表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生古龍の遊者道  作者: 茜雲
2/71

第1話 盗賊?カモでしょ

(ここいらでいいか)


 直近にある人間の町はまだ十数キロ先だ。だが当然、古龍の姿では入れはしない。ならば、人間の姿になるだけだ。


 森の中に着地する。少々回りの木々を折ってしまったが問題あるまい。


 さて、始めようか。


 身体の中心に向かって、魔力を込める。そしてイメージを魔力に乗せる。イメージはそう、前世の、もう一人の私、“色羽”だ。


 瞬間、周囲を光が埋め尽くす。


 光が止めば、巨大な龍の着陸で荒れた場所の中心に、はいた。


「――こんなところかな…………って」


 きちんと変化出来たか、自分の身体を確認すれば、重大な事実に気付く。


「私、裸じゃんっ!?」


 咄嗟に手で胸と大事なところを隠し、周囲を見渡して誰もいないことも確認する。……どうやら目撃者はいないようだ。


 ……考えれば当然だ。深く考えていなかったが、魔法で変化したところで服を着ている訳が無い。いや、魔法という不可思議技を使っていて当然も何もないと言われればそれまでなのだけど。


「ま、まぁこんな森の中で人がいる訳ないし、仕方ないから龍の姿に戻ってどこかの村か町の近くに――」


 言っている途中にガサリ、と茂みの揺れる音がする。即座にそちらを振り向けば、闖入者と眼が合った。


「――ッ!?」


「ギシュ?」


 緑色の皮膚に小さな人間といった風貌。母様から聞いたことがあるし、前世でもそれの知識はあった。


 ――ゴブリン。


 小鬼とも呼ばれる、悪意の魔物。その見た目、性格の醜悪さでも有名だ。


 そのゴブリンと見詰め合う。正確には硬直していた。突然の事態に頭が回らない。とりあえず人間じゃなかったのでまだ耐えれた。そう、まだ(・・)、だ。


「ギシッ」


 何を思ったのか、ゴブリンは若干頬を赤らめて下卑た笑みを浮かべる。その瞬間、私の中の何かが弾けた。


「い、やあああああっ!!!」


 叫んだ瞬間、目の前が爆発した。比喩ではない。


 これは魔力による爆発。私の中の魔力が暴発したのだ。


 爆煙が晴れ、目を開けると、正面300メートルほどが更地になってしまっていた。


「やっちゃった……。ごめんね、罪無きゴブリン……」


 いや覗き()はあるのだが。不慮の事故? 乙女にそんな言い訳は通用しない。


「ま、まぁ相手は基本悪の魔物だしね! 問題は無い。むしろ平和に貢献した。そう考えよう」


 うんうんと頷きながら納得する。だが言っている場合ではいない。


「うーん……服もそうだけど、魔力の暴発は拙いなぁ……私の場合、洒落にならないし」


 正面の更地を眺めながら考える。が、具体的な対策は思いつかない。


 とりあえずは、まだ魔力の扱いに慣れきっていないのが原因だ。要はニートしていた代償である。なので、どんどん魔法を行使して慣れていけば問題ない……はずだ。


 それについては一応の結論を出し、自身の身体を見る。身体を観察していて気付いたことがあるのだ。


「うーん……なんか違和感あると思ったら、ちょっと若い? 最期の頃の身体を思い浮かべたから16歳になると思ったんだけど……2.3歳若い、というか幼いような……」


 明らかに私の記憶と異なる身体に困惑する。特に……胸とか。乙女にとって重大案件である。


(13,4歳……中学生か。お稽古とか、一番楽しかった頃かな)


 推測だが、おそらく前世で最も楽しかった頃の記憶を無意識に投影してしまったのだろう。今の姿は、合気道の稽古に夢中で、最も青春というか、充実していた頃だ。


(まぁ若いなら若いでいいでしょ。その方が世渡りは楽かもしれないし。ちょっとだけ、小さ……慎ましやかな胸が納得いかないけど)


 そこまで考えたところで、今一番聞きたくないものが聞こえてくる。


「おい! こっちだ!」


「待て、慎重に行け。あれだけの爆発だ。何があるかわからん」


(ぎゃあああああああっ!?)


 聞こえるは人の声。しかも、明らかに男の声だ。せめて女相手ならば作り話(事情)を話して、服を用意して貰う手もあったのだが。


 のんびり考えている時間はない。声の大きさからして、もうすぐそこだ。この貞操の危機を潜り抜けるにはどうすればいいのか。


(やばいやばい! 一歩間違えたらまたさっきの魔法みたいに……魔法?)


