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ぼくが冒険者になった日

「バナ! 死ぬな!」


 ――ハッ、と意識が戻される。

 気づくとぼくはオースンさんに背負われていた。

 

 生きてる!

 でも、体を動かそうとすると、めちゃくちゃ痛い。でも、生きてる!

 

 ずどん!

 

 ひぇっ!

 喜びもつかのま、ぼくの真後ろを凄まじい風圧が過ぎて行って、直後に地面が揺れる。

 見るまでもない。オーバーサイクロプスの棍棒による攻撃だ!

 

「な……なんとか生きてます」


「やっこさん、なんでかしらんがお前にご執心だ!

 おっと、下手に動こうとするなよ。バランスが崩れるからな」


 動くなよって言われても、ドン、ドンと棍棒が掠るたびに走馬灯が見えるんですけど!?


 気を失っていた時間はどれくらいだろう。

 来たときに見たことのある感じの道のりを逆走しているように見える。文字通りの遁走だ。


「おい、ボスだ! 5階層のボスが出やがったぞ! しかもオーバーサイクロプスだ! レベル50以上のやつはいないか!?」


 バラバラに逃げながら、ボスが出たことを触れ回りながら走る。

 この世界におけるレベルっていうのは10の桁が変わると、文字通り桁違いの強さになる。

 ここにいる人たちはレベル40台。そしてオーバーサイクロプスはレベル60台。

 補助するだけならまだしも、正面切って戦える人なんていやしない。


 逃げている人は、オースンさんたちのパーティメンバーだけじゃない。

 収穫ポイントでくつろいでいた人たちもオーバーサイクロプスを見るとギョッとして、一瞬で3階層への階段へと逃げ出す判断を下す。


「に、逃げきれそうですか?」

 

「ああ。3階層にたどり着きさえすれば、階段をくぐってまでは追いかけてこない――」


 ――はずだ。

 

 オースンさんはそう言いたかったんだろう。

 実際、階段が見えた瞬間、オーバーサイクロプスが足を止めた気配を感じた。


 諦めたのかな?

 たくさんの冒険者が逃げようと階段に詰めかけているので、それを見て数の不利を悟ったのだろうか。

 

 なんて能天気なことを考えた瞬間だった。

 

「GOAAAAAAAAAAAAAA!」


 雄叫びとともに、ぼくらの頭上を棍棒が一直線に通過していく。

 その先は……3階層への階段!

 

 ドガァァァァン!!!

 

 すさまじい音がして、3階層への階段がある洞窟が破壊される。

 冒険者が数名、悲鳴をあげて崩落に巻き込まれるのが見えた。

 

「DORAAAAAAAAAAAAAA!」


 勝ち誇るように、オーバーサイクロプスが両腕で胸を叩きながら叫ぶ。

 棍棒という武器を失ったけれど、そんなことはモンスターにとっては問題ではないらしい。

 傍らに生えていた巨木をミチミチミチと根っごと無造作に引き抜いて、手で枝を払う。

 それだけで必殺の武器の完成である。

 ははっ。武器の調達がお安く済んでうらやましいね。


 でも、

 

「や、やばいですよ……これ」


 ゾッとする。

 このフロアには無数の巨木が生えている。

 もしも遠距離攻撃合戦なんてことになったら、あの威力の棍棒がいくらでも投げつけられてくるってことだ。

 

「……こいつは参ったな」


 オースンさんはため息をついて、ぼくを地面に降ろした。

 戦う気だ。無謀だ。

 

 でも、その決断はきっと正しいんだろう。

 ここでこいつを倒すしかぼくたちが生き残る手段はない。


 階段に詰めかけていた冒険者たちも、覚悟を決めた顔で武器を抜いている。


 収穫パーティの冒険者200名。これがぼくたちの総戦力だ。

 不仲なクラン同士の人たちもいるけれど、こうなったら同じ舟に乗る運命共同体。そんなことは言っていられない。

 

 ぼくも果物ナイフを腰だめに構えた。

 なんて情けない姿なんだろう、と思いながら。


 一瞬のにらみ合いの直後、最初に動いたのは冒険者たちの側だった。

 オースンさんが剣を掲げて大声を上げる。


「あれを投げさせるな、突っ込むぞ!!」


「「「おおお!」」」


 サブプレイヤーとは言っても、かつては外の世界で一流の冒険者として腕を鳴らしていた人々だ。

 覚悟を決めたならば、身をすくませるような無能なひとはいない。

 

 遠距離攻撃の魔法使いだけをその場に残して、オーバーサイクロプスに向かって一斉に駆け出す。

 もちろん、全員が一直線に向かったりはしない。そんなことをすれば棍棒投擲のいい的だ。

 四方八方に散らばり、巨木の影に身を潜ませるように、あるいはじぐざぐに走って的を絞らせないように。

 

 一部の冒険者だけが、魔法使いから気を逸らせるために、勇敢にも身をさらして立ち向かっていく。

 示し合わせたわけではないけれど、当たり前のように役割分担をしてオーバーサイクロプスに立ち向かう姿は……

 

(ああ、これが冒険者なんだ)


 いままでぼくが見てきた、街の中での姿や、お気楽な道中の姿とはまったく違う熱を放った人たち。

 

 ――でも。


「GAAAAAAAAAAAAAA!!!」


 いやん。目があっちゃった。

 オーバーサイクロプスさんってば、そんな人たちに目もくれずにぼくに夢中。もしかして一目ぼれされちゃったとか? 照れちゃうな。


「ってそんなこと思ってる場合じゃなぁぁぁぁいっ!!! 棍棒を投擲してきたぁぁぁっ!?!?」


 なんでさぁっ!?


 悲鳴をあげながらダッシュ、ダッシュ!

 投擲された棍棒が、巨木の合間を走るぼくの頭をかすめていく。


 ひぇぇっ……間一髪!

 ぼくが何をしたっていうのさ!?

 

「くそぅっ! 絶対に生き残ってやるからな!」


 考えろ、ぼく。

 自意識過剰かもしれないけれど、どうやらオーバーサイクロプスの狙いはぼくみたいだ。


 棍棒投擲の隙を狙って、冒険者たちがオーバーサイクロプスにとりついて、めいめいに攻撃しだす。

 スキルで、通常攻撃で、魔法で。


 でも、ダメージが通っているのは、魔法使いさんたちの魔法や、魔力を消費する必殺のスキルだけ。

 通常の攻撃は硬い鱗のような肌に弾き返されている。


 スキルや魔法は無限に撃ちつづけることができるものじゃない。打ち止めになってしまえば、なぶり殺しにされてしまう。

 

 そしてぼくの見込みだと、無駄弾なしで全部当ててギリギリ倒せるか倒せないか。

 つまり、このままじゃ厳しいってこと!


「……よしっ!」


 頬を両手で叩いて気合を入れる。


 覚悟は決めた。

 やつの狙いがぼくだっていうなら、その求愛行動に応えてやろうじゃないか。


 魔法使いさんや戦士さんたちが効率よく攻撃するのに重要なことは、敵をその場に釘付けにすること。

 そう。一番いい方法は、狙われているぼくが(まと)になることなのだ。


 心が昂ぶる。

 不思議だね。これからとんでもなく無謀なことに挑戦しようっていうのにね。

 

 どれくらいの時間で倒せるかはわからない。一撃でも喰らえば死ぬ。でも、覚悟は決めた。

 

 なぜならば、ぼくだって『冒険者』なのだから。

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