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合わせ鏡の旅烏ー別世界の俺は「ちょうじん」だった。  作者: ハイマン
第1章「青空の飼配者」ー鏡の世界
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2話 普通の生活

 俺はどうすればいいのか。それを判断するために、鳳空飼についてもっと情報が欲しい。大企業の社長らしいし、ネットで調べたらなんか出てこないかな……


 「えっと……おおとりすかい、っと」


当然だが、検索エンジンの一番上には、オオトリ航空開発のHPが出てきた。……オオトリって会社のこともよく知らないし一応見ておくかな。


 「創業者・鳳空全、中国からの出稼ぎ労働者として働く傍ら、航空機を発明。すげ。支援者の娘と結婚後日本に帰化しオオトリを創業……へぇー。その後、息子・空貴に社長職を譲った、と。空飼の親父さんか。空貴が社長の時代にフライングスーツを……この間の飛んでたやつだな。当時中学生だった鳳空飼が開発。マジ!? すげぇ。で、空貴が慈善事業も始めて”鳳雛の家”ができた……その後隠居して空飼に社長職を譲る……空飼この時16じゃん!? 今の俺と同い年……」


つい夢中になってしまったが、よく考えたらネットで調べて出て来るような情報はこっちの俺がもう調べ尽くしてるだろうし、意味のない行動であった。……きっとネットなんかよりもっと深淵な場所を知ってるはずだ。



 この世界の俺……八田玄雄は、ずっと過酷な運命を背負って戦っていたんだ。それに引き換え俺は、何も考えずにただ平凡をむさぼる毎日。……ちょっと可哀想だなって、そう思った。俺が変わってやれるなら、何も一生をこの世界で過ごせって言われたわけじゃないし、それでもいいかなって。……この世界の俺は少しぐらい普通の生活体験しても罰は当たらないって、そう思ったんだ。


 とは言ったが前言撤回だ、あいつにはいずれ重い天罰が下るだろう。


 『夕陽以外の仲間も紹介しておく』


そう言われて連絡を取ったのがこの2人である。仲間のうちの一人が住んでいるというアパートに集合する。記憶の共有はほとんど完了したので自己紹介してもらわなくても分かる。

筆坂(ふでさか)銀子(ぎんこ)さん(銀髪ロング)。(あめ)(くも)ヒバリ(金髪ポニテ)。そして、加えて人類史上最高(推定)の黒髪美少女・烏丸夕陽。この3人がこの世界での俺の仲間らしい。……女の子ばっかりじゃねえか! 


 「あんた飛び方忘れたってどういうこと?」

 「そうなんだよ。自分でも色々試行錯誤してるけど、どうしても飛べないんだ。この間は夕陽の髪の毛食べたらカラスになれたんだけど」


答えるとしばし沈黙が流れる。俺なんかまずいこと言った?


 「……ちょっと玄雄」


夕陽が顔を赤らめながら、咎めるような声でつぶやく。やっちゃったよ。


 「……変態」


ヒバリが軽蔑の眼差しを向けてくる。違うんだ、あれは必要に迫られて仕方がなかったんだ。決していやらしい気持ちは……多分なかった!


 「おいしいの?」


銀子さんが夕陽の髪を嗅ぎながら不思議そうに聞いてくる。夕陽は半泣きになりながらうつむいている。


 「そういう問題ではなくてですね、成り行きと言いますか。……夕陽、お前からも何か言ってくれ!」

 「違うんです……私の方から……」


そうそう、夕陽の方から……そうだけどそうじゃない!