 そうだ。なぜ気付かなかったのか。魔法を使えばいいのだ。


 この世界の魔法は、ほぼ万能だ。魔力さえあれば、だが。まぁそれも、この世界で最強格の古龍種であれば、問題にならない。


 集中し、魔力を込める。するとすぐに、効果が現れた。


 身体が透明になり、自分でも腕や足が見えなくなった。内心でおおー、と感動しながら、近場の茂みに隠れる。


 なぜ隠れるのかって? 念の為と、やっぱり恥ずかしいからだよ。


 透明だからって男の人の前に堂々と出るなんて、そんなR指定の同人誌みたいな真似はしません! なんで同人誌なんて知ってるかって? ……いい加減にしないと消し飛ばすよ?


「うおおっ! なんだこりゃ!?」


 どうでもいいことを考えている間に数人の男がやってきた。当然ながらこの光景を見て驚いている。


「周りには……何もいないな。なんだったんだ? さっきの音は……」


「竜同士の喧嘩でもあったんじゃないか?」


「普段なら笑えるんだけど、この状況じゃ笑えねぇな……」


「とにかく! まずはリーダーに報告するぞ。これの調査に騎士団かギルドの連中が来るかも知れねぇ。しばらく、アジトで身を隠さなくちゃならんかもな」


 指揮を執った男がそんなことを言えば、周りからブーイングが発生する。


 この粗野な集団、腰に差した雑な(こしら)えの剣、ばらばらでぼろぼろの格好。絵に書いたような盗賊だ。


(いや本当にそうなのかは分からないけど。でももしそうなら好都合かな)


 盗賊なら盗品の蓄えがあるだろう。その中には衣類もあるはずだ。それを貰い受ける。


 強奪されたもの、というのは若干心苦しいが、こいつらが持ったままよりマシだろう。


「ほら、戻るぞ」


「へーい」


 リーダー格の男がそういえば、他の連中も渋々ながらもついて行く。


 私も茂みに隠れながら、それに追従した。







「盗賊のくせにいいとこ住んでるなぁ。生意気な……」


 盗賊の住処を見上げ(・・・)そう呟く。いや、いいとこ、と言うと語弊があるが。


 おそらくは、砦の跡地。朽ちながらも、重々しい雰囲気を携え、まだ砦としてはそれなりに機能しそうだ。流石に、兵器の類は撤去されているだろうが。


 見ると、盗賊連中は正面から中に入っていった。いくら姿が透明とは言え、これに追従するのは愚策だろう。


 この魔法では音や気配は消せない為、存在を察知される可能性がある。実はここに来るまでも何度か危なかった。


「まぁ侵入ぐらい、いくらでも出来るけどね」


 言いながら、飛翔する。文字通り、空を飛ぶ。


 翼ではなく、魔法による飛翔だ。そもそも、普段も翼の力だけで飛んでいる訳ではない。古龍ほどの巨体が翼程度で飛べる訳がない。……重いとか言うな!


 透明な状態とはいえ、正直素っ裸で飛ぶのは恥ずかしいが、今は仕方ない。早く屋内に入らなければ……。


「あの窓でいいか」


 砦の中腹に開いた窓に向かう。そして誰もいないことを確認し、侵入した。


(侵入成功! さて、盗品を保管してる場所は……と)


 透過魔法を使いながら慎重に、されど急いで、探索を進めていく。途中、賊とすれ違いそうなところは可能な限り避けた。何度も言うが恥ずかしいのだ。


 10分ほど探索と続けるが、特に成果はない。だんだんと苛立ちを感じながら駆けていると、それが聞こえてきた。


「――やめてっ!」


「――ッ! ……あの部屋か」


 唐突に聞こえる女性の悲鳴。場所が場所だ、よからぬ事態なのは間違いないだろう。女としては見捨てる訳にはいかない。


「おらっ! 大人しくしやがれっ!」


「いやよっ! 誰があんたなんかにっ!」


 悲鳴の聞こえた部屋を覗くと、案の定、女の子を押し倒す粗野な男がいた。


 女の子の方は随分なべっぴんさんだ。来ている服もいいものに思える。商家の娘か何かだろうか。


「やめてっ……誰かっ!」


 おっと、悠長に観察している場合ではなかった。


「へへ、助けなんか来る訳ねぇだろうが――ッ」


 言葉の途中で、男は倒れこむ。下手人は言うまでもない。


「あらあっさり……」


 首に衝撃を与え、気絶させたのだ。漫画なんかでよくある首トンってやつ。科学的に何の根拠もない技だったはずだけど、意外と出来るものだね。……死んでないよね?


