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環が雅付きになったのは、母も侍女をしていて、年が近いために一緒に遊ぶことが多かったからだ。
二人は姉妹のように育った。
環が侍女になったら、当然のように雅付きになった。
だから雅の兄達のこともよく知っている。
長男の光は年の離れた妹をよく可愛がってくれた。
そして環のことも。
それが侍女仲間に良く思われていないことも知っていた。
「まったく、どこにあるのよ!」
雅からもらったリボンなのに!
侍女仲間は捨てたらしい。
醜い嫉妬に泣きそうになる。
ここら辺にないだろうか?
裏庭の暗闇の中、ランプをかざしながら探す。
やがてボロボロになったリボンが出てきた。
「環?こんなところで何をしてるんだい?」
突然声をかけられて、環はビクリと肩を震わせる。
恐る恐る振り返ると、不審な顔をした光がいた。
「光様…どうしてここへ?」
ここは裏庭だ。
王子が来る場所ではない。
「急いでいる君を見かけてね。
ちょっと様子がおかしかったから」
気になって、と光は微笑んだ。
その微笑みに安堵する。
「あれ?そのリボン…」
握っていたリボンを慌てて後ろに隠すが、遅かったようだ。
ばっちりと見られてしまった。
それで察したのだろう、光は何も言わなかった。
王子が口出しをして良いことではないのだ。
「さぁ、もう戻ろう。体が冷えてしまうよ」
「…はい」
光がそっと肩を抱いてくれる。
そんなことをされると勘違いしてしまいそうになる。
彼は王子で、私は侍女。
本来なら、話すことも出来ない相手。
それなのに…
そっと見つめると視線に気づいたのか、光は微笑んだ。
それから光はお菓子をくれるようになった。
内緒だよ、と言って。
慰めてくれようとしているのだろう。
最初は困惑したが、光の気持ちが嬉しくて受け取るようになった。
くれるお菓子は様々で、環の心を癒してくれた。
手元には残らない贈り物は、侍女仲間から捨てられることはなく、安心できた。
きっとそれも考えてくれていたのだろう。
そんな優しい光にますます惹かれた。
「光お兄様は環がお気に入りなのね!」
「雅様!そんなことありません!」
「あら、違うの?
私、知っていてよ。
光お兄様が環に贈り物を欠かさないって」
環が光お兄様の妃になったらいいのに。
そう言って微笑む雅に愕然とする。
私は何をしているんだろう?
浮かれて、お菓子を受け取るなんて。
身分違いも甚だしい。
お菓子は受け取ってはいけなかった。
「楽しそうだね。
何の話をしているのかな?」
「光お兄様!」
「美味しいチョコを手に入れたんだ。
二人で食べるといい」
突然の光の登場に環は戸惑う。
「お茶を入れてまいります!」
視線を光から逸らし、慌てて部屋を飛び出した。
環が出て行った扉を見つめ、雅は光に問いかけた。
「それで、環をどうするつもりですか?
何も考えていないなら、私が連れて行きますからね」
もうすぐ雅は隣国に嫁ぐ。
そこに環を連れて行くというのだ。
「それはダメだよ」
「ダメということは、ちゃんと考えていると?」
「もちろん、考えているよ。
そのための準備もしている。
だから連れて行くのは許さないよ」
光の言葉に雅はホッとした。
光が環を好きなことは知っていた。
環も幼いころから光だけを見ていた。
大好きな二人だからこそ、幸せになってもらいたい。
「分かりました。
それなら安心して環を任せることができますわね」
姉妹のように育った環。
兄ならば、きっと大丈夫だろう。
幸せにしてくれるはずだ。
「幸せにする。
雅の分も環を守るよ」
「絶対ですからね!」
雅の言葉に光は力強く頷く。
「お待たせいたしました」
ちょうど環が紅茶を用意して戻って来た。
「ありがとう、早く一緒に食べましょう!」
雅が手招く。
その隣に座って、環は紅茶を入れた。
美味しい!とチョコを口に入れた雅が微笑む。
「さぁ、環も食べて」
チョコを渡されても、食べることが出来ない。
これを食べてしまったら、もう戻れない気がする。
きっと環は雅と一緒にこの国を出て行く。
だから光への想いを忘れなければいけない。
でも、チョコを食べてしまったら、この想いは体に染み渡って忘れることが出来ない。
そんな気がするのだ。
「ほら、美味しいわよ!」
痺れを切らした雅が無理やり口にチョコを入れる。
甘い芳香が口いっぱいに広がる。
「美味しいです…」
環がそう言うと、光は「良かった」と言って微笑んだ。




