決着
「取った!」
≪何を!≫
振り下ろされた光の刃はゴーレム・ロードがギリギリで回避行動を起こしたことにより、その表面を焦がすにとどまった。
「この距離で避けるなんて!」
「文句言ってないで距離をとったほうがいい」
「はいよ」
もう一度仕掛けるために再び距離をとる。正攻法では勝ち目がないことはこれまでの戦闘で分かっている。それにマリオンの魔術の展開時間にも限界がある。
≪何をしようと無駄だ!そのような小さなゴーレムとこのロードでは基本性能が違う。熱源と魔力が探知できなかろうと!君に止められるものか!≫
霧の中から光の塊がリノセウスに放たれ、そして次の瞬間には背部の防御用バインダーの一枚を巻き込んで右腕が蒸発した。コックピットの右側がわずかに熱を発する。そのほんの少し後に城壁に着弾する寸前の弾が掻き消える。どうやらクラッドがまた転移させたらしい。ジャックは霧で視界を悪くしてしまった以上、クラッドからの援護防御は期待できないことを失念していた。
「この熱量は私じゃ防げない」
「なりふり構ってられないか!」
ジャックは覚悟を決めて再びゴーレム・ロードへ接近する。今度はコックピットを狙う。そう決めたときにわずかではあるが手が震えた。明確な意思をもって人を殺すのはジャックにとってこれが初めてのことだった。
機体のカメラがゴーレム・ロードの影を捉えた瞬間、マリオンがジャックの左腕に手を添える。ジャックは捉えた影の形からコックピットのおおよその位置に見当をつけて刃を放つ。今度は回避されるのを前提に、もっと踏み込んでだ。
「今度こそ......!」
≪やられるものか!≫
今度の一撃もゴーレム・ロードが回避行動をとったことによって致命的なダメージはならない。しかしコックピットを守る装甲を焼き切った。カメラ越しにルヴィクの姿が見える。
ゴーレム・ロードは反撃とばかりに残っている腕で振り払う態勢に入った。大きく踏み込んで放った攻撃を回避されたリノセウスは防御態勢をとる他ない。
「ベータ、着地は任せる」
「着地態勢、準備」
「マリー!」
「いってらっしゃい」
ジャックはコックピットを開け、機体制御をベータに任せるとマリオンに声をかける。する彼女は風魔術をジャックに付与してゴーレム・ロードに向かって吹き飛ばした。まさに弾丸のように射出された彼は一瞬にしてゴーレム・ロードのコックピットに到達して内部に滑り込む。
「これが狙いだったとでも――」
「止まりやがれぇぇぇ!」
瞬間、電気を帯びた彼の義手がルヴィクの顔面にヒットした。
***
リノセウスが落下していく。といっても動かなくなったわけではないので数瞬のうちに地面に着地した。
「止まりやがれぇぇぇ!」
ゴーレム・ロードからジャックの叫び声が聞こえた。マリオンはリノセウスから降り、そして見上げ る。維持していた霧の魔術は解いておく。決着がついた。ような気がしたのだ。
いくらかの時間の後、ゴーレム・ロードは力を失ったかのように腕をだらんと垂らし、そして仰向けに崩れ落ちた。
「仕留めた......?」
「ゴーレム・ロードのリアクター停止を確認」
マリオンの言葉に応えるかのように機体制御をしていたベータがゴーレム・ロードの停止を告げる。どうやら本当に城への侵攻を止められたようであった。
「よう、マリオンお嬢様。見たところ決着は着いたみたいだな。ロイス君は?」
城壁からどうやってかいつの間にか来ていたクラッドが声をかけた。2度の高威力の攻撃を転移させたせいか、彼の顔からは疲労が見て取れた。
「あそこ。まだ出てこない」
「生身で突っ込んだのかよ?若者は無茶するねえ」
「死んではないから多分大丈夫」
「いや、そういう問題なのか?」
クラッドがゴーレム・ロードのコックピット付近に視線をやるとそこから人影が現れる。
「終わりましたー!」
ほとんど沈みかけている日の光を受けて笑みを浮かべて手を振るジャックと、彼がやっとのことで担いでいる顔面を腫らして気絶したルヴィクの姿があった。