10話 ナイスなコンビ
「奇遇ね、筆坂さん!」
「え……翠ちゃん……どうしてこんなところに…」
銀子はここに波里翠がいることに困惑していた。しかし仲間とはぐれて心細かったのでそれについては気にしないことにした。
「良かった……心細かったの……」
銀子が泣きそうになりながら翠に縋りつく。翠は恍惚の表情を浮かべた。
「うん、うん。お友達と来てたんじゃないの?」
「はぐれちゃって……」
「頼りない友達だね。でももう大丈夫、私が守ってあげるからね」
「う、うん。……翠ちゃん! 危ない!」
銀子が翠を押し倒すと二人の頭上を弾丸がかすめていく。
「あ、ごめん……大丈夫?」
「い、いいの、いいの。ありがとう」
銀子はここでようやく仲間と分断されたことが敵の罠だと気づいた。二人で背中合わせになって周囲を警戒する。
「ふぅ~、外したか」
「大造、しっかり狙ってくれよ。やはり俺が陽動に行こうか?」
「姿を見られずに倒せるならそれが一番だ。もうちょい待ってくれ」
そういうと大造が再び猟銃を構え、狙いを定めて、撃つ。
「……こっちか」
銃弾が水の壁に阻まれる。
「……うーん。諏訪朗、銀子の隣にいる女、見覚えあるか?」
「鳳雛の家にあんな女いなかったと思うが……いったい何者だ?」
「それより今のでこっちの居場所がばれそうだ」
「はあ!? 勘弁してくれ……」
翠が水のわずかな振動から敵の居場所を推測している。だがまだ確実ではない。翠はもう一撃ほど様子を
見る構えである。
「仕方ない。銃を変えるか。諏訪朗、頑張ってくれよ」
「ったく…しょーがねえなあ。」
大造の猟銃が機関銃に形を変え、諏訪朗の羽根が刀になる。大造が諏訪朗に向かって撃ちまくる、その弾丸を諏訪朗が刀で弾き飛ばして軌道を変化させる。
「痛た……おい、一発当たったぞ」
「お前がちゃんと弾かないのが悪い」
「何よこれ……」
銀子と翠に四方八方から銃弾が襲い掛かる。
「嘘……筆坂さん!」
「うん」
翠が張った水のドームを銀子が凍らせる。二人で作った氷のドームはピキピキと音を立てて崩れ去り、頭上に透明な結晶が舞い落ちる。しかし銃弾は何とか止められたようだ。
「翠ちゃん、これじゃ敵の位置が分からない……」
「ううん、そうでもないよ。慌ててこんな攻撃してきたってことは図星ってことでしょ」
翠がにやりと笑って大造たちのいるであろう方角を振り向く。
「おい、大造! あいつ今こっち見たぞ!」
「慌て過ぎたか……俺もまだ二流だな。仕方ない。諏訪朗、行けるか?」
「待ってました!」
諏訪朗がくちばしで刀をくわえて元気よく飛び立つ。
「久しぶりだな、銀子ォ! そっちの女の子は初めましてかな?」
「諏訪朗……」
「あんたまで銀子って……もう何なの!?」
「あんた何キレてんだよ? まあ、いいや。お命頂戴するぜ」
諏訪朗が銀子に向かって切りかかる。翠が水流で諏訪朗を押し流そうとするが、諏訪朗の刀が水ごと切り裂く。
「筆坂さん!」
「安心しろ、峰打ちだ。なんつって」
「……冷や冷やした。」
ギリギリのところで水流を凍らせて氷の壁を作っていた。そのまま氷で刀をとらえて砕け散らせる。
「……へえ、やるねえ。でも刀の替えは何本もあるんだぜ?」
羽根を刀に変化させて再び切りかかる。銀子も氷を刀の形にして受け止める。
「おっ、いいねえ! こういう鍔迫り合いがしたかったんだよ!」
「諏訪朗、何で戦うの? 鳳空飼は私たちのこと……」
「はあ? 人体実験のことが明るみに出たら俺達も世間から好奇の目で見られることになるぜ? そんなの嫌だ……ろッ!?」