 一応脈を確かめ、安堵の息を吐く。残念なが……幸い、まだ生きているらしい。


 私はこの姿でもれっきとした古龍なのだ。元の姿の時には及ばないが、力は人間の比じゃない。もう少し力を入れれば首トンどころか首ボトになる。


「えっ? 何?」


 危機を脱した女の子が困惑している。私の姿が見えていないので当然だろう。


 傍目には突然男が倒れたように見える。ついでに脈確認で気絶した男の腕が動くというおまけつき。そりゃあホラーだ。


 姿を出してもいいが、こちとら素っ裸である。どうしようかと考えていたところで、女の子が押し倒されていたベッドモドキに毛布があった。


「とりあえず、これで」


 言いながら毛布を羽織る。気絶させた男の服? やだよ汚い。


 透過魔法は身に着けているものも透過させることも出来るが、それは魔法を発動した時に着けていたものだけだ。つまり、今現在、毛布だけが浮いているように見える。


「ひっ――」


 思わず悲鳴を上げそうになる女の子の口を塞ぐ。気持ちは解かるが、今は勘弁して欲しい。


「大丈夫。敵じゃないよ」


 言いながら透過魔法を解く。それを見た女の子は、驚きと安堵を混ぜた、何とも不可思議な表情を浮かべたのだった。








「そう、ミシェルって言うんだ。私はクレ……イロハ。よろしくね」


 ミシェルと言う少女は、予想通り商家の娘さんだそうだ。近くの道を通った際に賊に襲われ、荷と身柄を抑えられたらしい。


 色羽と名乗ったのは、今は人間の姿だからだ。クレールという名前が嫌いな訳じゃない。ただ、やはり人の姿だと、自分は色羽だという意識が強いのだ。


「ええ。よろしく、イロハ。まずはお礼を言わせて。ありがとう、助けてくれて」


 言いながらミシェルは頭を下げる。真面目な娘だ。


「ところで、なぜこんなところに? それに……その恰好は……」


 怪訝な表情でこちらを見るミシェル。同性でもじっと見られると恥ずかしい。毛布は巻いてるけど。


「ここヘは成り行きで。格好は……聞かないで……」


 私の言葉に思うところがあったのか、ミシェルは頷いてくれた。


「さてと、どうしよう。盗品もまだ見つからないし……」


「貴方、盗品を探しに来たの?」


「うん。盗品というか、その……服を」


 ミシェルが呆れた表情になる。服の為に盗賊の根城へ乗り込んだと言われれば、そりゃそんな反応になる。


「盗品を置いてある部屋なら、ここに連れてこられる途中で見たけど」


「えっ嘘! どこどこ!」


 入れ食い状態の私に、若干怯えながらミシェルは答える。


「廊下に出て、右の突き当りを下に降りたとこ……」


「おっけー! よし、行くよミシェル!」


「えっ!? ちょっと!」


 ミシェルの手を取って部屋の外へ向かう。私の突然の行動に驚いているが、すぐに納得するだろう。


「嘘……体が」


「うん、透過魔法。でも私から手を離したら効果が無くなるし、声とかは普通に聞こえるから注意してね」


 それだけ言えば、こくこくと頷く。素直な良い娘で非常に助かる。


 ミシェルを半ば無理やり引き連れ、言われた通りに階段を下る。


「あ、あそこよ」


 ミシェルの指差した方を見れば、確かに部屋がある。そしてその前には2人の賊が立っていた。


(まぁそりゃあ見張りぐらいいるよね。けどま、私には意味ないけど)


 さっと手を降れば、2人の見張りは電池が切れたようにその場に倒れこむ。


「な、なにしたの? 魔法?」


「うん、ちょっと眠ってもらっただけ」


 言いながら、ミシェルの手を引いて部屋の中へ入る。そこは正しく、宝物庫だった。


「……随分集めてるね」


 嫌悪に思わず表情を歪める。


 金銀財宝、ではないが、部屋中に散らばる商荷や武器に宝飾。これだけの量を集めるのに、いったいどれだけの人を苦しめたのか。


「……あそこの廿楽(つづら)が、私のところの荷よ。中に女性用の服も入っているはずだわ」


 ミシェルも商人として思うところはあるだろうに、それを抑えて教えてくれた。そうだ、今は、まず体制を整えよう。どうするかはそのあとだ。


 ミシェルが教えてくれた廿楽を開ければ、色々な服や日用品が入っていた。その中から適当な服を選びだす。


「これとかどうかな?」


「え、ええ。いいと思うわよ?」


「えへ~。ありがとう。それじゃあこれは候補で置いといて、他には~♪」


「ちょっと、あんまりゆっくりしてる時間は無いわよ?」


「――あ」


 ついつい前世でのショッピング気分になってしまった。ここは敵地、ほどほどにせねば。


「う~ん。これとこれならどっちがいいかなぁ……」


「どっちでもいいから早くなさいよっ……!」


 ミシェルに小さく怒鳴られながら、私の服選びは続く。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