プロローグ
<目が見えるって、そんなに偉いこと?>
汐海~しおみ~
ひたひたと水の音が聞こえる。
台所の蛇口から、シンクの盥にこぼれ落ちる、悲しい音だ。
汐海はため息をついた。先程、母親は仕事で出ていったばかりで、家には誰もいない。声をかけようにも、聞いてくれる人もいない。汐海は立ち上がり部屋の扉を開け、またため息をついた。階段を降りるのは、本当に億劫だ。
勿論、段数も間隔もすべて把握しているが、それを差し置いても、汐海には億劫だった。すぐそこの台所までの距離が、途方もなく遠く感じた。
水は、ひたひたと、溢れ続けていた。
奏海~かなた~
奏海は人生を持て余していた。
生まれ持った容姿、親から与えられた人生を卑下し、持て余していた。
正直、人生イージーモードだった。人当たりもよく、付き合いもいい奏海だったが、難点があった。
奏海を利用しようとする大人が多く、若干人間不信で人と関わりを持とうとしない、中二臭い大人になってしまったのだった。
会社では、父親の元で重役として働く27歳男は、人との関わりが持てない、拗れた性格のいけ好かない男だった。
誰かと一緒にいるぐらいなら、ひとりでいる方がよっぽど楽だな。
そんなふたりが出会う、お話。
※処女作ですので、生暖かい目でご覧ください。