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合わせ鏡の旅烏ー別世界の俺は「ちょうじん」だった。  作者: ハイマン
第1章「青空の飼配者」ー鏡の世界
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6話 初めて殺した

 カリンさんは鳳雛の家の子ども達の様子を月に一度空飼に報告に行っているらしく、俺と夕陽もそれに乗じてオオトリに潜入することになった。

 敷地内に入る前に涼音のハバタキで小さくしてもらって身を潜める。


 カリンさんは社長室に行くらしい。俺はカリンさんについていき、夕陽には別行動で調査してもらう。


 「やあ、カリンさん。子供達の様子はどうですか?」


空飼が机の上に何か資料を置いて立ち上がる。実験に関するものかはわからないが一応覗いてみよう。


 「ええ、特に目立った問題はありません」

 「そうですか。彼らには元気でいてもらわないと。大事な被験者ですからね」


こいつまたそんなことを……いや、今は腹を立ててる場合じゃない。資料……資料……これか。不死鳥の遺伝子……幻獣の翼……何のことだろう?



 「カリンさん。ネズミ……いや、カラスが一匹、紛れ込んでますね」


マズい! 気づかれたか!? 小さくなってるとは言え姿が見えないわけじゃない、どこかに身を隠さな

ければ。


 「……何の話? ここには私とあなたの二人だけですよ」

 「まあいいか。それよりカリンさん、隠し事してますよね?家族で隠し事はよくない、って言ってくれたのはあなただったと記憶しているのですが……」


やはりばれている。とりあえず机の裏に隠れよう。


 「被験者(こどもたち)の記憶、解放したのあなたですよね?」


え? カリンさんが? どういうことだ?


 「子どもたちが辛い思いするから、って記憶を封じ込めるのを提案したのはあなたでしょう? それなのになぜ、クロオ達の記憶を開放させたんです?」

 「……彼らなら、あなたを救えると思って……」

 「バカなこと言わないでください。僕を救えるのは……あれ? まあいい。とにかく、勝手なことはやめていただきたい」

 「……あなたは間違っています」

 「正しいとか、間違いとか、そういう問題じゃないんです。やり遂げないと僕の心は救われない。あなたは優しすぎる。……やはり記憶の管理は僕がやります」


空飼がそう言うと天井が開いて“チック”が部屋に入ってくる。カリンさんを助けに行かないと。……でもこの体じゃ何もできない。羽根が乾けば効果は切れるって言ってたな。“灼けつく夕闇”で炙って乾かす。間に合ってくれよ!


 「殺すなよ。彼女も貴重な被験者だからな」


空飼がチックに優しい声で言い聞かせる。間に合え……よし、乾いた!


 「行け」


突進するチックを正面から受け止める。


 「……させるか!」

 「道理で焦げ臭いと思ったよ。クロオ、その人をかばうのか?」


 「……ああ」

 「君は知らなかったね。君達がせっかく忘れていた人体実験の記憶、思い出させたのはカリンさんなんだよ。その人が余計なことをしなければ、僕を止めるなんて役割を勝手に押し付けなければ、君は普通に暮らせていたんだよ?」


そういうことかよ、でも俺にはもともと関係ないことだ、そんなことどうでもいい。


 「その通りだな……。ああ、俺は普通の高校生のはずだった。でもな……何も知らないで誰かが苦しめられてるよりはよっぽどマシだ!」

 「じゃあ止めてみなよ。そのためにはまずその子を倒さないといけないけど」


チックが呻き声をあげている。あいつらに痛覚はないが……中翼(センターウイング)を破壊すれば、あいつはバードロイドとしての力を失って戦うことはできなくなる。

大丈夫、チックにはただ目の前の相手を壊すことしか考えられない。冷静に、冷静に。

チックが低空飛行で突進してくる。素早く腹の下に潜り込んで、下から中翼に羽根を突き刺す。そのまま“灼けつく夕闇”で中翼を焼き尽くした。


 「……どうだ、倒したぞ」

 「おお、やるね。瞬殺じゃないか。ご褒美に良いこと教えてあげよう」

 「ご褒美だと……? どうせロクなことじゃないんだろ」


 「今のはちょっと傷ついたぞ。本当に良い知らせだよ。君たちは、バードロイドの遺伝子に適合しなかったお友達は死んだ、と思ってるだろ? 実はね、彼らは生きているんだよ」


 「……! 本当か?」


 「うん、本当本当。ただね……ちょっと遺伝子に不具合が生じたのか、知性のない獣のような姿になってしまったんだよ。その型崩れした“ひよこさん”を育ててみたのがチック達だ。」


