【第六羽】
おかしいな。正月明けから3日に1回更新って話だったハズなのに、気がついたら年末から毎日更新しているぞ……?
いや、きっと最初から毎日更新する予定だったに違いない。ウン、タブンソウダッタハズ(虚ろな瞳で
出発してからさらに2時間くらい経過した。
うん、なんていうか……暇である。余は暇であるぞ。
それというのも、あれだけ襲ってきたコウモリが全然出てこないのだ。虫はいたんだけど別に襲ってこないどころか逃げるし。
暇とか言いつつ歩きながらナビから思念会話の強弱のつけ方を教わってたりはしてたんだけどね。
ナビに聞かれていることを想定していない思考まで読み取られてしまうのはお互いにとって良いことばかりじゃない。
彼女も[プライバシー]や[プライベート]の重要性はわかってくれた――まるでつい最近そんな経験をしたかのような理解の早さだった――ようだし。
それからナビ本人も――
『私だけマスターに聞かれないように思考できるのは不公平でございますから、一緒に練習しましょう』
――って言ってた。よく考えたらナビの心のつぶやきみたいなものは聞いた覚えがない。可愛いものに対する思考だけは駄々漏れなんだけどね。
まったく気にならないと言えば嘘になるけど、ナビならボクに必要なことはちゃんと教えてくれるから気にしないほうがいいだろう。
それに女の子のプライバシーを覗いちゃうと色々大変なことになる――主に大変なのはだいたい男性側――のが相場なのだから、問題が起こる前に解決できてよかったと思おう。
まぁ、そんな流れでボクもこうやってだらだら思考する時とナビに話しかける時の思考を使い分けられるようになったのだ!
『もうずっと魔物が出てこないけど、もしかして乱獲しすぎて全滅しちゃったのかな?』
『それもあるかもしれませんが、だんだん瘴気の発生源に近づいてきているからだと思われます。
魔物は瘴気に引き寄せられますが、強い魔物に近づきすぎると襲われることを知っていますから』
あるかもしれないんだ……全滅してたらごめんね。そっか、瘴気に向かって進んでるんだよな今。
この洞窟の瘴気の発生源ということはアレだ。中級以上の強さが予想される魔物に向かって進んでるってことだ。
うーん、ここに入った当初は「見つかったら死ぬ!?」とか思ってビビっていたんだけど、今は多少心の余裕を感じてる。
この余裕はやっぱりコウモリ乱獲パーティーで結晶を残さずいただいたからだよね。今やステータスだけなら中級に片足突っ込んでるもの。
狩りで使ったスキルも軒並みレベルアップしていってるし、暗闇で見えないことなんてペナルティにもならなくなった。
何よりもナビがサポートしてくれる安心感が一番大きいんだけどね!さらに言えば、脳裏に浮かび上がるナビの姿が非常に眼福――いや、脳福です。
つい2時間前に体を得たばかりだというのに、すでにボクの歩幅に合わせて視界に入る程度に一歩引いて歩くという細かい演出まで実践している。本当に器用な子だこと。
きっとナビが見える第三者がいれば立派な主従関係に……見えないだろうなー。どう善意的に捉えてもペットと飼い主の代わりに散歩するメイドさんが関の山である。ナビのペットならいいかもとか全然思ってはいない。……本当だよ?
『あ、マスター。前方に分かれ道でございますよ』
そんなナビの言葉にアホな思考を中断して前方に注意を向けてみると、たしかに二手に分かれているみたいだ。
『さて、どっちに進もうかな?』
『瘴気の主は左側の道の先にいるようです。あと空気の流れからおそらく出口もそちらの方向かと』
『ようするに右側の道は不明、左側の道はボス戦+出口ってところか。じゃあ迷うことはないね、早速―――
―――右側の道を進もうか』
『え、あれ?右側に進むのですか?洞窟から脱出するのではないのでしょうか?』
『うん、目的はそうなんだけどね?やっぱりマッピングが中途半端に終わるのって良くないじゃん?』
『いえ、じゃん?と申されましても……』
おお、ナビが「マスターが何を言っているのかわかりません」といった感じのちょっと困った顔をしている。珍しい。
『ああいや、ごめんね。なんというか……前世の性というか、マップがあると埋めたくなっちゃうんだよね』
元人間の下手の横好きゲーマーとしての性である。正直そんな性は丸めてゴミ箱にポイしていいと思う。いずれ善処しよう。
まぁ、完全にマップが埋めたいってだけのわがままじゃないしね。一応そっちもナビに伝えてみよう。
『この流れだとちょっとこじつけっぽいけど、瘴気の主とやらと戦闘になった時のためにもう少しステータスを上げておきたいとも思うんだ。
見つからないように逃げられるのが最高の結果だけど、最悪の場合を考えて相手に見つかってからでも逃げ切れるだけのマージンは欲しいからね。
今のところ相手が中位以上っていう情報だけで、中位の弱いほうだなんて保証はないわけだし』
『たしかに、その通りです。常に最悪を想定して行動するのはとても大事なことでございますね。
申し訳ありません、少々気が逸っていたようです。マスターは冷静でしっかりとした考えをお持ちでございますね』
うん、理解してもらえたようで何よりだ。少しはマスターとしてそれらしい行動も取れるようになってきたかな?
