【第一羽】
プロローグしかない状態で500PV+初感想までいただいてしまいました。ありがとうございます!
予定外の執筆時間が得られましたのでなけなしのストックを消化させていただきます。
……
『さて、世界最大級の幸運に選ばれたお方は~?……なんと、プティスでございます!
しかもまだ生まれたばかりの仔プティスではありませんか。とってもキュートで素晴らしいです!!』
…………
『見たところローシス・プティスのようですね。ご安心ください!私の手にかかればたとえスライムだろうが神様にだってしてみせます!』
………………
『……あ、あら?思考での意思疎通も理解できているはずなのですが、マスターからの反応がありません。あの、マスター聞こえておりますか?』
………ハッ!?
ボクとしたことがまったく不甲斐ない。まさかの展開についフリーズしてしまいましたよ。
1ヶ月ぶりの人(?)の声、しかも「まるで鈴の音のような」というありきたりな形容詞では足りないくらい愛らしい女の子の声。
いやいや、そこらの声優ではお目に……いや、お耳にかかれないとんでもない美声の持ち主だ。謎の幸福感で脳が蕩けてしまいそうになる。
『あ、ちゃんと聞こえていたようで何よりでございます。
セイユー。でございますか? ――ふむふむ、なるほど声優。はて、なぜ生後30日ほどの仔プティスから私も知らないような知識が……?
こほんっ、その、お褒めに与り誠に恐縮でございます!』
いえいえどういたしまして。なかなか礼儀正しい反応ありがとうね。
ところでマスターって誰のこと?いや流れ的には何となく察してるんだけどさ。
って、今までの流れの中でボク一度も声に出してないよね?
というか声を出そうにも「きゅゆー」としか鳴けなかったはず。1ヶ月頑張って試したけど無理だったし。
「きゅゆー」
うん、やっぱり喋れるようになったわけじゃないっぽい。
『ふわぁ、ま、マスターの鳴き声が可愛すぎますっ』
なんか凄い喜ばれた。女の子(多分)から黄色い声を向けられたのなんて生まれて初めての経験だよ。生後1ヶ月なんだけどさ。前世?も含めてってことで。
なんだかこの声、直接頭の中に響いてくる不思議な感じ?ファ○チキください?
『……はっ!?あの、あなた様が先ほど食べたものは【神識の実】と申しまして……私は、実に宿る説明役みたいなものでございます。
そして実を食べたあなた様は私のマスターということなります。実際に声に出さずとも思考でのやりとりが可能となっております。
その、ふぁみ○きという食べ物?は現状では入手不可能なもようです。お力になれず申し訳ございません』
説明役ね。姿は見えないけど声色は超がつくほど好みだし、何よりウサギの身で半ば諦めていた会話ができるというのが素晴らしい。
それはそうと、さっきのプティスっていうのはなんだろう?ボクのことを指して言ってたみたいだけど。あとローシスがなんちゃらとか。
『はい。プティスというのはマスターの種族名称でございます。マスターはウサギという種族名を意識なさっているようでございますね。はて、プティスにそのような俗称はないはずですが……』
うんまぁ、ウサギって日本での名称だから外国じゃまず聞かないだろうね。
『次に、ローシスというのは今マスターがいる大陸の名称でございます。ローシス大陸のプティス種なのでマスターの種族はローシス・プティスが正式名称なのでございます』
なるほどなー。ローシス大陸とかプティス種とか聞いたことも無い場所や名称だけど、現地語ってことなのかね?ともかくひとつ賢くなったよ。
声は可愛いし。丁寧だし。可愛い声だし。ラヴリーボイスだし。ボクにはもったいないくらいの相棒ができたようだ。まさに渡りに船。地獄に仏ってやつだね。
『そ、そんな私ごときに何度も可愛いだなんて……照れてしまいます、マスター』
何この子、声も可愛いのに性格も可愛いとか反則ですよ。照れた声色ヤバイです。
うーん、ボクは別に声フェチってわけじゃなかったはずなんだけどな。声優や俳優の名前なんて有名どころですらまったく覚えてないし。
さておき、さっそく質問……と言いたいところだけど、なにはともあれ自己紹介は大事だよね。
ボクは生まれて30日くらいのウサ……プティスだっけ?まぁ、それらしい。名前は思い出せないから、無いってことで。
『私のようなモノにご丁寧にありがとうございます。恥ずかしながら少々舞い上がっておりまして、名乗りもせずに失礼いたしました。
