第8話 座右の銘はゴーイングマイウェイ(今決めた)
「トロールを呪いに侵させて、魔物を殺させる。理解は出来るが……胸糞悪いな」
護衛さんが呟く様に吐き捨てる。私も、同意見だ。
「……言いたくはないけど、効率的で理にはかなってる。けど……どこか壊れてる」
いくら魔物とはいえ、同士討ちで殺させることに、普通なら抵抗を感じる。魔物を罪悪感も無く斬り捨てた私達が言えたことではないが、それでも。
これを仕組んだ人間は何を思ったのだろう。
それほど魔物が憎かったのか。罪悪感はなかったのか。どちらにせよ、なんにせよ、どこかが壊れてしまっている。
「……呪い、か」
一つの考えが、頭に浮かぶ。同時に葛藤も。
これはただのエゴじゃないのか。そのせいで犠牲になる人がいるんじゃないのか。そんな考えが頭をよぎる。
(……何を今更。あそこを飛び出した時、自由に生きると決めたはず)
本当に今更だ。何を悩むことがあるのか。
世界を見守る役目を放り出した。それは私の利己。なら、その自我を貫く。
自由に、楽しく生きる為に、私はやりたいことをやって、助けたいものを助ける。
「――私、アレを止めるよ」
突然の私の言葉に、しんとする。が、一拍のち、案の上護衛さんから制止の声が掛かった。
「……何言ってやがる馬鹿野郎! お前が強いのは分かった、だがあれは次元が違う! ただでさえ驚異的な力を持ったトロールがカースドとやらで強化されてるんだぞ!?」
思わず、笑みを浮かべた。馬鹿にしている訳じゃない。さっさと逃げてしまっても誰も責めないのに、さほど面識のない私を心配してくれるのが嬉しかった。
「第一、止める理由がないだろ? ほっとけば勝手に魔物を狩ってくれるし、いずれもっと上位の魔物か、数の利に負けて自然に倒れる」
「……イロハ、私も同意見。思うところはあるけど、危険を冒してまで止めるものじゃない」
「だけど、この状況は、アレが引き起こしたものでしょ?」
畳み掛けるような説得の言葉に、一言返す。当事者であるみんなは、言葉を詰まらせた。
実際、似たような事態が起こらないとも限らないし、あのトロールが人を襲わないという確証もない。
「だが……」
「……勝算はあるの?」
なおも心配そうな声を上げる護衛さんを遮り、セリナが疑問を投げかける。
「勝算しかないよ」
そう言ってのければ、護衛さんと御者のおじさんは呆れた表情を浮かべる中、何故か納得したような、諦めたような表情を浮かべたセリナが告げた。
「……分かった、私も残る」
「うん」
何故だろう。セリナならそう言うと思った。予想通りと言うか期待通りと言うか、私の近くに戻ってきたセリナを笑顔で迎え入れた。
「お前ら、正気か……?」
「大丈夫、正気だし、無茶をしてるつもりもないよ」
「……私も。まだ私は全力見せてない」
キリッ、と効果音が出そうなことを言い放つと、護衛さんは呆気にとられた表情をした後、悩むような仕草をする。
「……~~~~ッ!! ああくそっ! 分かったよ、俺も――」
「護衛さんはおじさんを守ってあげて」
言葉を遮る。決意と善意、そして勇気に満ちた言葉を。申し訳なさは感じるが、その想いは確かに受け取った。
私の応えに、悲痛そうな表情を浮かべながら、絞り出すように呟く。
「…………足手まとい、か。……分かった、こっちは任せろ」
「ごめんなさい」
「いや、俺の実力が足りてないのが問題だ。……だが、大人を馬鹿にしたことは後で説教してやる。だから必ず帰ってこい」
「――うん」
最後まで嬉しい言葉を掛けてくれる。だから、笑顔で返す。負けるなんて微塵も思っていない笑顔で。
護衛さんは一つ笑みを零し、最期に言い放った。
「それと! 俺の名はガリムだ! 覚えとけ馬鹿!」
「……ちなみに、私はメギルだからね? イロハちゃん」
「うん、また後でね。ガリムさん、おじさん」
「メギルだって……」
そんな呟きを残しながら、おじさんはガリムさんに連れてかれた。……別に覚える気がない訳じゃないよ? そもそも、元々知ってたし……。それでもおじさんはおじさんなんだよ。
「……それで? イロハ、作戦は?」
馬鹿なこと考えている私にセリナが声を掛ける。いや、忘れてた訳じゃないからそんな怖い顔しないで……。
「んーと……私が全部ぶった切る」
人はそれを無策と呼ぶ。いや、私としてはそれで問題ないのだけど。
「……初撃は私がやる。イロハ、貴方はトドメをお願い」
「いや別に私一人で…………すいません、お願いします」
ため息を一つ吐きながら、セリナが指示する。……眼が怖いです。
トロールはまだ魔物を屠っている。だが魔物はその数を残り数匹まで減らしている。先制攻撃をするなら、その数匹が屠られる前だ。
「……準備はいい?」
「いつでも!」
気合は充分。通りすがりタッグ、出撃ます!
ここまでお読みいただき、ありがとうございますっ!
つらいです…。何がつらいって、僅か1週間で『オーバーセンス』のptを超えられてしまったことです。
これも本作を読んでいただいている皆様のおかげですありがとうございますちくしょおおおおッ!!
『オーバーセンス』の息抜きのはずなのにどうしてこうなった…。
まぁ、うれしい悲鳴というやつです。皆様には本当に感謝しております。
では、今後も本作を(出来れば『オーバーセンス』も…)どうかよろしくお願いします!