とか言って実はノリと勢いが動機の8割なので、あそこまで感心されるとちょっと気まずい。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
なんてやりとりがあってからもう30分くらいか。
……ってあれ?気のせいかってくらい本当にわずかだけど……明るい?
ここ8日ほど目なんて開けても閉じても変わらないくらい真っ暗だったのに、今はうっすらと水気で湿った洞窟の壁がちゃんと視覚を通して見えている。
『これはむしろ壁自体が光ってる……?なんだこれ?ヒカリゴケか何かかな?』
強い疑問が湧きあがり、ついナビに質問するような思考になってしまった。まだまだ思考切り替えの精進が足りてないね。
『これは……なるほど。マスター、この洞窟内が不自然に広い理由がわかりましたよ』
『ん?何かわかったのナビ?』
『はい。ほとんど侵食されておりますが、この壁面は洞窟タイプの魔窟でよく精製されるものです。人族からは【燐光壁】と呼称されております。
魔窟の壁自体が周囲の魔素をわずかに吸収しており、吸った魔力を用いて淡く発光します。外に持ち出した時点で変質してしまい発光しなくなります。
戦闘の余波程度では傷つかない頑丈な作りのはずですが、大分侵食されていますね。この侵食具合から見て……およそ1万年以上前に攻略され、その機能を失った魔窟の成れの果てなのでしょう』
『あーナビさん?つかぬ事を伺いますが、魔窟ってあの魔窟?魔神を復活させる力を蓄えるために魔人が作ったっていうあの魔窟?』
『はいその魔窟でございます。現在人族からは【ダンジョン】という総称で扱われております。
少々お待ちくださいね……はい、判明いたしました。ここはおよそ1万550年前に【勇者ソラス=ミグデオス】によって攻略された【魔王グラントミータ】の魔窟でございます』
はぁー……ここが1万年前の魔王のダンジョンねぇ。
魔王といっても当時、有望だった魔人に対して天神が神託で魔王と称して勇者を送りつけてただけで、本人が魔王を名乗ってたわけでもないらしいけど。
そんな魔王のダンジョンも、今やコウモリや虫だらけで無駄に広いだけの洞窟になっちゃったわけだ。
こういうのをまさに"兵どもが夢の跡"って言うんだろうね。元の形も洞窟だったらしいけど、当時はもっとダンジョンらしかったに違いない。
『経過した年数と洞窟の規模から逆算するとおそらく第1層の一部だと予想されます。進んでみますか?』
『そうだね。もうはるか昔の話だし何もないだろうけど、なんだかトレジャーハンティングみたいでちょっとわくわくしてきた』
なによりちゃんと目が見えるっていうのがいいね。見えるのが殺風景な洞窟っていうのはアレだけど。
というわけで探索を続行したわけなんだけど……
5分もしないうちに通路が狭くなって、さらに5分ほどで他の通路のない開けた空間にたどり着いてしまった。ボクのわくわくを返せ!
でもさっきの通路より侵食されていないようで明るくなったし、周りに魔物の気配もないから居心地はいいね。一休みするには絶好の空間かも。
そんなことを考えてたら、ふいにナビの口から聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。
『あの、マスター。あちらに【宝箱】が残っているのですが……』
『え?宝箱!?どこどこどこどこ?……んー?宝箱どころか人工物っぽいものすらどこにもないけど、もしかしてからかった?』
んもう、ナビちゃんのお茶目さん★って感じの視線を送ってみたらナビが両手をパタパタ振ってそれを否定した。可愛い。
『ち、違います違いますっ。便宜上【宝箱】と呼称されておりますが、基本的に【宝箱】は箱の形をしていないものなのです。
ほら、あちらの壁の一部がやや盛り上がっているのがわかりますか?あそこに何かしらの道具や装備が内包されているのでございます』
あっちの壁?……あー、たしかによく見ると気持ち膨らんでる気がしないでもないかな?なんであんなことになってるの?
『本来のちゃんと機能した魔窟ですと、魔窟の内部で死亡した者の亡骸――当然魔窟内の魔物も含みます――は一定の時間が経過すると壁や床に取り込まれエネルギーとして吸収されるのでございます。
しかし無機物……主に攻略者の装備などですね。それらはあえて取り込まずに、ああやって床や壁面に内包された状態で浮き上がるのです。
それだけではなく、魔窟の管理者によってはそれ以外にも何かしらの道具を【宝箱】に設置することもありますね』
『それは、もしかして攻略する人間をおびき寄せるためだったりするの?』
『はい、その通りでございます。攻略者が魔窟内に侵入した時点で攻略者から漏れ出るエネルギーを魔窟が吸収しますが、その亡骸を魂核結晶ごと取り込めばさらに大きなエネルギーを得られます。
しかし質だけを求めては侵入者がいなくなりエネルギー効率が悪くますので量も選択する必要があります。
そのため、攻略者だけでなく金欲に目が眩んだ者や親族の遺品を求める者などの魔窟の攻略そのものが目的でない者もおびき寄せるのです』
『元神人っていってもやっぱり人は人なんだね。ってことはやっぱり冒険者ギルドみたいなものもあったりするのかな?』
『ボウケンシャギルド……冒険者ギルドですか。そういったものは存在しませんね』
『え?ないの?冒険者登録したり、依頼を受けてお金とランクを上げたり、魔物の素材を換金したりだよ?