とはいえ私は【神識の実】から派生した擬似的な人格のようなものでございます。つまり生後2分43秒という状態でございまして、私自身に名前は存在しないのです』
なるほど、生まれて初めて喋った言葉が「ぱんぱかぱーん!」だったのか。それは恐れ入った。将来が楽しみな子じゃ。
最初のハイテンションは生まれた喜びとかも幾分混じっていたのかもしれない。今は最初よりは落ち着いた喋り方になってるもんね。
それはそれとして、名前がないと不便だよね。「おい」とか「お前」って呼ぶのは遠慮したい。
『私はそのような扱いでも一向に構いませんが。
そうですね、――ふむふむ、"マスターの知識"では私のような役割を「なびげーたー」とおっしゃるのですね。
それでは、私のことは仮にナビとでもお呼びください。もしくはマスターに名づけていただけるならば、そちらを名乗らせていただきます』
ナビか、割と直線的で分かりやすいネーミングセンスだね。
んー名づけねー……今は特に思いつかないし、ちゃんと考えないと失礼だよね。とりあえず今はナビで呼ばせてもらうことにしよう。
というわけで、よろしくね、ナビ。
『はい。こちらこそよろしくお願いいたしします、マスター♪』
ところでさっきから何か頭の中を覗き込まれてるようなこそばゆい感覚がするんだけど。
ナビは"マスターの知識~"とか言っちゃってるし……つまりそういうこと?
『はい、マスターの扱う言語には【神識の実】にさえ存在しないものが含まれておりましたので、マスターの中にある知識の一部を閲覧させていただいております。
基本的には知識に関するものだけですので、マスターが見られたくないと思う深層の意識や、マスターの記憶などを閲覧することはできません。
本来、私が認知していない知識などありえないと思っておりましたので、永久に使うことの無いお遊び的な能力だったはずなのですが……こほん。
どうやら自惚れが過ぎたようでございます。図らずも事後報告になってしまい、申し訳ございませんでした』
ああいや、別にいいよ。ボクそんなに記憶力に自信がないから、お粗末な知識ばっかりかもしれないけど、好きに覗いて使ってくれていいから。
でも声優とかファミ○キとか結構メジャーどころだったと思うんだけどな……さすがに海外にはあまり浸透してないってことか。
っと、そろそろ質問に移らせてもらおうか。とりあえずボクが食べた【神識の実】っていうのは実際どういうものなの?
『【神識の実】は世界が誕生してから今までの知識や歴史を溜め込んだ果実のことでございます。
数千万年に1度、世界のどこか、何かの植物にランダムで実る果実であり、その姿形すら定まっておりません。
比較的知的生命体の少ない地域に実る傾向があったりなかったりし、実際に実を発見して口にしたマスターはマスターだけなのでございます』
数千万年にたった1つだけ実る叡智の果実……そんな幻レベルで恐れ多いものを偶然落ちた先で食べちゃったのか……
世界の知識の結晶ってことは、ボクの中には世界中のありとあらゆる時代の知識が詰まってるってことか?
……んー?なんか、その割には特に変わったところがないような?
『それはですね、マスターの容量があまりにも小さかったために、言語以外の知識を一時的にこちらで受け持つように調整させていただいたからでございます』
容量が小さいって……つまりボクってば、すごいバカってことか?いや知ってたけど……改めて言われるとちょっとショックだな。
たしかに学生時代の成績は平均点もいいとこだったし、そもそも大学行ってないし。社会に挫けたエターナル・アルバイターだし。
『そ、それは違います。マスターは断じて馬鹿ではございません!むしろ逆です。マスターにはすでに、プティスという種の根底を覆すほどの知識が詰まっております。
正直に申し上げますと、何故プティスの中に私も知らない知識が渦巻いているのか、不思議で仕方がありません。不思議……新鮮な感覚でございます』
あー、そりゃそうか。ウサギの状態で人間の意志を宿しているって時点で異常だもんな。
でも人間としての知識だってそんな凄いこと覚えてるわけじゃないはずなんだけど。
世界中の知識があるならむしろちっぽけすぎるくらいだと思うけどなぁ。
『マスター、申し訳ありませんがマスターの魂を直接閲覧させていただいてもよろしいでしょうか?』
え?なに?魂?そういうのわかるものなの?
