第0話
ここは赤聖という国。笑いに溢れている明るい国である。
この話の主人公「波多 純」は今年小学校に上がった。
小学校に上がると国からランドセルと文房具一式、教科書に制服など、学校で必要な物を全て支給してくれる。その中に眼鏡が入っていた。
この国では誰もが持っている眼鏡。小学校に上がると同時に国から支給される眼鏡は、これからこの国で生きていくために最も重要となるアイテムだった。
「みなさん入学おめでとう。新しい制服にランドセル、お似合いですよ。それではご両親からも聞いていると思いますが、晴れて就学された皆さんに眼鏡をお渡しします。」
そう言って名前を呼ばれた者から眼鏡を受け取った。
「皆さんの手元に行き渡りましたね?それでは右耳付近にある電源ボタンを押して起動させて下さい。まず始めに画面上に自分の名前が表示されているか確認して下さい。」
これはデジタル眼鏡だ。親や兄弟も持っているが、僕は使い方がまだよく分かっていない。電源を入れると目の前に文字が沢山出てきた。その文字も少し時間が経つと上下左右に分散し、目の前はスッキリ整理された。右上を見ると「波多 純 0p」と書かれていた。
「みなさんの眼鏡は正常に動いていますか? ……大丈夫そうですね。それでは少し眼鏡について説明していきます。」
そう言って先生は僕たちに分かりやすく説明してくれた。要約すればこうだ。
・この眼鏡は視界に入った人の「笑い」度合いを計算する。
・画面には常に自分が稼いだ今月と累計の“笑いポイント”と、国のTOP10の人の累計“笑いポイント”が見れる。
・“笑いポイント”は毎月末に集計され、翌月の5日にポイントに応じた金額が国から支給される。
・12月末に1年間の集計がされた後、ポイント獲得数TOP10に入った10名が次年度4月からの1年間、国家任務が課せられる。
・1月になるとポイントはリセットされ、次の年に向けたポイントが再スタートする。
ポイントが加算される基準はこうだ。
・眼鏡をかけ、対話している人が笑った度合いでポイントが加算される。
・加算基準は“相手の表情筋の変化”“声のトーンや音量”“手や頭、体全体の動き”でどれほど笑っているかを判定する。
・眼鏡をかけていない時はどれだけ対話相手が笑っていてもポイントは加算されない。
あとは使って覚えていくしかないと言われた。僕は嬉しくて眼鏡をかけて家に帰った。するとお母さんからベルトのように腰に取り付ける眼鏡ケースをもらった。
「わー! カッコいい! ヒーローベルトみたいだ!」
「眼鏡は絶対に無くしちゃダメよ。個人情報みたいなものだから」
「はーい。僕、まだ0pだ。お母さんは今何ポイント溜まってるの?」
「今月はまだ10000pしか溜まってないわ」
「10000!? お母さん凄いね!」
「大人になればそんなものよ。純もいっぱい稼いだら好きな物買っていいからね」
「うん! 僕もいっぱい稼ぐー」
画面上に出ている現時点でのTOP10の人たちの数字は累計13万p。僕はまだ計算出来ないから分からなかったが、4月初旬で累計が13万だと1ヶ月約40000pを稼いでいるという計算である。まだ4月に入って10日なのに、既に10000pを稼いでいるお母さん。実は国家任務を課せられるTOP10の常連だった。
そして、この些細な質問が僕の眼鏡生活を大きく変えることとなった。