燃える王都3
「よっとぉ……」
外壁の上に散らばった城壁や防衛兵器の破片を乗り越え、援護に最適な位置を探す墓守のクラッド。彼は一般的に上位属性と呼ばれる時間、空間、幻の魔術を主に操る。人間相手ならば標的の時を止める、空間ごと切断するなどして排除することは可能だが、相手は城のように大きなゴーレム。理論上可能ではあろうが、クラッド一人で成せるほど簡単なことではない。第一魔力が圧倒的に不足するだろう。
「援護援護……」
ならば自分に何ができるか、それを数秒思案した後に思いつく。攻撃は非現実的ならば防御はどうだろう。例えば空間魔術でゴーレム・ロードの放つ飛び道具を別座標に転送すれば、ジャックは攻撃に専念できる。
「よおし、援護開始だな」
両の腕をゴーレム・ロードの方へ向ける。別に向ける必要はないが、こうした方が感覚的にやりやすい。目の前にリノセウスが陣取り、そのまま突進していく。
「来たな!座標設定、転送先設定.......と」
両手の親指と人差し指で長方形を象り、自身を原点とした座標を設定する。ゴーレム・ロードは近づくリノセウスに銃口を向け、数発光の銃弾を放った。リノセウスは回避に入る素振りを見せるが、即座にクラッドが大声で指示する。
「避けるな!攻撃だけ考えるんだ!」
指で形作ったフレームに敵の銃口を収め、空間魔術を発動する。リノセウスの前面に発動した魔術がゴーレム・ロードの放った弾丸のすべてを飲み込んだ。そして――
「カウンターだ!」
ゴーレム・ロードの側面に設定された空間魔術が起動し、先ほど飲み込んだ弾丸が直撃する。
≪なっ......!バカな!?≫
≪助かりました!このまま突破します!≫
ゴーレム・ロードから驚きの声が、リノセウスからは感謝の言葉が発せられる。クラッドはいくらも消耗していない素振りで次の術式を組む。火や風といった元素系の魔術に比べ、上位属性と呼ばれる空間、時間、幻の魔術は周囲に与える影響が大きい分消耗も激しい。いくらクラッドが精鋭ぞろいの墓守の1人とはいえ、そうそう規格外な魔術を何度もは使えない。攻撃の転送座標はより致命的なダメージを与えられる位置にしなければならない。
ゴーレム・ロードは返された光弾を腕に受けて盾を持つ腕が半ばからちぎれている。リノセウスの攻撃の大半をはじいてしまう防御を封じられたのは僥倖といえる。
「思い切りのいい!」
クラッドはジャックの思い切りの良さを褒めながらも、ゴーレム・ロードから視線を離さない。一度発動させた転移魔術を警戒して光弾は乱用してこないだろう。であれば下手に攻撃などはせずに防御に徹してリノセウスを動きやすくさせたほうがいいとクラッドは判断する。
当のリノセウスはといえば、ゴーレム・ロードの頭部に設置された近接防御用のバルカン砲を避けつつ、肉薄していた。
***
「魔術じゃない、物理攻撃?あの連射速度はやばいな」
人が扱う銃ですら現存するものは数えるほどしかないにも関わらず、目の前のゴーレム・ロードは東部にそれよりも大きな弾丸を高速で連射する機構の兵器を備えている。体格差からリノセウスの背にあるバインダーを盾にして押し通るにしても、受けきれるか疑問が残る。今は非難が進んで無人と化しつつある建物を遮蔽物代わりに距離を詰めているが、近接戦闘の間合いになればできるだけ早く決着をつけなければならない。
「あれだけの物理攻撃、魔術で防ぐのは非効率。防ぐにしても土魔術とかで物理障壁を構築するほうがいい」
マリオンが魔術を防御に使った場合についても補足してくれる。彼女の魔力をもってしても、持って数秒とのことだ。それならば猶更時間をかけずに、隙を晒さずに戦わなければならない。
「どちらにせよ、この光の剣で動力を貫いてぶっ壊すのが一番手っ取り早い。ゴーレム・ロードの弱点はわかるか?」
「胸部のコックピットをパイロットごと潰すのが最適解」
リノセウスのコアになったベータが無慈悲にも敵パイロットの殺害が最も最適と告げる。が、それにはジャックが同意しかねる。
「そうじゃないんだ!殺す以外に止められないのかよ!」
「背部バックパックにあるリアクターを停止させられれば可能」
「それなら!」
ベータからの回答に、ジャックは納得して行動に移す。
「ロードの周辺に霧、それとこちらの熱源を偽装する水魔術!いけるか?!」
「その程度、造作もない」
マリオンに水魔術の指示をすると、一気に詰め寄る。ゴーレム・ロードの探知能力がリノセウスと同様のものであるとするなら光学カメラによる直接の視認と熱源探知。加えて魔力探知だろう。それなら霧を発生させての視界制限と水魔術による熱源の偽装で事足りる。強力な魔術師であるマリオンが広範囲に魔術を使えば魔力探知は短時間ではあるがごまかせるはずだ。
マリオンはジャックの指示に従い一帯を霧でおおい、装甲に水をまとわせて放熱を促した。
「よし、行くぞ!」
念のため光の剣の刃を収め、一気に肉薄してゴーレム・ロードの背後に回る。そして地を蹴って飛び掛かる。霧の中のゴーレムロードはリノセウスと違い熱源を偽装できていない。視界には捉えられなくとも探知はできる。霧をかき分けて、ゴーレム・ロードの姿を視認する位置にまで至る。そして――
「取った!」
即座に逆手に持った剣の柄を振りかぶり、刃を発生させて振り下ろした。