別にいいけど、魂って本当にあるんだねぇ。いや、あるから転生したり前世のボクの意識が残ってたりするのか。ウサ……プティスだけど。
『はい、私はすでにマスターの一部であり、ある意味魂に近い存在でございますので知覚することが可能なのです。
では――ふむ、ふむふむ。なるほど確認いたしました。
マスターの魂はプティス本来のものではなく元は人型の生命体。しかもこれは……なるほど"別の世界の人種"だったのでございますね。それならば未知の知識にも納得です。
しかし、それにしては魂の波長が――』
え、なに、ごめん、ちょっと待って。今すごい聞き捨てならない発言が聞こえちゃったよ?
なに?"別の世界の人種"?ここ異世界なの?異世界転生なの?ウサギ転生しちゃったなの?
『マスターが軽い錯乱状態に。はわ、もこもこがわたわたしてて可愛い……じゃなくて。えっと、ここをこうして……えいっ』
――ハッ!?あれ?なんか落ち着いた。よくわからないけどありがとう?
『いえいえ、マスターのフォローが私の役割でございますので♪
ところでマスター。生まれ変わる前に一体どんな亡くなり方をなさったのですか?
マスターの魂がぐしゃぐしゃのバラバラの粉々にしたものを無理やりかき集めて捏ねくりあわせて固めたような、非常に歪な状態になっているのですが』
え?なにそれこわい。何で生きてるのそれ?
どんな死に方を、ねぇ……それがさっぱり思い出せないんだよね。
あー……うっすら思い出せるのはなんかパスポートとか作って旅支度してたってことかな?それから先がプツッと切れた感じに思い出せなくなってるから、多分その旅行先で何かあったのかも。
『なるほど、魂が歪んだ際に付随していた記憶情報が一部欠落してしまったのでしょう。
そもそも歪な魂に知識と記憶などの情報を寄せ集めた状態だからこそ、人格や知識を保ったまま転生できたものと推察します』
不幸中の幸いって言っていいか微妙だなぁ、ウサギだし。いやプティスだし。
別にウサギが嫌ってわけじゃない。むしろ人間だった頃より精神的に楽だし、弟妹も可愛くて好きだもの。
でも人間の娯楽も知っちゃってるからねぇ。知ってるけど手に入れられないっていうのは大なり小なり辛いよね。ああ、あの漫画のクライマックスとかすごい気になってきた。
『マスターの場合ですと、歪んだ魂がたまたまプティスの器にぴったりはまってしまったのかもしれませんね。
本来、人間の魂が人の形から外れたものに転生するのは相当レアなケースでございますから。
さらに生前の知識や記憶を残したままともなれば、マスターはオンリーワンの存在かもしれません』
レアケースでウサギに生まれ変わったオンリーワンで、数千万年に1個しか存在しない実を見つけて食べてナビに出会うとか……どんな確率なんだか。
人間よりウサギが良いかと言われると……やっぱり微妙。今は草ばっかりでも問題ないけど飽きるだろうし、自分のフンとか食べたくないし。
※ウサギは自分で出した"盲腸フン"というフンを食べて不足した栄養素を補完したりします。よい子はマネしないでくださいね。
『マスターが願うのでしたら人型になることも可能でございますよ?』
え?ウソ?またまたー、ナビさん冗談ばっかり。
『たしかに現状のままでは一生かかっても不可能でございます。ですがマスターの魂を強化していけば不可能なことではなくなるのでございます』
なんか凄いこと言い出したよこの子。魂の強化?それって何すればいいの?
滝に打たれたり?精進料理を食べたり?お経を唱えたり?……出家?
『そのような方法でもほんのわずかに可能性がないでもないと思われますが、それでは人化するよりマスターの寿命が尽きるのが先でしょう』
いや、まず水圧に負けて圧死するのが先だと思う。
『説明をするのが私の役目なのですが、今のマスターにはただ説明するより実際に体験してもらったほうが確実に理解していただけると思います』
そうだね、ボクはバカだから仕方ないネー。おバカなボクにもわかるように実践形式やっていただけるとうれしいネー。
『はわっ、拗ねたマスターが可愛……じゃなくて、今のマスターに魂の構成についての情報を移してしまいますと、情報量が膨大すぎて最悪頭が吹き飛んでしまいますので』
エ?ナニソレコワイ。
頭が吹き飛ぶのは流石に嫌だなぁ。じゃあ実践でお願いします!
