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箱庭の眠れる巨人 


「と、いう訳なのだ。勝手をしたことは謝罪するが間違ったことはしていない。遺跡の調査経験がある私がいたほうが事はうまく進むはずだ」


 その甲殻人(シェルズ)、ダンテは事情を話終えると頭を下げた。大柄な亜人が動くと周りのガラクタに当たり、ガタガタと揺れる。


「先ほどあなたは王に許可を頂いたと言っていたが、許可など貰っていないじゃないか!」


 初めて亜人を見るジャックが興味と驚きで茫然としていると、フランが声を荒らげる。アンリを尊敬している彼女らしい発言だ。


「何を言う。城外に護衛を伴わずに出てはいけない、面倒は起こさない。そのどちらもやってはいないではないか」


「この状況が既に面倒事だ!」


 ダンテは巨大なハサミでつまみ上げていたマリオンをジャックの前へポンと置くとフランに反論する。彼の言葉を信じるなら確かにアンリの言葉には反していない。屁理屈ではあるがこういう立ち回り方もあるのだな、と心に留めておくジャックをよそにクラッドが2人を仲裁していた。


「ダンテさんの言うことは屁理屈かもしれないが、ルーシェさん。この手の"生きている"遺跡と言うのは世界規模だとそこそこあるんだよ。"呪縛の土地"よりは多いな」


 侵入すると数時間と立たずに死に至ると言われている土地を比較対象に挙げて説明するクラッド。彼の所属する墓守は少ないながらも国外にも守護の契約している墓地を持っているため、国外の事情には詳しい。

 それに、と彼はつづけた。


「それに、嘘か誠かダンテさんは遺跡の調査経験があるって話じゃないか。本当なら彼の案内に従っていけば成果は見込めるし、嘘なら犠牲になってもらう。構わないだろ?」


「問題ない。私もそのつもりできた。それくらいしなければ信用は得られないだろうからな」


 ガチャリと音をたてて置いてあるガラクタを押しのけつつダンテは頷いた。彼はいつの間にか頭部の"巨大ガニ"からぬっと出てきた脚のような細い腕に魔術の触媒などの道具を、左手に太くしたレイピアのような刺突剣が握られていた。加えて"巨大ガニ"の2本の大バサミはそれだけで下手な金属を切断する威力を有する。上質な金属を使用している箱庭のマシンでも動きを阻害する程度の効力はある。


 それを見てジャックは思う。なるほど、こうも種としての在り方が違えば人間は亜人を忌み嫌うものだ、と。それは別にダンテに限ったことではない。エルフなら人間を超えた魔術行使能力や知能を、獣人なら素早い身のこなしと優れた身体能力を有している。

 同じ"人"というくくりの中でありながら人間をゆうに超える身体能力を有しているのだ。引け目を感じるのは当然のこと。それが自然と嫉妬や憎しみといった感情に変換されていくのかもしれない。そしてそれが争いへと繋がっていく。

 この世の知的生命体の大部分が"人間"という種族である以上"亜人"は迫害される運命にあるのかもしれない。


「スキャン完了。3階層下にベータ・マグナスの反応を検出。移動不可能。救出を推奨」


 ダンテとフランの言い争いが続く中、マリオンの抱える人形(アルパ)が突如として声を発した。それは普段の彼とは違う口調で、言うならば取得した情報を羅列しているようだった。ジャックがアルパのコアを再起動したときと似た状態だ。


「マグナス?うちの工房のアンドロイドか」


「肯定。ベータの状況は深刻。機体は大破。コアの救出には直接の取り出し以外は推奨できない」


 ジャックの呟きに反応したアルパがベータのコアが操る機体が既に動ける状態でないことを告げる。


「アルパ?アルパ!?」


 マリオンは普段と違う口調で話すアルパに驚きブンブンと上下に振っている。あれで直せると思っているのだろうか、とジャックは考えるがそうこうしているうちにアルパが次の言葉を発する。