銀子の氷剣が弾き飛ばされる。
「しまった……」
「よっしゃ、いただきぃ! ……ふぐっ!?」
刀を振り下ろそうとする諏訪朗の脇腹に翠がドロップキックを食らわせる。
「痛て……乱暴だな、あんた。ていうかそもそも誰だよ?」
「筆坂さんの友達よ。この子は私が守るんだから」
「守るってあんた……銀子より弱いのにか?」
諏訪朗があざけるように言うと、翠の顔が怒りに歪む。
「……うるっさい!」
“翡翠の激流”が諏訪朗に襲い掛かるが、難なく切り捨てる。
「さっきも見たろ、この切れ味。水だって切れちまうんだぜ」
「黙れ! 筆坂さんは、私が守るんだ!」
「翠ちゃん!」
銀子が氷剣で翠への攻撃を防ぐ。守るつもりが守られてしまった翠は呆然と立ち尽くす。
「あ……筆坂さんは下がってて!」
「ちょっ……」
翠が銀子を突き飛ばして翼で切りかかる。
「そんなに俺と遊びたいのか? あいにく俺は年上好きなんだよ……」
「誰がお前なんか……」
背後から銀子の悲鳴が聞こえる。慌てて振り向くとうつ伏せになった銀子の背中から白い煙が上がっていた。
「あーあ、あんたが俺にばっか気ぃ取られてたから庇ってくれたのかな?」
「筆坂さん! どうして……」
「友達だもん……守るよ……翠ちゃん、いつもの、冷静で頼りがいがあってカッコいいいつもの翠ちゃんなら、大丈夫だから」
「冷静に……分かった。銀子ちゃん、ちょっと待ってて」
そう言うと辺り一面に放水し始める。当然諏訪朗はすべて切り裂く。
「どうした? 自棄にでもなったかい?」
諏訪朗の挑発を無視すると今度は羽根を飛ばし始める。諏訪朗も翠の目つきが変わっていることをはっきりと感じ取り、警戒して距離をとる。
「……何が狙いだ」
木の枝にとまって様子を見る。翠が水を撒き散らしたので木の枝も湿っている。
「……迂闊だったね」
銀子が寝そべった状態でつぶやく。何のことか理解できていなかったがすぐに身をもって理解した。足元を氷漬けにされていた。
「マズい……! 大造ぉ!! 今すぐ俺の足を撃て!」
「無駄よ。あんたの仲間も今頃氷漬けよ」
「く……舐めるなよ……! おぁああああ!!」
諏訪朗が翼を広げて羽根を飛ばす。羽根の一本一本が刀になって襲い掛かる。
「冷静じゃないね」
翠が銀子を掴んで上空に回避する。
「しまった! そっちは……」
「諏訪朗おおおおおおお! 何やってんだああああああああ!」
諏訪朗の刀が身動きの取れない相棒に向かって飛んでいく。
「がはっ……」
「大造おおおおおおおお!」
翠が諏訪朗の止まっている枝に降り立つ。
「私たちのほうがいいコンビだったみたいね」
「あ”あああああ……」
翠は渾身のドヤ顔を見せながら諏訪朗の中翼を引きちぎった。悔しそうに呻き声を上げた諏訪朗は、自身の刀で気絶した大造を抱えてとぼとぼ山を下りていった。
「銀子ちゃん、銀子ちゃん。終わったよ」
「あ、翠ちゃん。ごめん、寝てた。……あれ? 今、銀子ちゃんって……」
「……嫌だった?」
「ううん、嬉しい……やっと友達になれた……」
「今までごめんね」
「何が?」
「私、あなたのこと全然見えてなかったの。だから……」
「存在感……」
「そういうことじゃなくて……まあ、いいか。ありがとう、銀子ちゃん」
子安諏訪朗
燕の遺伝子を持つバードロイド。ハバタキは「燕競り合い」羽根を切れ味鋭い刀にする。連続で高速旋回しながら相手を切りつける必殺技「燕返し」を持つが使う機会がなかった。
狩屋大造
雁の遺伝子を持つバードロイド。ハバタキは「GUNもどき」羽根を銃にする。猟銃がお気に入りらしい。




