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英雄 萌芽

「わひぃっ!」


 ぼくの胴体よりも太い足が、すぐ脇を通過していく。

 普段のぼくなら避けることなんてできなかっただろう。補助魔法のおかげだ。

 めっちゃくちゃ体が軽い!


 いま、ぼくにかかってる補助魔法は10を超える。

 筋力強化、知覚強化、対物理シールドに体力強化、自動回復に俊敏性向上。その他もろもろ!


「おひょおおぃっ!!!」


 オーバーサイクロプスの腕がカスっていくだけで、ぼくの体は風に踊る木の葉のように空中でくるくると回転してしまう。


「っとぉっ!」


 でも、ポーズを決めて無事着地。芸術点は満点だ!

 本来だったら、この隙に追撃がくるんだろう。けど、


 ――ズガガガオォォォン!!


 ぼくに攻撃することに夢中になって、無防備になったオーバーサイクロプスの眼球付近に爆炎が連続して上がる。

 魔法使いさんたちの魔法だ!


「GEAOOOOOO!」


 たまらずにオーバーサイクロプスは悲鳴を上げるけれど、まだまだ元気。

 その背中にぼくが登るフリをすると、振りほどこうと大きくジャンプして、着地と同時に地面を揺らす。


「ヴェイル・エッジ!」


「バイレイトぉっ!」


 着地の瞬間、腱に最大の負荷がかかった瞬間を狙って、オースンさんたちのスキルがオーバーサイクロプスのアキレス腱付近を切りつける。


「GUOOOOOOOO!?」


 巨人が叫び声をあげる。


 でも、びしゅっと血が噴き出たのは一瞬。

 すぐに傷口から肉が盛り上がり、血がピタッと止まって、その直後には元気よく動き出す。まだまだすご再生能力だ!


 でも、少しずつではあるけれど動きは鈍ってきた。再生するのに体力を消費しているのだろう。


「いける。いけるぞ!」


 なんて、暢気なことを考えた瞬間だった。


 ――パキっという音がした。


「MUOOOOOOOOO!!!」


 なんの音だろう? さっきまでと巨人の肌の色が……違う? 真っ赤になって……?

 違う! 表皮の鱗が逆立っているんだ! 赤いのは魔力の光。凶悪な威力を秘めた必殺の――。


 ――ぼくは瞬時に走り出して叫んだ。


「隠れろおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 その瞬間。


「GAAAAAAAA!!!」


 オーバーサイクロプスの表皮にびっしりと生えていた鱗が発射された。

 ただの射出じゃない。弾丸のひとつひとつが魔力を伴った、必殺の威力をもった攻撃だ。


 ぎりぎりセーフで巨木の後ろに身を隠した直後、がりがりと幹が削られていく音が鳴る。


 ひぃ! やばい!

 巨木の幹を容赦なく削る音に背筋が凍りつく。


「OOOOOO…………」


 やがて、疲れ切ったような巨人の声とともに、やがてその音は収まった。

 盾にしていた巨木を見ると、ビーバーにかじられたようにボロボロになって、もう少しで貫通するところだった。


「い、生きてる……」


 ぼくは安堵のため息をついた。

 そして、再度オーバーサイクロプスに立ち向かおうとして――


「そんな……」


 絶句してしまった。

 

 ぼくの目の前にあったのは凄惨な光景だった。

 さっきまで目の前にあった勝利の方程式は消えうせて、無惨にも怪我を負った冒険者たちで溢れかえっていた。


 近接攻撃を担当していた冒険者たちはほぼ例外なく地面に倒れ伏し、それどころか遠くにいた魔法使いさんたちにすら被害がでている。


「こんなことって……」


 クラっとする。


 絶望的だ。

 消耗しているとはいえ、オーバーサイクロプスの攻撃力はいまだ健在。逆にぼくたちの攻撃手段は失われてしまった。

 この強大なモンスターを倒す方法が……もう、ない。


「GEAAAAAAA!」


 オーバーサイクロプスが勝ち誇ったように笑みを浮かべながら、ぼくに手を伸ばしてくる。


「くそぉっ!!」


 せめて、その腕に果物ナイフを突き立てようとして、


「させるかぁぁぁっ!!!」


「オースンさん!?」


 それでも、ぼくを守るように立ちはだかったのは、オースンさんだった。血だらけになった肉体で、まだオーバーサイクロプスと剣を交える。


 動くたびに、体中の至るところから血が吹き出す。


「オースンさん、無茶です!」


 全員でなんと戦っていた相手に、たった一人だけで立ち向かうなんて!


「ハッ、冒険者なんていうのはな! いざってときは無茶してなんぼなんだよ!!」


 野生的に笑うその姿は、まるでろうそくの最後の灯火だ。

 でも、オースンさんの奮闘に、絶望的だったぼくの心に気力が戻ってくる。


 2人だけでも勝てるわけないけれど。そもそぼくを戦力としてカウントしていいのかわかんないけど、こんなぼくでもいないよりはマシだ!


「こっちを見ろ! この野郎!」


 ぼくはサイクロプスの足にしがみついた。

 思いっきり果物ナイフを突き立てると、ぱきーんという音を立てて飛んでいった。


 とっても綺麗な澄んだ音!

 予想はしてたけどさ! こんなことばっかり予想通りになるんじゃないっ!


「BUOOOO!」


「ぶげら!?」


 それどころか、足の一振りで簡単に吹っ飛ばされてしまう。

 でも、すぐに立ち上がって巨人と向かい合う。


「BUUU……BUUU……」

 

「……はぁっ! はぁっ!」


 相手も消耗が激しくて、ぼくを追撃することができずにいる。

 敵も味方も満身創痍。

 お互いに「いい加減に倒れろ、この野郎!」って感じだ。


「バカ! なんとかして逃げる方法を考えろ!」


「嫌です! ぼくは、逃げるために冒険者になったんじゃない。オースンさんもさっき言ったじゃないですか! いまがいざってときですよ!」


 考えろ。考えろ。

 何か武器はないか。いや、武器だけじゃ足りない。だって、ぼくよりも遥かに強い冒険者たちでも敵わなかったのだ。何か、何か、特別な何かが必要だ。


 特別な……特別な……。


 ――そして、ハッとした。

 あるじゃないか。この場でぼくだけが使えるものが。

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