「あー、マリオン。そろそろやめてくれないか。通常モードに……いや、直ったから」




 正常に戻ったアルパが言うには、箱庭に侵入した時点でベータが定期的に発信していた救難信号をキャッチしたとのことだった。正確には城でアンリと面会する少し前に受信して侵入するまでに解析をしたとのことだが。

 その後箱庭で正確な座標を特定した彼は詳しい状態をベータ自身に直接聞き、今に至るのだという。彼が一言も喋らなかったのはそれが原因だ。


「先頭をダンテさんとレオ、後ろは俺とルーシェさんで固める。ロイス君とお嬢さんは真ん中だ」


 戦闘経験の少ない2人を守る形で隊は列を組み、調査を再開した。探知に長けたダンテと近接戦闘に長けたレオポルドが居れば不意の敵襲も防ぎきれると考えてのことだ。マリオンの火の魔術で防御の障壁を張れば例のビームも防げるだろうし、遠距離支援も行える。後ろには比較的近距離での戦闘経験の多い魔法剣士のフランと、高度な魔術を巧みに操るクラッドの2人を配置することで後方からの奇襲、または挟撃を仕掛けられても対処可能という寸法だ。


 奥へと進んで行く5人。ダンテの探知魔術の有効射程は人間のそれを遥かに超えており、一度も接敵せずにある程度の所まで潜り込むことができた。何度も曲がり角を右へ左へと進み、方向感覚が狂って久しい。自分がどこにいるかなど検討もつかない。


「止まれ」


 どのくらい経っただろうか。ダンテが曲がり角の手前でハサミで後続を制し、壁に張り付いた。皆もそれに倣って壁に張り付く。

 レオポルドとダンテが静かに顔だけを出し、様子を伺った。

 そこには"教会"の司祭の服装をした男とその取り巻きの従士の3人がゆっくりと歩いていた。


「教会の司祭以下3名を目視しました。戦闘準備を」


 小声でレオポルドが後ろの4人に注意を促した。それを聞いたジャックらはそれぞれの得物に手をかける。


「奴らはここで何をやっている?」


 クラッドが疑問を呟く。箱庭に不法に侵入した教会だが、何か目的があってこんなにも奥まで入り込んでいるはずなのだ。それが先ほどアルパに言っていたアンドロイドなのか、それとも別の何かなのかはわからないが、目的を達成するためにはかなりの時間を要することは確かだ。


「ベータのコアは近くに旧文明の崩壊時に残された巨大ゴーレム、ロードの存在を報告している」


「何?」


 アルパの言葉にジャックは思わず聞き返した。巨大ゴーレム、ロードというのは簡単に言えば文字通り巨大なゴーレムのことだ。しかし、性能は全く違う。まずロードの平均的な大きさは15mほど。キルナでジャックが整備したマグの3倍に及ぶ。そして装甲はロードの持つ武装の他は砦に設置されている武器等の破壊力の強い武器でしかダメージを与えられないとされている。

 さらに驚くべきは携行火器の火力だ。ライフルは実弾のものと箱庭の防衛兵器が使用したようなビームを撃ちだすものがある。ビーム兵器は撃ちだせばその射線上のもの悉くを蒸発させ、それは大気による減衰で熱量が無くなるまで続く。実弾の方も当たれば城壁さえたやすく貫通する威力だ。その他にも拠点攻撃、防衛に使われていたバズーカなどの特殊兵器もあるが、そこは割愛する。

 近接武器は刃が赤熱するロングヒートソードだ。使い勝手もよく、赤熱させれば巨大なビルであろうと一瞬で切断できる。

 非常用の武器として刃を振動させて敵を切断するソニックブレードというナイフを脚部に内蔵している。が、これは周囲に高周波のノイズをまき散らすので市街地での使用は避けるべきとされている。