 「あ、あんたたちどういう……」


ヒバリは激しく動揺している。銀子さんは首をかしげながら、夕陽の髪をさっきよりもガッツリ嗅いでいる。


 「なるほど。二人は“カラス”同士だから髪の毛を摂取して遺伝子を取り込むことによって体内の鳥獣化因子を励起したと……」


銀子さんがこれ以上ない解説をしてくれた。まったくもってその通りだ。


 「そういうこと! 毎回こんなことするわけにはいかないから、お前たちにも知恵を貸してもらおうと思ったんだよ!」

 「そういうことなら別にいいけど……」


やれやれ、やっと誤解が解けたようだ。それにしても彼女のこの反応……やはりあいつには天罰が下るべきだろう。


 『そうか。それでなんとかなりそう?』

 「ならなかったから電話してんだろーがよ」


 あのあと3人に協力してもらったのだが何一つ参考にならなかった。夕陽とヒバリは根性論ばかりだし、銀子さんはちょっと考えた後眠りこくってしまったし。


 「……本当に頼りになるんだよな?」

 『それは心配しないでくれ。イレギュラーな事態だからみんなも戸惑ってるだけだと思う』

 「……そっか、自分の言うことだし信じるよ。なあ、そっちのみんなは元気か?」

 『ああ、皆楽しそうだったよ。兄さんも元気だ』

 「ならいいや。あとお前、髪フェチか?」

 『え? 一体何のためにそんなこと……』

 「良いから答えろよ」

 『……うん、まあ、好きだけど』

 「ならいい」

 『なあ、何だったんだ?』

 「気にするな。誤解が誤解じゃなくなっただけだ」

 『よく分からないけど……それより、鳥獣化できないってのは?』

 「そうだよ、その用事だった。なんかこう、コツとかないの?」

 『こればっかりは経験を積むしか……俺達にとってはさして複雑なことじゃないからな……』

 「経験かぁ。やっぱりそうだよなあ」

 『この前は鳥獣化できたんだろ?』

 「できたけど……あの方法はなるべく使いたくないっていうか……嫌っていうわけではないんだけどさ。お前にも悪いっていうか……」

 『でもそんなことを言ってる場合じゃない。どんな方法を使ったかは知らないけど、その方法で慣らしていくしかないよ。俺のことは気にしないでくれ』


……こいつ正気かよ。でもやると決めた以上やるしかない。この世界で初めて出会った時の公園に夕陽を呼び出す。




 「というわけで、髪の毛をいただけませんでしょうか!」


 全身全霊を込めて誠意を見せる。これ絶対引かれてるな。下げた頭に夕陽の冷ややかな視線が突き刺さってくるのをはっきり感じる。唯一の救いはこの場に俺たち二人しかいないことであろうか。


 「夕陽、試してみる価値はあると思う」

 「そんな真面目な顔していわれても……本当にこれで最後だからね?」


そういいながら髪の毛を一本差し出してくる。これがラストチャンスだ。しっかり噛みしめ……じゃない感覚を掴まないと。


 「……どう?」


やはりこの間と同じ感覚。これを自分の意思で自在に引き出せるようにならなくてはいけない、体にしっかり感覚を刻み付ける。


 「なんか分かった気がする」

 「本当に? もう大丈夫?」

 「玄雄……夕陽……」


公園の茂みから突然銀子さんが現れた。まさかさっきの全部見られて……いや、違う。ボロボロになった男の人を引き摺っている。


 「銀子さん、その人……」

 「……オオトリの。でも私が見つけたときにはこうなってた。……二人何か知ってる?」

 「私たちずっとここにいたし……」


銀子さんが倒してくれたんじゃないとしたら、誰がこんなことを。……おい、待てよ。


 「銀子さん! その人見せて!」

 「……? うん」

 「……冷たくなってる。心臓……止まってる……」

 「死んでる……ってこと?誰がこんな事……」

 「俺だよ、玄雄」


いつの間に目の前に現れたんだ? こいつは確か……


 「隼人、どういうつもりだ。」

 「俺以外にお前を倒されたくないんでな、始末させてもらった」


早間隼人はやまはやとだ。こいつも“鳳雛の家”の育ちで昔から何かと俺に張り合ってきていた。

 「久しぶりに会ったんだ。決着といこうじゃねえか」

 「ヤダよ、下らない。お前なんかに構ってる暇はないんだ」

 「俺がオオトリの刺客だ、って言ってもか?」

 「それじゃあ、あなた自分の仲間を……!」

 「夕陽、お前には興味ないんだよ」

こいつ、随分自信があるみたいだな。俺は自分の力の使い方もちゃんと理解できていない状態だ。俺で勝てるのか?


 「玄雄。一人じゃないよ」


夕陽に背中をたたかれる。銀子さんも黙ってうなずく。


 「隼人、悪いけど俺は男同士の真剣勝負なんかに興味はない。仲間の力、借りさせてもらうぜ」


とんでもなく無粋な発言だと思う。でも場合が場合だ、仕方ない。


 「構わねえよ。それで勝てば、文句なしで俺の完全な勝利だからなぁ!」


夕陽と俺が高く飛び上がると、隼人もそれを追うように飛び立つ。そして銀子さんは……


 「……頑張って」


地上から俺達を見上げている。ペンギンだから飛べないのだ。俺と夕陽の二人で頑張るしかない。夕陽と挟み撃ちの形になって羽根を飛ばす。しかし羽根は空ぶって向かいにいた夕陽に当たってしまう。


 「あ……」

 「狙いは悪くなかった。ただ、遅い!」


こいつ、いつの間に背後に……至近距離からハヤブサの羽根が飛んでくる。“灼けつく夕闇”で炎壁を作って防御する。


 「やるな! これならどうだ?」


やべ……全方位を羽根で囲まれる。捌ききれるか?


 「玄雄!」


夕陽が正面の羽を焼き尽くしてくれる。これで逃げ道ができた! 正面から突破して、追いかけてくる羽根を迎撃する。


 「夕陽、助かった! ありがとう!」

 「うん」

 「やはり仲間から先に潰すべきか……」

隼人が夕陽のほうめがけて猛スピードで飛んでいく。マズい!


 「間に合った…」


隼人が爪で夕陽を引き裂こうとしたまさにその瞬間、夕陽が姿を消した。標的を見失った隼人の後ろでは、突如として現れた氷の道をペンギンが高速で滑走している。あれは銀子さんか……?


