第39話 奇妙な襲撃者達
「おらぁ! いつまでも隠れてねぇで出てこいや!」
バラスさんが森に向かって叫ぶ。
森までの距離は20メートルほど。これ以上近付くと一斉攻撃の的になりかねないし、あまり護衛対象の馬車から離れるのも悪手だ。
セリナを残してきたとはいえ、後ろにも注意しておかないと。
「……返事も無いわね。魔法でも叩き込む?」
ライラさんがそう物騒なことを口にした瞬間、森から複数の影が飛び出した。
「へっ! ようやく……――魔物だとっ!?」
そう、飛び出してきたのはオーク達。魔物の集団だった。
「オークに隠れるほどの知能なんてないはずよ!? どうして……!」
「知るかよそんなこと! 相手が魔物だってんならそれはそれで、真っ向からねじ伏せればいいだけの話だ!」
叫びながら、バラスさんがオークに駆け寄る。剣を構え、斬り伏せるつもりなのは明らかだ。
が、その瞬間、森から殺気を感じ取った。
「――ダメっ! 止まってバラスさんッ!」
「――ッ!?」
私の声に反応して、バラスさんは急ブレーキを踏む。
その瞬間、軽い風切音を立てながら、バラスさんの目の前を2つの影が横切った。
「矢だとっ!? いったい誰が……!」
バラスさんは特攻をやめ、続く矢を警戒してその場に踏みとどまる。
「荒れ狂う風よ、斬禍を撒き散らしなさい! ブラックストーム!」
「爆裂疾風! バーストストリーム!」
間髪入れず、私とライラさんが矢の発射点に魔法を叩き込む。
発射点の片方にはライラさんの魔法で局所的な嵐が生まれ、風が暴れ狂って範囲内の全てを切り刻む。
もう1カ所には私が放った、魔物も土も木も草も、根こそぎ吹き飛ばす風の砲弾が撃ち込まれた。
うん、やり過ぎた。
「「うわぁ……」」
はいそこの黒鬼2人、ドン引きしない。
ライラさんの魔法だって魔物の血で風が赤く染まってたじゃない。私のは丸ごと吹き飛ばしただけで、そんなグロテスクなことにはなってないし!
まぁ、それはさておきだ。
「ゴブリン?」
ライラさんが狙った方に傷だらけで横たわっているのは、間違いなく、ゴブリンだった。その手には弓を持っており、先ほど矢を放った犯人なのは間違いない。
私の方? だから跡形も残ってないって。
「おいおい……違う種類の魔物が共闘するなんて、聞いた事が無いぞ……!」
「ええ……しかも、オークを囮にして弓で狙い撃つなんて、魔物の割に随分周到ね。まるで誰かが指示してるみたいだわ」
黒鬼の2人がそう言って警戒を露わにする。
けど、私は体験したことがある。魔物が共闘するところを。そう、あのカースドの騒動の時だ。
いや、実際には共闘とは違う。あれはトロールに追いやられた魔物達が馬車を求めて殺到しただけだ。
今みたいに、明らかに協力し合っての行動なんてなかった。
思い返してみれば、最初に気付いた時もそうだった。規則正しく隊列を組みながら森を移動する音。あれで盗賊だと思ったんだった。
けれど、魔物であの動きは有り得ない。魔物に関して詳しい訳ではないが、基本的に魔物というのは動物的だ。
息を潜めることはあっても、森に陣を敷き、仲間を囮にするなどという行動は有り得ないのだ。
「ちっ……! 他にも隠れてそうだな。やり辛いったらありゃしねぇ……」
バラスさんの言う通り、未だ森からは不穏な気配が感じられる。他にも魔物がいるのは間違いないだろう。
かといって目の前のオーク達も、囮であることを理解しているのか、こちらに攻め入ってくる気配を見せない。何もかも、異常だった。
「……こうも膠着状態になると、人数の少ないこっちが不利ね。とは言っても無視して逃げる訳にはいかないし」
「いっそ森ごと吹き飛ばします?」
私の発言に、ライラさんは一瞬驚いたような表情を浮かべた後、笑みを浮かべた。
「ふふ……乱暴だけど、悪くない手ね。さっき見たいな魔法、まだ期待できる?」
「ええ、もちろん!」
視界の端ではバラスさんが頬をひくつかせている。
そう心配しなくても当てないって。……え? 違うそうじゃない? おっかないとか言うな!
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