 そんな規格外の兵器だが、一部の機体は魔術を併用したつくりになっているという。もしかしたら教会の目的はこれかもしれない。


「ロイス君、何か知っているのか?」


 クラッドが聞く。彼は魔術ほど機械には詳しくない。


「読んだことのある本に少し記述があっただけですけど」


 ジャックは記憶した知識を皆に共有した。今の時代にそれが起動したならば、国の1つや2つは容易に破壊しつくせると。そしてそれならば教会の目的となりえるのではないか、と。


「確かにその性能ならば教会が欲するのは分かる。だが、それを何に使う気だ?侵略など始めようものなら各国が黙っていないはずだが」

 

 ダンテの疑問はもっともだ。それに教会は平和を貴ぶ組織だ。自らが進んで争いを起こすことはないはずなのだ。ロードの使い道はいくら考えても分からない。


「とにかく一度体勢を立て直して、アタックをするべきだ。足りないものが多すぎる」


 ダンテの案に皆は頷く。今回の調査は威力偵察の意味合いが強い。このまま最奥まで進んだとしても何無事に帰還できる保証はない。


「新手のマシンが近づいている。どちらにせよ一度ここを離れるべきだ。これ以上ここに居たら挟撃される」


 ダンテは立ち上がり、反転してきた道を引き返そうとする。が、数歩進んだところでぴたりと足を止めた。そしてゆっくりと剣を抜き、後ろの腕に持った触媒に魔力を込めた。それを見て全員が得物を構える。


「マシンが包囲するように動いている……。何時から気づいていたんだ?」


 ダンテの言葉に反応して、静観していたアルパが再び喋る。


「最短ルートを検索。ナビをします。ダンテ・ジャンドナート、私を持って先頭を。あなたの探知魔術と

組み合わせてルートを検討するので」


 アルパはマリオンの腕を飛び出してダンテの頭の上につかまると振り落とされないようにしっかりと張り付いた。


「了解。皆、撤退する。アーチボルト殿、よろしいか?」


「もちろん。殿は任せなよ。レオ、お嬢さんを運んでやりな」


 自信を持って答えたクラッドは即座にレオポルドに指示をする。指示された彼は即座にマリオンを拾い上げると肩車をして姿勢を安定させた。ジャックはそのまま攻撃して彼女が転げ落ちないのかという心配をしたが、そこは墓守。それも近接戦闘のスペシャリストのレオポルドなら問題なくこなせるだろうということで納得した。


「もたもたするな。敵機急速接近。正面を突破する」


「私があの光を防ぐ」


 走り出したダンテに続いてレオポルドに肩車されているマリオンが熱を遮る防御障壁を展開した。

 ダンテが曲がると同時に通路の奥から光線が3つ、彼を狙って飛んできた。それは先の幻術障壁とは違いマリオンの展開した障壁によって容易に防がれる。


「止まるな!!」


 一気に距離を詰めたダンテが剣を突き出して1機仕留めると、すれ違いざまに両腕のハサミで残りを挟むと、メキメキと音をたてて機体を押しつぶし、そのまま切断した。その残骸の中を後続が走り抜ける。

 後ろからマシンが追ってきている気配がするが、構わず走り続けた。


「お嬢さん!障壁の効果は熱遮断だけか?」


「そう!とっても高密度なもの!」


「助かる」


 マリオンに魔術の詳細を聞いたクラッドはそのまま聞いた通りの防御魔術を感覚的に構築した。基本的に"上位属性"と呼ばれている属性の魔術を得意としている。が、同時に火や水などの基本的な属性の扱いは苦手だ。苦手と言っても一般的な魔術師よりは遥かに上手いので大抵の魔術を使うには問題ない。

 クラッドは自らが行使する魔術に一切の熱を遮断するイメージを、思考を送りこんだ。思考こそが魔術の源だ。"魔術"は知性なしには扱えない。


「これで後ろも多少はマシか」


 追ってくるマシンの光線を、仄かな光とともに見事に防いでくれている自らの魔術を見てクラッドは胸をなでおろす。その少し前でジャックは息を切らしながら自身の運動不足を呪っていた。



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