 「玄雄も乗って!」


促されて銀子さんの背中に飛び乗る。ペンギンが空飛んでる……


 「途中で下から見えなくなったから。でも間に合ってよかった」


この人何考えてるのかよくわからないけど、ちゃんと仲間思いなんだな。この氷の道は、さながら”ペンギンハイウェイ”だ!

 「私に任せていいから二人は攻撃に集中して」

 「分かりました! 行こう、玄雄」

 「おう!」

銀子さんの背中に飛び乗り、隼人に羽根の集中砲火を浴びせる。


 「ちっ……舐めるなよ!」


攻撃を受けながら無理やり突っ込んでくる。あいつやばいな。でも銀子さんのほうが速い、このままいけば……


 「このままいくと思うかぁ!?」


隼人の羽が集まってエンジンのような形に変化する。……ハバタキか! 隼人がさらに速度を上げ、追いついてくる。


 「マズい……! 銀子さん、俺の指示通り動いてくれる?」

 「わかった」


隼人の羽根が飛んでくる。こちらも羽根を飛ばして防御する。

あのスピード、少しでも緩めたらすぐに追いつかれる。もう少しだ、もう少し……


 「逃がすか!」

隼人が正面に姿を現す。回り込まれた! もう少しなのに……


 「玄雄、頭下げて!」


背後から飛んできた羽根が隼人に突き刺さる。俺がちょうど目くらましになってよけきれなかったようだ。そして、十分時間は稼げた!


 「隼人! 逃げられないのはお前の方だぜ!」

 「なんだと? これは……!」


銀子さんのペンギン・ハイウェイが巨大な氷の檻となって隼人を閉じ込めていた。逃げるふりをしてこれを作ってもらっていたんだ!


 「焼き鳥にしてやるぜ! いくぞ、夕陽!」

 「うん!」


俺と夕陽の羽根が赤黒い焔を噴き上げながら飛んでいき、隼人の体を焼き尽くす。隼人はそのまま地面に落ちていった。



 「く……早く止めを刺せ」

 「いや、殺さないよ。何物騒なこと言ってるんだよ」


バードロイドには、胸の辺りに中翼(センターウィング)という大きな羽根が生えている。それがなくなれば、バードロイドとしての力も消え失せるのだ。何だ、結構スムーズにこっちの俺の記憶引き出せるようになってきたじゃん。それじゃあ失礼して、と隼人の中翼に手を掛けたその瞬間、隼人に触れていたはずの指先が空を切った。


 「……何!?」

 「クロオ、彼は大事な駒なんだ。あーあ、こんな黒焦げにしちゃって」

 「お前……、鳳空飼……!」


俺自身が会うのは初めてだが、目の前の青年が鳳空飼その人だと直感的に理解した。それと同時に耐えがたい怒りが沸き起こってくる。この世界の俺と記憶を共有した影響だろう。


 「どうしたの、そんなに目血走らせちゃって? そんなに僕が嫌いかい?」

 「……当たり前だ、子どもたちを何人も犠牲にして……」

 「身寄りのない子供なんか誰も心配してないよ」

 「てめぇええええええええええええええええええええ!!」


怒りに身を任せて飛びかかるが、片手で軽くいなされて地面に叩きつけられてしまう。


 「じゃあね。もう邪魔しないでよ」


半笑いで吐き捨てると、隼人を肩に抱えながら悠然と立ち去っていった。俺達はなぜだか追いすがることさえできなかった。




 鳳雛の家は、鳳空飼の父・(おおとり)(むね)(たか)が慈善事業の一環で作った施設だ。施設に入った時の空貴さんの話はいまだに憶えている。


 「君たちは無限の可能性を秘めた“鳳雛”なんです! 僕はいつでも、君たちの味方です」


空飼も時々施設にやってきて俺達と遊んでくれていた。俺達にとって彼は兄のような存在だった。それだけに、彼が俺達を人体実験の対象に選んだ時の恐怖は、幼かった俺達の心を真っ黒に塗りつぶすには十分だった。


 「なあ、夕陽。空飼って最初からそのつもりだったのかな?」

 「そうは思いたくない……それに、もしそのつもりだったらそんな情が沸くようなこと、しないと思う……」

 「そう、だよな……うん、きっとそうだよ」



新しい登場人物

 天雲あめくもヒバリ

  玄雄のこの世界での仲間。玄雄とは同い年。高校には通わず一人で暮らしている。


 筆坂銀子(ふでさかぎんこ)

  玄雄のこの世界での仲間。玄雄より2歳上の高3.玄雄と同じ高校に通っている。”ペンギン”の遺伝子を持つバードロイド。ハバタキは「銀世界」羽根から冷気を出す。これを使って空中に氷の道を作ることで空中戦にも対応可能。



 早間隼人(はやまはやと)

  玄雄たちと同じく鳳雛の家で育った。”ハヤブサ”の遺伝子を持つバードロイド。ハバタキは「ファルコブースター」速くなる。

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