第4話
僕も達樹くんも、今まで通りクラスのムードメーカーとして友達と楽しく学校生活を過ごしていた。
ただひとつ変わったのは、学校が終わってから家に帰るまでの間に塾へ通っている事だ。
テストに合格して入塾してから早1ヶ月が経っていた。
学校が終わって達樹くんと塾へ行き、制服を着替え、たった2人で永遠と外国語の授業を受けてきた。
英語以外にフランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、ロシア語、アラビア語、中国語、朝鮮語を習っていた。
1ヶ月ではまだ日常会話程度しか覚えていないが、最初に渡されたテキストのおかげで覚える速度は速くなっていた。
「君たちが入塾して1ヶ月。机に向かって授業をするのはここまでだ。これからは毎日違う言語で授業を行う。いいな」
『はい』
「では今日は英語だ。僕はもちろん、君たちも英語しか使ってはいけない。分かったね?」
『はい』
(※以下より登場人物達は外国語で話しているが作者はそこまで賢くないので、いつでもどこでも日本語で記載する)
「今日は体術の訓練を行う。まずは組手と受け身からだ」
そう言って、敵に捕まった時の逃げ方や障害物を避けてのランニングなど、様々な訓練を重ねていった。
もちろんそれらの訓練も地下で行われている。
地下施設は巨大空間だった。
あれから利賀先輩には1度も会っていない。
同じ塾に通っているはずの先輩たちとも会った事がない。
不思議だった。
しかし、そんな事を考える暇もない程の訓練を行っていた。
日によってはスペイン語の日、ロシア語の日、と使う言語も変わり、日常会話しか出来なかった僕たちも半年が経った頃には全ての言語がネイティブになっていた。
「いやぁ、まだ小学1年生とは思えないぐらいの成長ぶりだね」
そう言いながら入ってきた塾長は少しの間、僕たちの訓練を見学していた。
「智坂くん、そろそろ次のステージに進もうか」
「分かりました。この子達は技術を身につけるスピードが速いのでそろそろかと考えていたところでした」
「次のステージ?」
「うん、明日からはまた机に向かった勉強になるよ。でもしっかり身体も動かして、今までの事を忘れないようにしておいてね」
『分りました!』
僕たちはこの頃から、塾以外では他のクラスメイトと変わらない小学1年生を演じていた。
体育の授業もレベルを合わせて出来過ぎないように気をつけてきた。
テストも全て満点にならないように配慮していた。
達樹くん以外の子とも親密な関係を築いた。
誰も僕たちが特別な授業を受けていると疑う事はなかった。
あれから学校順位もTOP50には居るが、30位ぐらいになるように本当のポイント数を載せず、当たり障りのない数字になるように香坂先生が配慮してくれている。
両親は特に口を挟む事もなく、お小遣いは毎月1万円、残りは貯金して管理してくれていた。
「お母さん、毎月1万円のお小遣いを貰うのは嬉しいんだけど、学校と塾と家の行き来しかしていないとお小遣いを使う事も少なくてどんどん貯まる一方なんだ。休日に友達と遊ぶと言っても小1がそんなに大金を使う事もないし」
「確かにそうね。だったらお小遣いが少なくなったら渡す方式にしようか?」
「うん、そうしてもらえると助かるよ」
お母さんは快諾してくれた。
そして、僕の知らないところで貯金してくれていた金額が20万円に到達している事を教えてくれた。
僕のお金には一切手をつけていないそうだ。
僕は月平均5000p、つまり5万円稼いでいる。
普通の小1ではあり得ない額だそうだ。
「達樹くんも同じぐらい稼いでるんだろうな」
「そうね。あなた達は一心同体みたいな感じね。でも忘れないで。仲間と思っていた人が急に敵になる事もある。しかしその見極めは自分自身の判断でしかないの。難しいと思うけど、己を信じる強さを持ってね」
お母さんは他人を信用するなと遠回しに言ってきた。
それは親に対してもなのだろうか。
しかし己を信じる強さを持てと言うことは、親に頼れなくなる時が来るということだ。
ただ楽しく学校生活を過ごすだけだと思っていた半年前とは全く違う日々を過ごしている。
僕は何の為に強くなろうとしているのか。
疑問を抱くようになった。