【第七羽】
明けましておめでとうございます!そして6000PVありがとうございます!
今年は申年ですが、ついででもいいのでウサギもよろしくお願いします★
どうも、最低のバカ野郎です。
具体的にどのくらいバカ野郎かと言うと、【宝箱】は人間をおびき寄せる撒き餌だって話をしたうえで警戒を忘れて引っかかった程の最低具合だ。
侵入者を狩るための撒き餌なんだから、まんまとおびき寄せられた奴を喰らうためのトラップが近くにあるのは当然じゃないか。
1万年前に攻略された遺跡のような魔窟だからってトラップまで全部死んでる保証なんてどこにあった?そんなものはどこにもない。
事実、この場に生きた【宝箱】が存在するんだから生きた罠があるのはむしろ必然だろうが!
ボクの体の中にはすでにナビが宿っているんだ。もう自分だけの命を考えてればいい存在じゃない。
ボクが死んだら彼女だって一緒に消えてしまうという至極当然のことを今の今まできちんと理解できていなかった。もし消えなかったとしても、恐らくまた木の実になって何千万年も見つけてくれる誰かを待ち続けることになってしまうはずだ。
何が「ナビというかけがえの無い相棒を一生懸けて大切にする」だ。たった一日だって守れていないじゃないか。
『マスター、なんとかこの包囲網をくぐり抜けて通路まで後退しましょう。背後を取られた状況では万が一がございます』
本人はきっと自分はただの擬似人格だ~とか言って、この自身に対する憤りを否定するかもしれない。
けど、出会ってからずっとボクを手助けし続けてくれてる彼女を、ただの擬似人格だからって軽く見られるほどボクは合理的なんかじゃない。
今ボクが頭真っ白にならず、まだそれなりに落ち着いて敵と対峙できているのも、ナビからいつもの『えいっ』を受けたからだ。
本当にボクなんかが彼女の相棒でいいんだろうか。【神識の実】は他の誰かが見つけたほうがよっぽど彼女は幸せになれたんじゃないかとどうしても考えてしまう。
けど、それでもナビと一緒に生きたいと心から願える。だから―――
『ナビごめんっ、あとでいくらでも謝る。そのためにも今は全力を振り絞って生き延びる。だからサポートお願いします!』
今ボクに出来る精一杯の誠意を言葉にする。
『その言葉だけでも十分でございます。それに、この程度の罠、今のマスターでしたら問題なく突破できるでしょう』
ナビは少しおどけた口調と慎ましくも力強い笑顔で応えてくれる。ボクの緊張をほぐすためだろうか。本当にボクにはもったいないくらい良い子だ。
……さあ、生き延びるために気持ちを切り替えよう。こんなくだらない失敗もあったなって、彼女と笑い話をする未来を手に入れよう。
『それではマスター。サポートを開始いたします!』
その言葉と共に立体化した周辺マップと、目の前にいる魔物の詳細な情報が脳裏に流れ込んでくる。
最初から知っていたことが鮮明に蘇ってくるかのような不思議な感覚を覚える。今この瞬間、ボクは奴等のことを知っている。
魔窟で屠られた侵入者の遺骨に特殊な呪法で魂核結晶を溶かし込むことで作られた魔物。骨と欲望だけで動くアンデッド。所謂スケルトンというやつだ。
生前は金や名誉を求め、死した今は元同業者の命を求める暴欲の使徒。趣味が悪いとしか言いようがない。
宝を求める侵入者の前に現れ、殺し、仲間にして増えていく。その数はこの場に20体。対するこちらはナビとボク。しかも体は1つだけ。
本来生前のように武器を持つ個体が多いはずだけど、幸いなことに1万年の時の流れにその武具はついてこれなかったらしい。全ての個体が素手のようだ。
奴等自身は術の核を破壊されない限り、今以上に体が朽ちることはない。それどころか魔窟のエネルギーを体内に取り込み続けると進化すらする。
だけどこの場はすでに廃墟。たとえ何万年経とうがこれ以上強くなることは無い。……本当に不幸中の幸いだ。もし1万年分も強化されてたら1対1でも勝ち目なんてなかっただろう。
こいつら1体1体は下級程度のようだ。だけどその数と連携、そしてその不死性はそれだけで脅威。今は通路まで後退することに全力を尽くす!
そう考えをまとめると同時にスケルトン達が我先にと飛び掛ってくる。……おいっ連携はどこいった!?
が、こいつらは人間を狩るための守護者だったからか、小動物のボクに対するその攻撃は少しギクシャクしているようだ。
これはチャンス。迫る骨の腕をかわし、その足元に飛び込み走る!反射的に蹴るような挙動をしだした骨野郎の軸足の関節に自分の体を叩き込む!
