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焦る気持ちを抑えて、環は雅姫に告げる。
「姫様急いでこれに着替えて下さい」
差し出したのは侍女の服。
「侍女に紛れましょう。
私が時間を稼ぎますから、その間に逃げて下さい」
そう言いながら環は雅のドレスを着た。
これから姫の身代わりをするのだ。
バタン!と扉が開かれて、雅と共に驚く。
部屋に入ってきたのは二番目の王子の昌であった。
環はホッと息をもらす。
「雅!大丈夫か!?」
傷ついた格好の昌が雅に近づく。
その姿に雅の緊張が緩んだ。
「お兄様!」
雅がぎゅっと抱きつく。
「雅。お前にこれを渡そう」
そう言って雅の首にかけたのはキラキラと光る小さな鍵。
「これはとても大切なものだ。
決して無くしてはいけないよ。
これがあれば我が国はまた復興することが出来るのだから」
「ダメよ、昌!!」
突然現れた金髪の美女が昌に向かって叫んだ。
「この国を継ぐのは貴方よ!
それ以外は認めないわ!」
「蝶、誰よりも君を愛しているよ。
だからこそ、君を守りたい。
雅と一緒に行ってくれるだろう?」
ずるいわ、と蝶が昌に抱きついて泣いた。
昌は愛おしそうに蝶の背中を撫でる。
「さぁ、時間がない。
詳しい説明は君からして」
そう言うと昌は蝶の頬をそっと撫でた。
その瞬間、蝶は消えた。
初めて見る精霊の姿に環と雅は驚く。
そんな雅を見て、昌は扉を指差す。
早く逃げろ、と。
飛び交う怒声と足音に金属音。
王宮はすでに火に巻かれている。
「大丈夫です。
きっと助かりますから」
そう言って環は雅の背中を押す。
「さぁ、もうすぐここにも兵が来ます。
早く逃げて下さい!」
どうか、無事に逃げてくれますように。そう祈った。
「昌様も早く逃げて下さい!
貴方だけでも生き残って!」
「だが!」
傍にいた昌の背中も押して部屋から追い出す。
扉に鍵をかけると環は鏡台の前に歩いていく。
これを扉の前に置くのだ。
そうすれば少しは時間を稼げるだろう。
震える手を必死に動かし、環は最後の準備を始める。