 「な……でも、中翼を破壊すれば……」


 「チック達は、バードロイドの力によって無理やり生かされている状態だったんだ。中翼が破壊されれば、バードロイドの力は失われる。この意味分かる?」


それって……嘘だ……俺はそんなこと信じない……


 「君がさっき“殺した”チックは、鳳雛の家でともに育った仲間なんだよ」



はあ? ふざけんなよ。急にこんなわけわかんないことに巻き込まれて、俺が人殺しだと? そんなバカな話あってたまるか。脂汗が止まらない、動悸もしてきた。何でだよ、元人間だったってだけだろ。人間を……呼吸もどんどん速くなってくる。気にすんなよ、落ち着け俺。


 「玄雄!」


部屋の扉が蹴破られる。……夕陽。


 「大丈夫? すごい汗……」

 「夕陽……俺……人を……人間を……俺が……」


言葉が言葉にならない。何焦ってるんだ俺は。


 「ユウヒか。ついでだ、君にも教えておいてあげよう。ここで死んでるひよこさんは……」

 「やめろ!!」

 「クロオ。随分焦ってるね? やましいことなど何もないだろ?」


思わず声を荒らげてしまう。そうだよ隠さなきゃいけないことなんか……


 「夕陽、俺は……人を殺した。そこにいるのは人間だ」


隠すことじゃない。仲間なんだ、ありのままでぶつからなければ。夕陽は目を伏せている。……そりゃそうか。


 「ごめん。俺もう皆とは……」

 「待って。何言おうとしてる?」

 「え? ……あ……」

 「そんなこと言わないで。私は……私たちは玄雄のこと信じてるから」


そのままそっと抱き寄せられた。……温かい。でも俺にこの温もりに甘える資格はない。


 「夕陽……ありがとう。でも、こいつらは人間だ。こんなことにならなきゃ、幸せかどうかは分からない

けど、普通に暮らしてたはずの、人間なんだ。それを殺した俺の罪は消えないし、消しちゃいけない。だったら……今生きてるやつを全力で救うのが俺の使命だ。……鳳空飼、お前を倒して」


 「はぁ~、どいつもこいつも。僕を救えるのはたった一人なんだよ。えーっと……まあいいや。ハヤト~」


空飼が気の抜けた声で呼びかけると、窓ガラスを突き破ってハヤブサが姿を現した。


 「玄雄。助けてもらったからと言って手加減はしない」

 「……ああ、望むところだ!」


こっちだって恩を売ったつもりなんかない。再びカラスの姿になる。


 「カリンさん、行きましょう」

 「え、ええ……」


カリンさんは夕陽に任せておけば大丈夫か。


 「おい、あいつらは放っておいていいのか?」

 「いいよ、彼らは外れだから。それよりさっさとクロオ倒してくれない?」

 「……分かった」

 「随分従順だな」

 「……お前に俺の気持ちなど分かるか」


相変わらず俺の攻撃が当たるのを気にせず突っ込んでくる。やっぱりこいつ頭おかしいわ、いつか死ぬぞ。そのままタックルを食らわせてくる。その勢いで後ろに飛んで距離をとろうとするが叶わない。


 「……お前速いな」

 「黙れ!」


思い切り蹴り落とされる。ほめたんだから素直に受け取れよ。


 「俺の速さには誰も追いつけない! 見せてやる、俺の新たな力を」


羽根がエンジンに変化するが、以前とは形状が違う。ハバタキが進化することってあるのか? 


 「これが“ファルコブースター・マッハソニック”だ……!」

 「マッハソニック……! それって、お前……意味かぶってるぞ!」


隼人がエンジンをふかせながら急降下してくる。名前はふざけてるけど確かにめっちゃ速い! 


 「どうした? 反応すらできないか?」

 「くっ……」


悔しいがその通りだ。文字通り目にもとまらぬスピードで何度もぶつかってくる。反応できないなら……


 「ぐぉっ……お前、何をした!?」

 「お前のやり方パクらせてもらったんだよ」


無理に反応しようとする必要はない。全身の羽で“灼けつく夕闇”を発動させることで、あえて攻撃を受けて反撃する。


 「そして、熱さで一瞬怯んだ!」

 「しまった……!」


そのままエンジンを燃やしてオーバーヒートさせる。さすがに俺もちょっと熱かったけどな。


 「無茶なことしやがる……」

 「お前が言うな。」


にらみ合う俺達の間に空飼が割り込んでくる。


 「隼人、撤退だ。君の負けだよ」

 「何? 俺はまだ……」


隼人の中翼にヒビが入る。さっきの反撃で結構ダメージを負っていたらしい。


 「クロオ、悪いけど君と遊べるのもここまでだ」

 「くっ……ふざけんな、俺はまだ……」

 「しつこい」


空飼が腕を振り下ろすと割れた窓からそのまま外に放り出された。この……俺は空を飛べるんだ……風にのれない! このままじゃ落ち……

チックについて

 バードロイドの遺伝子に拒否反応を起こした結果、人間と鳥獣の境目が曖昧になり理性を持たない怪物となってしまった。


隼人の新しいハバタキ「ファルコブースター・マッハソニック」ファルコブースターの進化したもの。めっちゃ速くなる。

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