関節の脆い部分にぶつかられ、片足を外された骨野郎は別の骨に倒れこみ隙を作る。その隙を補うように別の骨が前後左右から迫ってくる。けど問題ない、全部見えている。
ウサギの視界は360度全方位に行き渡る。その代わり視力自体はあまりよくないのだが、成長した感覚とナビのサポートも手伝って、今の視界は人間だった頃より遥かに鮮明だ。
殴りかかってきた後方の骨の腕を踏み台にして、前方の骨頭に飛び掛る。衝撃で頭が首から外れたので、何も映さない目の穴にそのまま伸ばした爪を引っ掛け――投げ飛ばす!
何も持っていない骨共は飛び道具を防ぐ手段を持っていない。投げた髑髏は通路への道を塞ぐように待ち構えていた1体に直撃し、その肋骨と背骨を弾き飛ばした。
動きながら、今の一連の流れに対して自分自身で驚いてる。正直もっと苦戦すると思っていた。思った以上に思い通り動ける感覚に解放感を覚えるくらいだ。
思えばこの3日間、一切視界の利かない暗闇の中で四方八方どころか360度全方位から襲い掛かってくるコウモリを相手にしていたんだよね。
複数の敵に囲まれることなんてとうに慣れきっている。ましてや五感全てを活かせるこの環境ならこの程度の骨の群れ、倍の数を相手にしても負ける気がしない。
スケルトン達の攻撃を掻い潜り、その体を利用して壁蹴りの要領で三角跳びなど決めつつ確実に通路との距離を縮めていく。
何体目かのスケルトンの頭を蹴り飛ばした時、不穏な動きをしている個体を視界の端に捉える。直後―――
『マスター、体を丸めて身を守ってください!』
何故――という疑問を浮かべる余地もなく咄嗟に体を丸めた。その瞬間、背中に激しい衝撃と熱が襲い掛かってきた。熱ッ!クソッ一体何をされたんだ!?
軽い体は衝撃に耐え切れず、しかもジャンプ中だったため思い切り弾かれ、けっこう離れた壁側まで飛ばされる。衝撃で圧迫された肺の空気が強制的に口から吐き出されて咽る。
『どうやら魔術を扱える上位個体が紛れていたようです。まさか味方の骨を杖の代わりにするとは思いませんでした。どこかお怪我はありませんかマスター?』
先ほど視界に入ったスケルトンのほうを見ると、その手に別のスケルトンの骨を持ってこちらに突き出すように向けていた。
向けられた骨の先端からは軽く煙のようなものが上がっている。先ほど背中に受けた衝撃は火の玉を飛ばす魔法によるものだったらしい。
『けほっ……ちょっと咽て苦しいけど大丈夫。むしろ、火の玉を当てられた割には軽く毛が焦げてる程度で済んでるのが不思議なんだけど?』
『マスターの魔導力をお借りして軽減を試みたのですが、無許可だったことと咄嗟だったことが重なり完全に相殺することができませんでした。ああ、マスターのふわふわの毛並みに焦げ目が……不覚でございます』
毛皮の心配かっ、ナビが余裕そうでなによりだよ。まったく。
『毛皮なら食べて寝てればちゃんと生え変わるから気にしないで。むしろナビが防いでくれなかったらもっと酷い怪我をしてた。ありがとう!』
『そ、そんな……恐縮でございます』
ボク自身は未だに魔法どころか魔素の操り方も知らないからね。あとでしっかり使い方を教えてもらわないと。
近い未来に魔法を使えるかもしれないという高揚感を胸にその場で立ち上がる。うん、ナビのおかげで体は問題ない。ちゃんと動けるようだ。
その間にスケルトン達はだいぶ包囲を縮めており、その手にはボクがバラバラにした仲間の骨が握られていた。頭蓋骨に手を突っ込んでナックルのようにして構えている奴までいる。頭蓋骨が不服そうに顎を鳴らしてるのは気のせいか?
各々が武器を構えるその姿はボクから見れば結構サマになっていて、こいつらが元は魔窟の攻略者や探索者だったことを如実に表していた。
武器になった個体がいる分、ちょっと数は減ったけど脅威度は上がったようだ。でもそれ以上に、さっきの魔法で吹き飛ばされて通路への距離がだいぶ広がってしまったのが痛い。
すうぅ……よしっ、じゃあ気合をいれて仕切りなおしと行こう!
さっきみたいに避けながら反撃を交える余裕はほとんどなくなっていた。リーチが伸びて小さいボクを狙うのに余計な動作が減ったからか。
曲がりなりにも武器を得た骨達の動きはやっぱり先ほどよりも良くなってる。今は反撃を抑えて回避に専念しつつ通路を目指そう。
なにより厄介なのが後方にいる魔法を使うタイプのスケルトンだ。
前衛の隙を補うように的確に火の玉を放ってくる。生前は腕利きの攻略者だったんだろうか?
