造、偽造、隠蔽政府とその政府に近しい企業だからという理由もあるが」
「そうでしたか」
ケレンは納得したようだが、ふと思いついたようにズンベに尋ねた。
「大きなこととは何でしょうか、ニホン国で革命が起きるとか」
「あるいは“世界の敵”“無敵のバカ”を退治するとの名目でカッコクレン軍が動くとか、な」
そういいながら、ズンベ長官は壁にかかっているある画家の絵の複製画をしみじみ眺めた。それは座った男が、医師に頭にメスを入れられるところと、それを見る見物人が財布を盗まれるという構図で、ヒエロムス・ボス作“アホ石の手術”と言われている絵だった。
どこぞの国では総理他閣僚、官僚、与党議員が公的書類廃棄、汚職、不倫、選挙買収などの疑惑と不信のてんこ盛りでありながら、いまだ政権交代もないようです。しかし、そのような国が諸外国でどのようにみられているかというと、本編ニホン国のような国とみなされているのではないかと思います。