表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/20

夢のダンジョン1階層

 ダンジョンのなかに足を踏み入れると、外からは想像できない光景が広がっていた。

 初級ダンジョンは密林を模したような光景でできていて、高低差のある地形が自然のルートとなってぼくたちを奥へといざなう。

 

 ダンジョンの入り口は鬱蒼とした密林になっていたんだけど、なんていうか……ハイキングコースみたいな感じ?

 空には太陽が輝いていて、さわやかな風や綺麗な川まで備わっている。


 これが隔離迷宮都市の初級ダンジョン。

 地上界と天界のはざまにあるからこそ存在する奇跡のダンジョンだ。


 上級ダンジョン以上になると、こんな親切設計にはなっていないらしいんだけど、全方位を警戒しなくていいっていうのは、いまのぼくにはありがたい。


 さらに欲をいえば、もうちょっと歩きやすかったらよかったんだけどね。


 さっき、苔むした岩の上で滑ってこけたぼくとしては、バリアフリーの段階をもう一段階あげるべきって具申するものでありますっ!


「ガアァァァァ!!」


「また来たぜ! トロルの群れだ。数は5体!」


「おう。任せとけ!」


 トロルの群れがぐわぁっと襲いかかってくるけど、オースンさんたちは臆することもなく、手に持った大剣で迎え撃つ。


「オラァっ!」


 オースンさんたちの剣がトロルの肉を裂き、血が吹き出す。


 トロルの群れっていえば、外の世界なら騎士団が出動するほどの脅威。だっていうのに、オースンさんたちは当たり前のように冷静に仕留めていく。

 

 とはいえ、敵もさるもの。


「デセルさん。危ない!」


 オースンさんに襲いかかるフリをして、フェイントで他のパーティーメンバーの背中を襲おうとする。

 デセルさんは全身を金属鎧の重装備をした戦士だ。一撃で倒されたりはしないだろう。


 でも、傷薬だってタダじゃない。

 なにかできることは……


「このっ!」


 とっさに石を投げつけた。

 もちろん、トロルの視界に入らないように走りながら。デセルさんなら擦り傷で済むかもしれないけれど、ぼくが一撃でも食らったら簡単に死んじゃうのだ。


「ギャッ」


 おっと。たまたまだけど眼球にヒット。

 堪らず目を押さえたトロルを、デセルさんの剣が背面から唐竹割り。わーお。すごい。一撃だ!


「助かったぜ、バナ! だが、あんまり無茶すんなよ!」


「はいっ!」


 

 それから残りのトロルたちが全滅するまでそう時間はかからなかった。

 トロルが数を減らしてからの戦いはほぼ一方的なものだった。


(強い……。これが、冒険者……)


 知識としては知っていたけど、改めて目の当たりにすると、実力差がありすぎてくらくらしてくる。

 しかも、これほどに強い彼らでさえメインプレイヤーではないのだ。


 トロルたちを倒し終えたオースンさんが、呆けているぼくに笑いかけてくる。


「おうどうした、バナ。ぼけっとして。ははーん。俺たちの戦いぶりに惚れたな?」


 言って、声を上げて笑うオースンさんたち。


 そうしてほんの少しだけ待っていると、トロルの死体が足元から光の粒子になって、ぼくたちが持つそれぞれのカードに吸い込まれていく。

 これが隔離迷宮都市でモンスター倒すということだ。


 モンスターたちは死ぬと自動的にクレジットやコモンになって、カードに蓄積されていく。

 たまにドロップアイテムが出るけれど、せいぜい1パーセントくらいのレアケースで、ものによってはとんでもない高額で売りに出されている。


 クエストカードを取り出すと1000クレジットと1コモンが溜まっていた。ここにたどり着くまでに倒したトロルたちの数は20体。ちょっとした街なら偉い人から表彰を受けるような成果だけど、この迷宮都市ではちょっと飲み食いできる程度の収入だ。


 そう。地上界なら彼らはとんでもなく英雄で、そして物語の主人公になれる。

 もっといい生活ができるのに、彼らはどうしてこんなところにいるんだろう?


 そんなことを思っていると、オースンさんがぼくの肩を叩く。


「おいおい呆けてる場合じゃないぞ。

 この先が2階層だ。初めてのクエストクリアの心の準備はできたか?」


 オースンさんの指さす先には大きな階段が口を開けていた。

 密林に似つかわしくない異物感。ここからが冒険の本番だ! って感じ?


 どきどきする。

 聞いた話ではこの階段に足を踏み入れた瞬間、クエストがクリアされるらしいけど。


 そっと片足を階段の一段目に乗せた瞬間だった。


『コングラッチェレーション!』


 ぼくの頭の上にに虹色の光の粒子が舞い上がった。

 クエストカードの表面にクリアしたクエストの情報が表示される。


『初めて初級ダンジョンの2階層に到達』

『初級ダンジョンの2階層到達の最低レベル記録を更新』


「え?」


「ん? どうしたんだ?」


「うん。階層到達の最低レベル記録を更新って」


 ぼくがクエストカードを見せると、オースンさんは然り然りと笑った。


「ははっ、そいつぁそうだろうな。クエストが記録されるのはメインプレイヤーだけ。メインプレイヤーっていえばレベル50以上が当たり前だからな」


 オースンさんは笑って済ませるけど、ぼくはさっきよりもドキドキしていた。

 バクバクと跳ねる心臓が痛い。


 クエストカードに表示された情報によると、『初めて初級ダンジョンの2階層に到達』クリアの報酬は100コモン。

 つまり、これだけで『食料発見率向上』スキルの元以上は取れたって言っていい。一緒にクレジットも獲得できているので、この時点で充分に黒字だ。


 でも、そんなことは些細なこと。


(な、なんだ。これ……)


 なぜなら、ぼくのクエストカードに記載されているコモンの数字は、なんと5000を超えていたのだから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