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片鱗

 4階層にたどり着くと、そこはパラダイスだった。

 空気の爽やかな山! 広い海! 燦々と照りつける太陽!

 

 階段を降りたはずなのにおかしいね。

 でも、これが隔離迷宮都市。神々の生み出した奇跡のダンジョンだ。


 広大なフロアにはいくつか収穫ポイントがあって、それぞれ野菜だとか、モンスターではない動物が生息していたりする。


 そうそう! 4階層の海では魚も採れるんだ。

 舟をここまでもってくる必要があるので、実行する冒険者はあんまりいないけどね。

 浜辺を見ると貝やカニをすごい勢いで収穫しているパーティーがいて、その傍らにはバーベキューセット。

 海産物は採れたてがおいしいもんね。仕方ないね。


 その他にも木に実ったフルーツを採取したり、穴を掘って芋を収穫していたり、野生の豚を仕留めて血抜きをしていたり。


 はえー。すごい。

 たまにモンスターも出没してるんだけど、ぜんぜん苦にせず処理されていく。

 

 収穫パーティさんの話を聞いてていろいろ妄想してたけど、ああやって収穫するのか!

 ウズウズと目を向けると、オースンさんは苦笑しながら肩をすくめた。


「おっと。その前に休憩だ。ここに来るまでにそれなりに消耗してるだろ?」


「はい!」


 第4階層の入り口は安全地帯って呼ばれている。

 何人もの冒険者たちが交互に警戒にあたっていて、とても心強い。彼らもまた収穫パーティと呼ばれる人たち。入り口の警護は、各クラン持ち回りであてられている役割だ。

 もちろん収穫ゼロっていうわけじゃなくて、帰り際に収穫物の5%程度を渡していく決まりになっている。

 

 ぼくたちは用意されたキャンプに荷をおろして、椅子代わりの石に腰を下ろす。

 

 その瞬間、膝からガクッと力が抜ける。興奮に疲労を忘れていたけど、足がぷるぷる震えてる!


 でも、ぼく以外の人たちはさすがだ。すぐに食事の用意を始める。

 

 すごい体力だなぁ。自分の未熟さを改めて感じる。

 

 イニェリさんは水の補給。デセルさんは火を点けるための薪の採取って感じ。ぼくも何かしたほうがいいんだろうけど……。何ができるだろう?


 まだ足がガクガクしてるけど、水汲みの手伝いに行こうかな、なんて――


「……お前、ダンジョンは初めてなんだよな?」


 それを押しとどめたのはオースンさんだった。

 リーダーであるオースンさんは大き目の石を集めて、簡易のかまどを組み始める。こっちを手伝えってことなのかな?


「うん。そうだよ」


 答えながら、オースンさんが集めたちょうどいい大きさの石を積んでいく。

 周りに作られた他のパーティの大きさを見ると、これくらいのサイズでいいのかな? って感じの大きさ。

 

 サイズはこれで良かったらしい。オースンさんは満足そうにうなずきながら、


「そういえば、2階層でトロルに石投げたよな? なんでだ?」


 なんて聞いてくる。

 なんとなくー、って答えようとしたけれど、オースンさんの顔はとても真面目な顔だった。

 

 かまどの準備が終わったので、ぼくはオースンさんと顔を突き合わせる形で座った。


 地面にがりがりと線を引き、石を置く。

 丸い石がトロルで5体。尖った石がぼくたちが5人。線がそのときのダンジョンの壁と経路だ。


「えーと、あのとき……オースンさんは新手の警戒をしながら、ここで3体抑えていたでしょう?」


「ああ。よく見ていたな。それで?」


 ぼくは丸い石を挟み込むようにして置かれた尖った石を指さす。

 

「これがガホットさん。こっちがイニェリさん。これって攻撃する人は常に2対1になるようにしてるんですよね?

 一番体格の大きいデセルさんがこっちに陣取っていたのは、万が一にもトロルの視界にぼくが入らないように、背中に隠してくれていたんだと思うんですよ」

 

 ほんとすごいよね。

 何気ない立ち位置だけ見てもプロの冒険者って感じ。

 ちなみにガホットさんっていうのはもう一人のパーティメンバーだ。


「ほうほう。せっかく守っていてくれていたデセルがいるのに石を投げた理由は?」


「うん。このあとの戦闘の経緯が、こうなってこうなって……こうなったでしょ?」


 ぼくは興奮気味にさらに石を動かした。

 地面に動作の矢印を書いて「こう、こう」と場面を再現していく。

 

 なんで動きを覚えてるかって?

 それは、ひとりひとりの動きに意味があったからだ。その心理を読み解けば、暗記とかじゃなくて流れで再現できる。

 

 そう。ほんとにすごいんだ。

 ここにくるまでに何度も戦闘があったんだけど、どれもこれもすごかったんだ。

 敵も味方も入り乱れての乱闘に見えたけどそうじゃない。お互いにちゃんと意思疎通を取りながら、役割を交代させながらの、秩序ある戦闘だったってことだ。


「デセルさんがこっちに移動したときはオースンさんがこっちに来て、ガホットさんがこっち。

 このとき、2対1になっているトロルの援護をしようと、敵の意識が向いたのを確認してからデセルさんは移動したんです。

 相手はぼくがここにいるなんて相手は思いもよらなかったはずです!」


「……石を投げる理由になってないな」


 ぼくは、さらに石を動かす。


「石を投げた瞬間の状態はこうです。

 イニェリさんの背後にいるトロルに併走するようにデセルさんが追いかけている。でもトロルのほうは多少のダメージを受けてもイニェリさんへと攻撃するつもりでした」


 あれは割と危険な状態だったんじゃないかな。

 あのままいくと、決壊したりはしなかっただろうけど、それなりのダメージを受けて消耗したはずだ。


「だからこっちに移動しながら石を投げたんですよ。あのトロルがいざというときには、左向きに回転するのは見えていたので、ぎりぎり視界の端に映るように」


「なるほど。それでトロルはお前の姿を追いかけてしまった、と。そして」


「はい。背後をとった形になったデセルさんが斬りました」


 デセルさんもすごい。ぼくの稚拙な作戦を完全に理解して、牽制のためのスキルを撃とうとしていたのを、一瞬の判断で必殺の一撃に切り替えたんだから。


「なるほど……。なるほど……」


 オースンさんがうなずくけれど、自分の動きを採点するなら70点くらいかな?

 初めての戦闘だったから、ちょっと緊張しちゃってた。


「近接で戦ってる相手のことを忘れてしまうなんて知能の持ち主はトロルくらいしかいないので、他のモンスターに使えるもんじゃないですけどね」


 ダンジョンには潜ったことなかったけど、ずっとイメージトレーニングしてたんだ。

 その努力が実ったようでちょっぴり嬉しい。

 クランや交流会でいろんな冒険者さんたちに話を聞いておいてよかった。

 

 ふひひ、と誇らしげに笑っていると、


「……お前、ほんとにダンジョン初めてなのか?」


 オースンさんがぼくを見る目は、なんだか変なものを見るような目で……。


「え?」


「いや、なんでもない」


 何か悪かったのかな?

 だったら言ってもらえると嬉しいんだけど。

 

 ――と、


「おお、いつもよりちゃんとかまどが組み上げられてるじゃないか」


 ここでイニェリさんやガホットさん、デセルさんたちが戻ってきて、ぼくたちは食事の準備に取り掛かった。

 オースンさんは何が言いたかったんだろね?

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