第9話 戦闘開始ッ!
「……まずは私が本気の魔法を撃つ。それでもし生き残ったら、トドメをお願い」
「私の作戦と大差ないね」
私とセリナの策、どちらにせよトロールは一瞬で死ぬか瀕死になるんだね。
「……せっかく私達の事を無視してくれてるんだから、利用しない手はないでしょ? じゃあ、始める……」
私がこくりと頷くと、セリナから魔力が溢れる。
杖を構え、その魔力を整えていく。一般的な人の魔力量は分からないけど、セリナは多分平均的なそれを大きく凌駕している。そう思わせるほどの魔力を、セリナから感じた。
そしてさらに驚くことに、魔力はまだ、どんどんと高まっていっている。だが、完全に制御できていないのか、時折魔力が揺らいでいた。
「すごいね」
「……喋りかけないで、集中が乱れる…………――ッ! 気付かれた……!」
セリナの言葉にハッとしてトロールの方を見る。膨れ上がる魔力に反応したのか、トロールは焦点の合っていない目で、けれど確かに、こちらを見ていた。
「……ごめん、もう少し時間が掛かる。アレを抑えられる?」
「任せて。ちょうど暇してたとこ」
なるべく安心させるように適当な感じで応えたが、ジト目で睨まれた。逆効果だったようだ。
「――大丈夫だよ」
「……お願い」
もう一度、薄く笑みを作りながら応えれば、一応の納得は示してくれたようで、ため息を吐きながら送り出してくれた。
さて、初めての強敵だ。気合を入れますか。
剣を抜いてトロールの方へと歩み寄る。それが決定打となったのか、トロールは私に向けて敵対の咆哮をあげた。
「ゴアアアッ!!」
その咆哮を合図に、私は駆けだした。
先ほどまで相手していた魔物なんかとは比べ物にならない速度だったはずだが、トロールは難なく私の速度に合わせ、巨大な棍棒を振り下ろした。
「――っきゃ!」
棍棒の一撃を紙一重で避けた私を、余波の衝撃と弾き飛ばされた土や石が襲った。
「イロハッ!?」
「――ッ! 大丈夫!」
声を上げたセリナに、すぐに無事を伝え、体勢を戻して着地する。それを認めたセリナは、心配そうにちらちらと視線をこちらに送りながらも、魔法の準備へと戻った。
(失敗したなぁ……)
色羽の時代は、見習いとはいえ武術経験者だった為、相手の攻め手はギリギリで避ける癖がついていた。それが今回裏目に出てしまった。
「そりゃあ、あんなのを地面に叩きつけた傍に居たらこうなるよねぇ……」
考えれば当然だ。でも仕方ないじゃない、日本でそんな状況想定しないって……。
棍棒を叩きつけた地面の土煙が晴れる。そこにはごっそりと抉れた地面。直撃すれば、私でもただでは済まないであろうその威力に、不謹慎にも笑みが零れた。
(この、相手の攻撃を受けられないっていう緊張感……、どうやって自分の攻撃を決めようか考える感覚……懐かしい)
私が好きだった、合気道の乱取り稽古。もちろん比べられるものじゃない。でも、久々の、こっちでの初めてのこの空気は、私のギアを1つ上げた。
……こないだの盗賊? あれは相手が弱すぎるからノーカン。
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