【第二十八羽】
予定外――でも予想通り――の乱入騒ぎがあってから10分後。
そこには、自分の弟と族長にダブルで正座+お説教をされるフィリトゥリさんの姿があった。
ボクはそんな光景を遠巻きに眺めながら、この世界にも反省=正座って概念があるんだなーなどとぼんやり考えてた。
『正直、全然気にしてないんだけどなー』
『ふふっ、マティアス様はじゃれあうくらいのコミュニケーションが多いですものね』
弟妹をはじめとしたプティス達、それにシュノワだって体当たり系コミュニケーションがメインだもんね。
今までは20匹ちょっとだったけど、100匹に増え、今後もさらに増えていくと考えるとちょっと怖い。
将来の不安はさておき、個人的にはフィリトゥリさんほどとは言わないけど、もっとフランクに接してくれたほうが助かるのは確かだ。
そもそもエフェルト族に対して自分が神獣様だなんて誤解も解いてないボクにも責任はある。
……誤解を解くタイミングを完全に逸してて、もうどうにでもなーれーだなんて思ってないヨー。
「うぅ、ごめんなさぁい……」
《ボクは気にしてないよ。でももう少し落ち着きも持ったほうがいいかもね》
「んっ、はぁい……」
ボクの返答に頭を下げてしょんぼり……というより何かに耐えるような感じに反応するフィリトゥリさん。
よく見ると、正座中の足をもぞもぞと動かそうとしている。ああ、痺れてきたのか。
正座は両足の親指を合わせるようにして、その上にお尻を乗せる感じで座ると痺れにくい。
だけど、すでに痺れちゃってるならこのアドバイスは手遅れだよね……頑張って耐えてね、ファイトッ!
「お待たせしてしまい、申し訳ありません。それでは続きを……」
そういって族長が座りなおし、その隣にデルさんも控える。なんだかんだで彼も話が気になっていたようだ。
「あ、あの……私も一緒に聞いていい……です、か?」
「かまわんが、しばらく姿勢はそのままじゃぞ?」
「うぐっ、はいぃ……」
これはフィリトゥリさんのためにも早めに進行したほうがよさそうだ。
「それで、マティアス様の領地に植えるラシュディアの苗とその運搬手段でしたかな」
《はい、帰りに別の植物の採集も考えてるので余裕を持って運べる手段があればいいんですけど》
流石にそこまで都合よく解決するとは思っていないけど、希望を出しておくのは悪いことじゃない。
順当に考えれば首に風呂敷包みでも巻いてもらうとかかな。二足歩行とか出来るようになればなー【適応進化】さんが何とかしてくれたりして。
『……二足歩行で思い出したけど、ボクってまだ人化できないのかな?』
『マティアス様ならできても不思議ではありませんが……現在、動物から人化する年数は最短5年ほどでございます』
『あと4年と10ヶ月かー、先は長いね』
『いえ、マティアス様なら間違いなく過去最短で人化されますよ』
『だといいけど』
ただでさえこの世界の1年は地球換算で600日以上だから、実質ボクの感覚で9年前後くらいの歳月が必要ってことだ。
……あれ?プティスの寿命って何年だっけ?たしかウサギは8~12年くらいだったかな?
『ちなみにプティスが人化した例ってある?』
『その……残念ながら』
『だよねー』
『だ、大丈夫ですっ、私とマティアス様なら神様にだってなれます!』
神か……スライムになれてプティスになれない道理はないと思いたい。
別に神になりたいわけじゃないけど、もしナティの実体化に必要なら目指すのも吝かじゃない。
と、ナティと雑談してたらゼトラスさんからひとつ案が出た。
「でしたら、我等の中から運搬役を出しましょう」
《ああ、でもここからうちまでは結構遠いですよ?》
「心配ありません。先の蛮族軍の襲撃以降、森は至って静かなものですからな」
たしかに結構大量に倒したから、しばらくこの辺に蛮族が現れることはあんまりないかも。
聞くに、警戒態勢を緩めればその分、見張りや見回りの人員を農業などに回せるのだとか。
その中から数人引き抜いても人手は十分足りているらしい。
「運搬役には農作に適した者を選ぶのが……」
「でしたら、ピートラートやテュコスリュコスなどが……」
「ふむ、だとすれば農具も一式……」
「そうですね。それらを運ぶポーターも……」
あれ?なんかうちでそのまま農業手伝ってくれる流れになってない?
気づいてボクが声――文字だけど――をあげようとしたその時――
「あのっ、わ、私が着いていっ……!?くぁうぅ~……」
「姉さん!?」
フィリトゥリさんがそんな声と奇声をあげたあと、その場にベシャリと倒れこんだ。
どうやら腰を浮かした途端、足の痺れが一気に侵攻してきたらしい。うん、あるある。
「……おほん。フィリトゥリよ。お主がマティアス様の運搬役をすると言うのか?」
「は、はいぃ……」
「ちゃんとこちらの目を見なさい」
ゼトラスさんにそう言われ、フィリトゥリさんはジッとその目を見つめた。体は床とお友達のままだったけど。
見詰め合うナイスミドルと美少女。普通なら絵になるシーンなのに美少女が情けない感じで床に突っ伏して足をぷるぷるさせてるのでサマにならない。
そんな時間がしばらく続き、ふとゼトラスさんが目を閉じ軽く息を吐く。
「……ふむ、意志は強いようじゃの」
「行っても、いいんですか?」
「それを問う相手はワシではないじゃろう?」
ゼトラスさんにそう促されたフィリトゥリさんは、ボクに顔を向けて――やっぱり床と友達になったままだった――改まって問いかけてきた。
「マティくん。私じゃ、その……ダメかなぁ?」
その問いはちょっと自信なさげで、その表情は不安を隠しきれていないちょっと無理した笑顔だった。
でもその瞳には確かな輝きがあって、確かにゼトラスさんが言うように強い意志みたいなものを感じ取れた。
んん……まぁ、いいか。絶対断らなきゃいけない理由なんてないし、人手があると助かるのも確かだし。
《わかった。よろしくね、フィリトゥリさん》
「あ――あ、ありがっ……っとっうぁぅぅ……」
フィリトゥリさんは喜びのあまり飛び上がろうとして失敗していた。まだ痺れていたみたいだ。
足を押さえて涙目になりながらも、その表情は嬉しそうだった。
「デルートラートよ」
「はい」
「お前も行くか?」
「……よろしいのですか?」
ふむ、デルさんも来るつもりみたいだ。なんだかんだ言いつつ二人は家族だもんね。
当然のことだけど、本人が望んでいない限りはボクの中に家族を引き離すという選択肢はない。
《デルさんもよろしくね》
「聞いていましたか……若輩の身ですが、よろしくお願いします」
そういってこちらにエフェルト族の礼の姿勢を取るデルさんの姿はとてもサマになっていた。
銀鎧とか剣を装備してたら聖騎士とか勇者って言われても信じられるくらい。
「では早速準備をはじめましょう。フィリトゥリ、デルートラート。マティアス様を畑に案内して差し上げなさい」
「はいっ」
「あ、ご、ごめんね。ちょっと待って……まだ足が……」
「フィリ姉……」
えっと、フィリトゥリさんは正座に弱いと……メモメモ。
フィリトゥリ と デルートラート が なかまに なった !
本当はもうちょっとあとで合流する予定でしたが、書いてみたら特に断る理由も思いつかなかったので……w
ちょっと文章が雑なので後日追記したりするかもしれません。しないかもしれません(笑)