とはいえ、来るとわかっていれば避けるだけならそれほど難しくない。さっきとは違ってちゃんとマークしながら動いてるしね。
むしろナビが先ほどの反省を活かして万全の用意をしているので、もし当たっても今度こそ無傷で済みそうだ。万が一が怖いから避けるけど。
そうして時に避けて、時にわざと弾かれてを繰り返し、ついにボク達は通路への後退を成し遂げた。
『どうするナビ?このまま一旦逃げたほうがいい?』
多勢に包囲されるという危ない状況からは脱したものの、流石に無傷というわけではない。
出来る限り最小限に抑えたとはいえ、少なくない頻度で殴られて確実にダメージは蓄積している。
『いえ、この手のトラップで召喚された魔物は発動者が力尽きるまで追いかけてきます。
出口に向かうにしても正確な距離が不明なうえ、間違いなく瘴気の主と挟み撃ちにされてしまいます』
休みたいなら他の魔物が近づいてこないこの場所で、こいつらを全部片付けなきゃいけないってわけだ。
もし生きてる魔窟だったら普通に他の魔物も管理者の指示で襲ってきただろうと考えると、設計者は相当人間が嫌いなようだ。長年の仇敵だし当然か。
1万年も経ってからその恨みに巻き込まれたボクみたいなやつのことも少しは考えて欲しいもんだ。とは、ほぼ自業自得なので言えないけど。
『もう背後から襲われる心配はありません。私の存在に懸けて、もうマスターには毛一本触らせません!』
『ボクとしても触られるならナビみたいな可愛い子のほうが嬉しいから、もう指一本触れさせてやる気はないよ!』
脳裏で視線を合わせて二人でにやりと笑う。ボクはプティスなのでそんなに表情変わらないから気分的にだけど。
若干ナビも嬉しそうにしてくれてる気がするのは、ボクの自意識過剰による錯覚じゃないと信じたい。
スケルトンを形成する術の核は頭蓋骨にある。弾き飛ばした程度で死にはしないけど、頭と体が離れればそれだけ動きが鈍くなる。
向かってくる骨から頭を飛ばして、鈍くなった体をバラバラにして、隙を見て頭蓋骨を砕く。もしくは酸で溶かしていく。この洞窟に落ちてから酸は大活躍だ。
核を破壊された個体は全身を灰のようにして消えていく。灰と共にきらきらした何かが浮かび上がり、頭蓋骨のあった場所に半透明の結晶が生まれる。【魂核結晶】だろう。
この戦いは、ようやくスケルトンが最後の1体となった時には1時間じゃ利かないほどの時間が経っていた。
最後に残ったのはやはりあの魔術士タイプのやつ。不用意に近づいてはこないが逃げる気もなさそうだ。
後ろから邪魔ばっかりしてきやがったので、これまでたまった鬱憤をこれでもかというくらい晴らしてやろう。
長いことあいつが魔法を使うところを見ていたからか、【適正進化】が【魔力感知】という便利な技能をプレゼントしてくれた。
もらってからはもはや視覚で捉えなくても避けれるようになった。もはやあの骨には結晶を美味しくいただく以外に利用価値はない。
いい加減人骨も見飽きたし、正直もう体力的に辛いので出来うる最速で片をつけてしまおう。
ボクが動き出すと同時に魔術士スケルトンが魔力を練る。今度は質より量って感じの魔法かな?
半分程度距離を縮めたところで予想通り、小さい火の玉がスケルトンの周りに発生し、一斉に襲い掛かってくる。
だけど無駄だ。この3日でかなり鍛えられた感知系技能の複合による軌道予測の精度はかなり信頼のおけるものだ。
そんな軌道予測にさらに魔術感知を追加したらどうなるか。お察しの通り、魔法の弾道予測すら可能になった。
速度を緩めることなく最小限の動き――もちろん毛が1ミリも焦げない程度の最小限だ――でスケルトンに接近する。
往生際の悪いことに杖にしていた骨を棍棒に見立てて振り下ろしてきた。だけど遅い!
軌道を読んで当たらない位置でジャンプする。上体を逸らして胸を回転の軸にしつつ脚に力を込める。その回転力と脚力を活かして奴の顎を蹴り上げる!
俗に言う【サマーソルトキック】というやつだ。ボクはウサギだから【うさまーソルトキック】と言ったほうが正しいだろうか?
思いっきり蹴り上げられた魔術士スケルトンの頭蓋骨は高い天井に突き刺さり砕け散った。これにて終幕だ。
宣言通り、あれから毛一本触れさせることは無かった。有言実行できたのは喜ばしいことだけど……ああ疲れた……もう心身共に死ぬほど疲れたよ。
しかし、この戦いは終わっていない。終わってやしないのだ。
だからボクは今すぐに倒れこみたい欲求を抑えつけて、戦いの終焉を迎えるため即座にそれを行動に移さなければならない。だから――
『本当にすいませんでしたー!!』
――ボクは軋む体に鞭を撃ち、ナビに対する全身全霊の土下座を敢行した。
主人公「ボク、2016年になった瞬間は異世界で土下座してた(地球に居なかった)んだぜ!」
ナビ「そんな下らないネタの為にわざわざ0時予約更新なんかしたのでございますか?」
※このやりとりはフィクションです。実在の人物の性格とは一切の関係はございません。
★こんな作品ですが2016年も本作の意味不明だったり不自然な点のご指摘・感想・適当に一言など、お気軽にお願いします★