魔窟は世界中にあるって言ってたし、そういう組織を運営したほうがしっかり攻略できたりすると思うんだけどなー』
『なるほど、冒険者……こちらで言う【攻略者】に類する名称でございますね。冒険者ギルドとはその冒険者との相互扶助を目的とした組織形態なのですね。
魔物の脅威に対する手段としてとても理に適った組織でございます。こちらの世界で近いものですと、人族の国の各地にある【討伐軍】やラキア教の【滅魔院】にあたるでしょうか』
国の討伐軍と教会の滅魔院ね。前者はそのまんまだとして、後者は前世でいうエクソシストみたいな集団だろうか?ラキア教って響きからして宗教系だよね?
『討伐軍は戦闘能力を重視した選抜試験を潜り抜けた実力者――とはいえ昔の神人に比べると遥かに劣っているのですが――のみが入団することが許されている組織でございます。
主に魔窟の発見と調査、後に大規模な作戦を行いて魔窟の攻略を目指す集団ですね。騎士団と言い換えても差し支えはないかと」
ああ、騎士団って言われるとしっくり来るね。国の為、引いては国民の平穏の為に魔族と戦おうって組織なんだ。プライド高いんだろうな。
人型になれたとしても近づかないようにしようっと。
『滅魔院は討伐軍とは違い入院に試験はありませんので、天神の神託を尊び、魔族の根絶を望む者達が多く集まります。【勇者】もどちらかといえばこちらに属します。
入院して相応の研鑽を積み、功績を重ねれば太陽の女神イッシュ=ラキア――太陽に封印された天神のことですね――から死後、神界に招かれるといった教義が存在します』
こっちは打って変わって胡散臭いなぁ……。本人は神界どころか偽太陽の中から出ることもままならないクセに……
って魔窟を潰したら復活しやすくなるから全くの嘘でもないのか。でもやり口が詐欺師のそれである。神様のクセに……
『しかし、恐らく天神の望むように魔窟を全て攻略したとしても彼等が神界に招かれることはないでしょう。
元は魔人に手を加えた即席の神人。しかも現在はその能力も著しく劣化してしまっておりますので』
うわぁ、救いがない……散々こき使われた挙句に見向きもされないとか。微妙に前世の黒魔術結社でのトラウマが蘇ってくるわ……
こっちも人型になれたとしても近づかないようにしようっと。ちょっかい出されたら衝動的に潰しちゃいそうだし。
『残りは先ほども出てきた金欲に目が眩んだ者をはじめとした無所属のフリーランスの者達でございますね。大規模な作戦――主に戦争などですね――では傭兵としても活動しています』
そのフリーランスの人材をまとめる組織形態が無いのか。ファンタジーな物語ならほぼ確実に世界規模の冒険者ギルドが設立されてるだろうに。
冒険者をまとめられる人がいないのか、そもそも討伐軍に入れない実力の低い自殺志願者達と蔑んで、まとめる価値を見出していないのかは不明だ。
まぁ、天神側としては無駄に魔窟にエネルギーを与えるようなマネはしたくないだろうし、裏で何かしらの根回しがあるのかもしれない。
『気を取り直して今は目の前の宝物だ。どうやって取り出すのかな?それに一体何が入ってるのかなーっと』
『あ、マスター。待ってくだ―――』
ヴォンッ――ヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォンッ
……はい?
足元から変な音がしたと思った時にはすでに周囲を取り囲まれていた。謎の骸骨モンスター軍団に。
これがかの有名な「モンスターハウスだ!」ってやつか……とか悠長に呆けてる場合じゃねぇええ!?
初めての冒険者らしい行動と宝箱という存在に浮かれていたのかもしれない。
すでに行動に移していたボクはナビの制止も空しく最低な結果を引き出してしまった。
何故こんな簡単なことに気づかなかったのだろう?不自然なくらい魔物の気配がないってことと、【宝箱】の中身が残ってるっていうのは、つまりそういうことに決まってるじゃないか!!
主人公の脳内にプライベートという概念が生まれました。
1万年前の勇者と魔王の所縁の地だったようです。ちなみに――
勇者ソラス=ミグデオス → デミグラスソース
魔王グラントミータ → ミートグラタン
――割と適当な名前の適当なアナグラムでそれっぽい名前になるものですね(笑)
もうこの二名が話題に出てくる予定はありません。主人公より先に名前が出てきたのに……
異世界あるあるの筆頭【冒険者ギルド】が異世界に存在しなかったら?を取り入れてみましたが、深夜のテンションで作ったので恐らく設定が穴だらけです。
ダンジョンの【宝箱】も普通に箱で出さないので、きっと作者はひねくれ者なのでしょう。