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レベル2

今回は脇役視点となります

(あいつは何だ……)


 火を司どる神バルドのクランに所属する冒険者、ルロイは目の前に驚愕していた。


 バナという駆け出し冒険者のことは知っていた 

 彼がヌンドクランを追放されたとき、見つけ出して勧誘しろとクランの事務方に依頼されたからだ。

 もちろん、ダンジョンに挑む冒険者――プレイヤーとしてではなくて、あくまでも従者(フットマン)としてのことだ。


 次にバナの名前を耳にしたのは、100年前に追放された神のクランを結成したと聞いたとき。それだけでも驚きであるのに、さらにレベル2でメインプレイヤーとなったという。


 だが、その驚きも目の前の光景に比べれば色褪せる。


 目の前の巨人、狂熱の(オーバー)ひとつ目巨人(サイクロプス)は文字通りの怪物だ。レベル60の冒険者でも苦戦するだろう。

 密林にぽっかりと空いた広場で、暴君のように暴れまわるその姿はまさしくボスというにふさわしい。


「GUAOOOOO!!」


 巨人が雄叫びをあげる。

 ルロイは魔法使いだ。後方での火力を担当しているので、戦場の様子がよく見わたせる。


 まず、最初――メインプレイヤーとはいえ、たかだかレベル2の冒険者が巨人に向かっていったとき、後方の魔法使いたちの考えたことは同じだった。


『あ。あいつ死んだな』


 もちろん、オーバーサイクロプスの狙いがあの低レベル冒険者なの冒険者たちの共通認識だった。

 とはいえ、低レベルプレイヤーを囮にするほど、ここにいる者たちは腐ってはいない。邪魔にならない程度に避難してくれていればいいと、そう思っていた。


 だが、まさか。


(あいつは何なんだ……)


 目の前の光景はルロイたちの想像を超えていた。


「WOOOOOO!!」


 レベル2の冒険者がオーバーサイクロプスの腕をかいくぐる。速い!

 いや、そんなことはどうでもいい。


 ここにいる魔法使いたちの詠唱が終わったのとほぼ同時。バナを探すオーバーサイクロプスの目がこちらを向く。


「いまだ、撃てえええええぇっっ!!」


「フレイムランス!!」


 即席のパーティーリーダーの合図に合わせ、ルロイを含む魔法使いたちが口々に得意魔法を放つ。

 狙いは巨人の弱点である大きな単眼。


 火線が走り、サイクロプスの眼球に複数の爆裂魔法が直撃する。


 ズドドドオォォォォン


「GYAAAAAA!!」


 巨人が悲鳴を上げ、棒立ちになったところを、さらに近接アタッカーたちがスキルで切り裂き、あるいは貫いていく。


 それはまるで(あらかじ)め決定されていたような淀みのない動き。洗練されたオーケストラのような美しい流れすら感じさせる。


「あれは……計算してやってるのか……?」


 バナの俊敏性は20人近い魔法使いたちの補助魔法を受けてのもの。確かに凄まじいが、まだ理解の範疇だ。


 もっとも、初めて補助魔法を受けた際には、感覚と動きのギャップに戸惑うものだが……。


 いや、そんなことより――


「オースンさん、()()()()()!」


 宣言の直後、オーバーサイクロプスの巨体が跳ぶ。

 股下を()()()背面に向かったバナを踏み潰すためだ。

 もちろん、巨人に視界の外に出た瞬間、バナは走り出していてそこにはいない。


 そして、その着地――もっとも腱に負荷がかかった瞬間を、狙い済ませたようなスキルの一撃が襲う。


「信じられん……」


 言ったのはルロイではない。隣の名も知らぬ冒険者だ。

 だが、同感だ。


 動きはレベル2の初心者冒険者の粗雑な動きだ。速度があると言ってもたかがしれている。

 だが――だからこそ、なぜ今のタイミングで”歩く”という選択肢をとれるのか。


 いや、それだけではない。

 未来を予知しているかのような回避力。テレパシーでも使っているような連携の確かさ。

 

 まるで空から戦場のすべてが見えているかのような……。


 ――一瞬、バナと目が合った。

 その一瞬で、バナがやりたいことと、これからルロイたちがするべきことが伝わってくる。

 腕の動き、視線、体の向き、指先の流れ。そういったあらゆるものでルロイたちに伝えようとしてくる。

 それはまるで、長年連れ添ったパーティーメンバーのような確たる意思疎通。


「信じられない……。あいつは……なんだ?」


 隣にいた同じクランの同僚のつぶやきが聞こえ、ルロイは黙して頷いた。


 誰が信じられるというのだろう。

 200人からなる冒険者たちの戦場をコントロールしているのが、たったレベル2の冒険者だなんて!


 他の誰にあんなことができるだろう?

 身体能力を加味しても、ルロイには無理だ。いや、ルロイのパーティメンバーの誰にも不可能だ。例え、これからルロイのレベル上がり、技術が熟達していっても届かないだろう。


 サイクロプスと戦っている間にも、動きがどんどん洗練されていくのがわかる。戦闘の序盤の動きと比較するともはや別人だ。


「まさかとは思うが……」


 ルロイの脳裏に馬鹿げた考えが浮かぶ。

 この世界において、レベルとは絶対的な強さの指標だ。だが――


 ルロイは乾いた笑みが浮かんでくるのを感じた。


 もしかして……あいつは、レベル2の時点ですでに俺達よりも”強い”んじゃないか?

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