全力少年
メイア様は言った。
コモンとは純粋な神の力だと。
ぼくは血反吐を吐きながら、ポケットから取り出したクエストカードを指でなぞる。
青く美しい文字で表示されたのは1万5千コモンという数字。
この数字が高いのか低いのか。使い方もわからないけれど、だけど――
「GIAAAAA!?」
オースンさんの剣がオーバーサイクロプスの腹に刺さる。
やつもまた、さっきの大技で体力をだいぶ消費している! 傷の再生が追いついていない!
だけど追撃しようとしたオースンさんのほうも相打ちになるように、巨人の太い腕で打ちのめされた。
剣を腹に残したまま地面に這いつくばったオースンさんを、オーバーサイクロプスが足でぺしゃんこにしようと――
「うおおおおおおおおおおっ!」
ぼくは走った。
神の力をどうやって使うのかなんてわからない。けど、神様! もしもぼくに何かがあるのなら、いまこのときになんとかしてください!
ぼくの雄叫びに気付いたオーバーサイクロプスが、牙を剥いてこちらを向く。
「GUOOOOO!!」
「おおおおおおおお!!!」
――思い出せ。メイア様がぼくにスキルを刻みこんだときのことを。
食料発見率向上を取得したあの日。
メイア様はクエストカードから取り出した不思議なパワーをぼくの手の甲、加護の紋章から力を吹き込んだ。
手がカっと熱くなって、そこから全身に不思議な力が浸透していったのを覚えている。
あれこそが神様の力。人を越えた存在のみに扱うことを許された奇跡のパワー。なんかわかんなかったけど、なんかすごかったやつ!
叩き潰そうとしてきたオーバーサイクロプスの腕を紙一重に避けると、その風圧でポケットにしまっていたクエストカードがこぼれ落ちる。
加護の紋章のあるほうの手――右手でつかむと、不思議な力を感じ取れた気がした。磁石のように牽きあっている感じって言えばいいんだろうか。
「バナ!」
イニェリさんが叫ぶ。振り向くと、サブで持っていた細身の剣をぼくに投げて渡してくれる。
もう「レベル2だから下がってろ」なんて誰も言わない。
むしろ、逆だ。
「やれ! お前ならやれるはずだ!」
普段だったら、なんて無茶なことを言うんだ! って怒られるような言葉だけど、いまのぼくにはとてもうれしい。
冒険者として認められたような、そんな誇らしい気持ち。じーんとした熱い思いが胸を通っていく。
その瞬間、クエストカードに記載されているコモンの数値がなぜか1増えた。
――ああ。これだ!
同時に、何かが不思議な力が加護の紋章を通って、右手から流れこんでくる感じがして、ぼくは大いにうなずいた。
手の甲にある紋章が熱い。まるでその熱さに惹かれるように、銀色のクエストカードが虹色に輝きだす。
そうだ。この力の奔流こそが、あのときのメイア様の……
――その瞬間。何かがカチリと噛み合った気がした。
『半神格化を開始します』
クエストカードからそんな声が聞こえたと同時。
手の甲の紋章から不思議なパワーが全身をめぐって、ぼくという存在を変容させるようなものすごいパワーがみなぎった。
強い力だ。きっと……この場にいる誰よりも、強い力。
なんで? なんて気にしない。そんなことに思いを馳せる余裕なんてない。
強くなったんなら、それでいい。それだけで充分だ!
ぼくは地面を蹴った。
まだ残っていた補助魔法の効果とあわせて、とんでもない力が発揮され、ぼくの身体は中空へと舞い上がってしまう。
「GUO?」
目があった。
ちゃお、サイクロプスさん。こんにちわ。
サイクロプスさんってば素直な感じ。誰が見てもわかるほどに「なにが起きてるんだ」って顔。
奇遇だね。ぼくも何が起きてるのかぜんぜんわかってない。
でも、何が起きてるかなんてどうでもよくって。
「うおおおおおおおおおおお!!」
次の瞬間、ぼくの渾身の一撃――不思議なパワーで光り輝く刃がオーバーサイクロプスの眼球を捉えた。