そしてダンジョンへ
次の日。
「ふぁぁぁ……なんかまだ頭のなかで文字が踊ってる気がする……」
というのも、昨日の夜に約束通りきてくれたリミューさんとみっちりと『迷宮都市のしおり』を読破したからだ。
そこでメイア様とリミューさんが鉢合わせしちゃったんだけど、めっちゃ怒られた。男女が同じ屋根の下で暮らしているのは不健全だって!
しかもメイア様のほうにも「お、おんなを連れ込むとは何事か、このバカモン!」と怒られるおまけ付き。
踏んだり蹴ったりである。
「初級ダンジョンは都市の北西、と。……あれかな?」
いま歩いているのは、都市を南北に横断する大通り。
これからダンジョンに挑むのだろうバックパックに装備を背負った人や、すでにきっちりと装備済みの人たちの流れについていく形で北上していた。
隔離迷宮都市にはいくつか迷宮があって、全ての冒険者はレベルに応じたものに挑戦できるようになっている。
って言っても、一人でダンジョンに挑戦するなんて命知らずのやること。実際にはクランの人たちときちんとパーティの計画を立てて赴く必要があるんだけどね。
ぼくが向かっているのは、たくさんあるダンジョンのなかでも一番難易度の低い初級ダンジョンだ。
初級ダンジョンといえども、そこは世界中のトップ冒険者たちが集まる隔離迷宮都市。クリア推奨レベルは50。さらに言うと、クリア推奨レベルは5人パーティで想定されている。なので、
「レベル2がソロで挑戦、ですか? ……自殺志望者か狂人です?」
ようやくたどり着いたダンジョンの受付で、係員をしているお姉さんに呆れかえられるのもしかたない。
ぼくだって知らない人がそんなことを言い出したら全力で止める。
それでもメインプレイヤーの証であるクエストカードを見せると、お姉さんは眠そうにしながら、ダンジョン挑戦者名簿にバナ・トレントンの名前を登録してくれる。
これで、もしもその日のうちに戻らなければ、行方不明者として冒険者ギルドに報告されて、クランに伝わるのだ。
いまのクランには、メイア様とぼくしかいないけど。
「はい。これでお好きなところでお亡くなりになっても大丈夫ですよ。恋人とかいなさそうな顔してるんで、死んでも誰も困らなさそうな感じですし」
それは事実だけど、何も本人に言わなくたっていいんじゃない!?
「ありがとうございます。死ぬ気はありませんけど!」
嫌味をいうお姉さんを脇に、許可をもらったぼくはダンジョンの入り口に走った。思ってたよりも受付で時間を取られちゃったから急がないと!
初級ダンジョンのテーマは密林。
受付から見える入り口は複雑に絡み合ったアーチになっている。
密林と都市の合間は木の柵で区切られてるだけなんだけど、そこはさすがの神様が造った都市。モンスターはそこから出てこないんだって。
「あれが……ダンジョンっ!!」
先はすぐに曲がりくねっていて中は見えないけど、わくわくする気持ちは最高潮!!
入り口の前では何人もの冒険者さんたちが、雑談しながら装備の点検や作戦の確認をしていて、まさしく『いざ冒険へ!』って感じ。
すぐにでも入場したい気分だけど、そこはぐっと我慢。
さすがのぼくでもレベル2でソロで挑戦するほど馬鹿じゃない。
冒険者さんたちをかきわけながら人を探す。
「ああ、いたいた! オースンさーん! 待ってー!」
大声を張り上げると、これからダンジョンに潜ろうとしていた一団が足を止めてくれた。