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ぼくをダンジョンへ連れてって

「おお。バナじゃないか。生きてたのか! 一ヶ月も顔を見せないから心配してたんだぞ」


 ぼくが呼び止めたのはダンディな顔つきの、ゴツゴツしい鍛えられた肉体を持つ冒険者――火を司る神様バスラのクランのサブプレイヤーであるオースンさん、レベル48。


 危ない危ない。ぎりぎりセーフ。

 ダンジョンに潜るのは、規則で一日一度と定められているのだ。少しでも足を踏み入れられたら大変だった。


 オースンさんたちはぼくの姿を見ると、ワシャワシャと頭を撫でた。その手付きは荒っぽいけど、心の底から喜んでいるのが伝わってきて、ぼくのほうもとても嬉しくなる。


 隔離迷宮都市で消費販売されている食料は、ほぼすべてがダンジョンで収穫されているんだけど、この人たちこそがその担当者。

 収穫パーティーって呼ばれるサブプレイヤーさんの皆さんだ。


「なんだ、バナ。やけに笑顔じゃないか。いいことでもあったのか?」


「うん。聞いて聞いて! ぼく、メインプレイヤーになったんだ。ほら、これがクエストカード!」


「うおお!? 本物じゃねえか! こりゃめでたい!」


「その歳でメインプレイヤーなんて生意気な。こいつぁ、次の飲み会はバナの奢りだな!」


「この野郎。胴上げしてやる。そーらワッショイワッショイ!」


「う、うわわ……」


 クエストカードを見せると、オースンさんとパーティーメンバーの人たちは、まるで自分のことのように喜んでくれる。


 ……っていうか、胴上げが高い!

 この人たちってば力があるもんだから、放り投げられる高さが高い! しかも面白がって、くるくると回転させたりしてくるのだ。誰か助けて!


 胴上げから降ろされたときにはぼくはもうヘトヘトだった。三半規管に大ダメージって感じ。よろめきながら、地面に突っ伏す。


「うぅ……吐きそう……」


「で、なんの用だ? 報告がしたくてわざわざ俺を探しに来たってわけでもないんだろう?」


 オースンさんはそんなぼくに首を傾げた。


「はい。お願いがあるんですけど……ダンジョンへ連れて行ってほしいんです」


「……なるほど。クエスト狙いか」


 クレジットやコモンを得る手段としてクエストというものがある。

 冒険者ギルドで受諾するクエスト以外にも、特定の条件を満たせば自然に達成扱いになるクエストがあって、ぼくの狙いは『ダンジョンの○層に到達する』ことでクリア可能なクエストだった。


「だがなぁ……」


 オースンさんは渋面を浮かべた。


 初級ダンジョンにパーティメンバーとして同時に入れるのは規則で5人。そしてオースンさんたちの人数も5人。

 わざわざ一人抜いて足手まといを連れて行くのは……という顔だ。


「お願いします。『食料発見率向上』スキルも取得したんです!」


 そう。これこそがなけなしの50コモンでとったスキル。

 まともな冒険者なら誰も持っていないような、言うなればクズスキルだ。

 ……ぼくだってせめてレアアイテム発見スキルとかそういうのが欲しかったさ! でも50コモンじゃ到底無理だったんだよ!


「クエストクリアで得られるクレジットも全部差し上げます! お願いします!」


 ぼくは必死だった。

 たくさんの冒険者が見ている中での、頭を地面に擦り付けての土下座だって厭わない。

 

 オースンさんは大きなため息をついた。


「そのお願いの意味がわかっているのか?

 金銭の問題じゃないんだ。お前、まだレベル2だろう? 少しでも攻撃を食らったら死んじまう。自殺させるために連れて行くわけにはいかん」


「わかってます。でも、オースンさんしか頼れないんです」


「しかしなぁ……」


「いいじゃないか。オースン」


「イニェリ……」


 渋るオースンさんを宥めるように言ったのは、このパーティのサブリーダーであるイニェリさん。近所のお兄さんって感じの、話しかけやすい人だ。

 イェニリさんは地面にこすりつけたままのぼくの頭を、優しく撫でてくれた。


「なあ、バナ。なんでオレたちなんだ? 仲良くしてるやつは他にもいるだろう?」


「それは……今週はオースンさんたちが一番奇襲の少ない安全なルートの当番なので」


 収穫パーティの皆さんは、ルートや目的地が被らないように週替わりの割り当て制になっている。

 ぼくの記憶だと、今週のオースンさんたち枝分かれのないルートの担当だったはず。攻撃を食らえば一撃で死ぬぼくにとっては、モンスターの強弱じゃなくて、奇襲されないことが何よりも大事だ。


 イニェリさんはぼくの言葉を聞いて肩をすくめた。


「オースンよ。

 このあとバナが何人かに声かけたなら、連れて行ってくれるパーティはひとつくらいあるだろうよ。だが、一番安全なのはオレたちと一緒に行くことなんだぜ?

 ここで断って死なれたほうが夢見が悪い」


「そりゃそうだが……。

 イニェリ。お前、ほんとにバナに甘いな……」


 オースンさんはやれやれと苦笑して、空を仰いで「仕方ないか」と言ってもう一度大きなため息をついた。

 そしてパーティメンバーのなかで一番若い人の肩をたたく。


「おい、お前。朝に腹が痛いとか言ってたな」


「へ?」


「おいおい。めっちゃ痛いって言ってたよな? 今日はダンジョンもぐれないよな? うん?」


 言いたいことくらいわかれよ、とでも言いたげにオースンさんが肩をすくめて、ようやく若い人もぽんと手を打った。

 いきなりお腹を押さえて、


「そうでしたそうでした。酒場のねーちゃんに二股がバレて殴られたんでした。もしかして肋骨が折れているかもしれない。あいたたた!」


「ああ、なんてこったい。こいつは困ったなぁ。パーティーメンバーが足りなくなっちまったぞ。どこかにメインプレイヤーみたいな優秀なやつがいればいいんだが……」


 ここまで棒読みである。

 他の人たちもやれやれ仕方ないっていう表情で苦笑する。


「ありがとう、オースンさん! 他のみんなも! ぼくはなんて幸福な冒険者なんだろう!?」


 ぼくは思わずみんなに抱きついて回ってしまった。

 ぼくが犬だったなら、ちぎれんばかりにしっぽを振っているんじゃないかな。


 オースンさんはぼくの頭をぽんぽんと叩いた。


「お前の事情はある程度は噂で聞いている。夢を叶えたいって気持ちもわかる。

 だがな、はっきり言って無謀だ。うちのクランのやつが同じことを言い出したなら、殴り倒して止めるだろう」


「……」


「だが、そんなことはわかった上でのお願いだっていうのも理解してるつもりだ。だから、何があっても無茶をするなよ」

 

「うん! 本当にありがとう。オースンさん!」


 こうしてぼくのダンジョン初挑戦は始まった。

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