第1話
学校へ通い始め、眼鏡をかけて友達とごく日常の会話をしていた。すると気付いた頃には5pが加算されていた。
初めてのポイントに喜んだ僕は、同じクラスで仲良くなった達樹くんと、ある実験をしていた。
「それじゃあ行くよ? ……あはははは」
達樹くんはその場で急に笑い出した。
「……ダメだ、ポイントにはならないや」
「愛想笑いは入らないのか。じゃあ次! ……やべー!!!!」
次は身振り手振りを付けて爆笑した。
「……んー、入らないね。」
「これでもダメなの? じゃあ純くんが何か面白いこと言ってよ」
「え? そんな無茶振りされても無理だよー」
「アハハ、そりゃそうだよね」
「あ! 1p入ったよ!」
「えー! 今ので?」
「達樹くん、これって会話の流れも含まれての判定なんじゃない?」
「そうか。だから単発で笑ってもポイントにならなかったのか」
僕はこれで理解した。確かにただ笑っている人が視界に入るだけで加算されるとしたら、自分が対話していなくても周りの人が笑っていたらポイントが入ってくる。それではポイントを稼ぐという作業の意味が全く無い。
入学式の日に先生は言っていた。これはコミュニケーションの練習も含めたもの。笑いは人と直ぐ仲良くなる最大の武器であると。
人との会話は嫌いではなかったし、人を楽しませるのも好きな方だった。僕と達樹くんは4月が終わる頃にはすっかりクラスのムードメーカーになっていた。そしてお笑いポイントもクラスで断トツの1位、2位だった。
小学校では毎月始めに獲得ポイントの順位発表が行われる。これも授業の一環だ。学校全体、各学年、各クラスの3つの順位が発表される。学校内順位の上位は殆ど6年生が占める。それは妥当な結果だと僕は思っていた。しかし、今回発表された順位のTOP50に僕と達樹くんが入っていたのだ。
僕の獲得ポイントは2530p。学校11位、学年・クラス共に1位。
達樹くんは2410p。学校15位、学年・クラス共に2位。
この結果には学校中が驚いた。しかし、初めて眼鏡を持った1年生は嬉しさで闇雲に人を笑わせる能力を発揮する子が稀に存在する。そういう子は5月以降は歳相応のポイント数に戻り、校内TOP50からは姿を消すこととなる。僕達もそういった流れで消えるだろうと思われていた。
家に帰って僕はいつも通りお母さんに眼鏡を渡した。親は子の眼鏡を監理することも重要とされている。もちろんポイントによる収入などの金銭的な問題もあるが、それ以上に我が子のコミュニケーション能力の把握をするためだ。
同じく今日は学校の順位表も渡した。お母さんは少し驚いたような表情をして順位表を眺めていた。
「いきなりTOP50に入ったの? 凄いじゃない」
「僕もビックリしちゃって」
「こうなると、来月も頑張らないとね」
「うん!」
ただまぐれで入っただけかもしれない。でももしかしたら来月もTOP50に入るかもしれない。
ひとまず、今月のお小遣いはいくらもらえるのかな? 僕はそれぐらいの考えだった。
僕が寝た後、毎晩のようにお父さんとお母さんはリビングで話しをしている。
「今日、学校でのあの子のポイント順位を見たら驚いて」
「今日はポイントの順位発表だったのか。どれ。……学校で11位だと!? 純のやつ、2,530pも。俺も直ぐ追いつかれそうだな。ハハハ」
僕はお父さんの平均獲得数は知らないが、お母さんよりは断然低いというのは知っている。
「そんな呑気な事言ってる場合ですか。もしこれがまぐれじゃなくて今後も続いてみてください。確実に目を付けられますよ」
「それはそうだろうが。1年生の間は様子を見てもいいんじゃないか? それにまだそうと決まったわけではない」
「そうですね。少し早とちりしてしまいました。でも……」
お母さんは何かを心配しているようだった。
「分かっているさ。お前の血を引いてるんだ。“万が一”の方が確立が高い場合もある。でも、眼鏡を持つようになってまだ1ヶ月しか経ってないんだ。とりあえず来月の結果まで様子を見よう」
「そうですね」
ポイントを高く取りすぎると目を付けられる。どういうことなのか、僕はまだ分からない。親の話を盗み聞きするのはこの辺にして、僕はベッドに入った。
「とりあえず、純がどれだけポイントを稼ごうがお小遣いとして渡すのは1万円までだ。残りは将来のために俺達で貯金して管理しておいてあげよう」
「それがいいですね」
親の心配を余所に僕は相変わらず達樹くんとクラスのムードメーカーの地位を築き上げていた。
「達樹くん! お小遣いもらった?」
「もらったよ! 1万円も!」
「一緒だ! 僕も1万円もらったんだ。何か買うの?」
「ん~、まだ迷ってるところ」
「僕もなんだ。こんなに大金もらったの初めてだから何に使っていいのか分からないよね」
「だよね。僕も一緒」
お笑いポイント1pにつき10円の換算で国から支給される。僕は2,530pだったので25,300円支給されていた。そんなことはまだ知らず、ただただ初めての大金に喜んでいた。そんな僕たちの会話を影で聞いているクラスメイトではない集団がいた。