『かしこまりました。ですがその前に、マスターの現段階での能力を視覚化させていただきます。そのほうが後の説明もしやすいので』
能力の視覚化?自分で自分の能力が見れるってことかな?
なんだかそういうのってゲームのステータスみたいだな。お兄さんちょっとワクワクしてきちゃいましたよ?
『げーむ、すてーたす――ふむ、なるほど。マスターの前世は恐ろしく高度な文明が発達しているのでございます。
この【ステータス画面】という概念は一目で能力がわかる形式で素晴らしいですね。ではそちらを参考にして――こんな感じでどうでしょう?』
そんな言葉のあと、脳裏に文字や数字が浮かんできた。
文字や記号が視界に映りこんでいるわけでもないのに、その文字や数字がはっきりと感じ取れる。なんだか不思議な感覚だ。
【基本情報】
名前:なし 年齢:0歳(生後35日)
種族:プティス(ローシス・プティス種) 性別:オス
【基本能力値】
筋力: 17
耐久: 13
魔導: 0
精神: 27
器用: 24
敏捷: 530
感覚: 132
幸運:531024
【特殊技能】
もふもふ:Lv10
かじる:Lv1
【特殊能力】
美味しそう:Lv20
草食:Lv2
健脚:Lv1
夜目:Lv1
強聴覚:Lv1
気配察知:Lv1
魂核吸収:Lv1(New)
神の英知:Lv‐Ex(New)
適応進化:Lv‐Ex(New)
うわぁ、幸運高いわぁ……筋力とか耐久が2桁、自慢の敏捷ですら3桁なのに、私の幸運力は――53万です。とか言えちゃうんだけど。
その割にはナビが引くような死に方(覚えてない)したり、ウサギになったり、記憶喪失だったり、狼に追いかけられて崖から落ちたりしてるんだけど。
転生したり、狼の攻撃を全部避けたり、落ちた先に【神識の実】があったり、と不幸に見えて結果的に運が良いっていうことかな?
『ちなみに最下級の魔物の基本能力値は低いものだと100前後、高いものだと500以上でございます。
ついでに通常の成体プティスの基本能力値は大体30前後、敏捷に限り400前後です。運は個体差が激しいので割愛いたします』
こんな感じでナビから能力値についてレクチャーしてもらうこと数十分。とりあえず自分なりに能力の効果をまとめてみることにした。
【筋力】
そのままの筋力を表す能力値。腕や脚、肉体の筋肉の総合値。
高いほど重いものを持ったり振り回したりできるらしい。
【耐久力】
肉体の強度や強靭さを表す能力値。鱗や体毛などの補正もここに含まれる。
高いほどダメージを軽減したり苦痛に耐えたりするらしい。
【魔導力】
魔力を練ったり操ったりする力の総合値。高いほど高威力かつ効率的になるらしい。
熟練すれば自分の魔法を強くするだけでなく、相手の魔法を弱くしたりということもできるとか。
【精神力】
ある意味、魂に一番近い能力値なんだとか。
高いほど一時的に能力を補正したり苦痛や状態異常に耐えたりできるらしい。ようするに根性的なアレか?
【器用度】
そのまま器用さを表す能力値。手先・足先など、体の動きや柔軟性などの総合値。
高いほど思い通りに動けるらしい。急所狙ったり?
【敏捷度】
体の俊敏さ、足の速さ等を表す能力値。回避したり攻撃する速さなどの総合値。
高いほど機敏に動けるらしい。現状ボクの生命線。
【感覚】
視覚や聴覚などの精度を表す能力値。五感だけではなく第六感みたいなのも含まれるとか。
高いほど敏感になるらしい。えっちな意味ではない、はず。
【幸運】
幸運は少し変わり種。どちらかというと過去の行動による幸運・不運を数値化したものなんだとか。
運の良し悪しを保証するものじゃないけど、数値が高い人はそれだけ幸運に恵まれてきたという指標にはなるんだとか。
とまぁ、こんな感じだ。大体全部のステータスが上げれば上げるほど良い感じってことだね。
ちなみにゲームではおなじみの【HP】とか【MP】みたいなのが無いのは混乱するだけだからだ。
具体的に言うと【HP】は、相手の攻撃の種類と攻撃を受ける箇所次第では耐えれたり即死したりするので数値化すると油断して死ぬ可能性が高くなるとのこと。
次に【MP】は、魔法に用いられる力の源を魔素というのだが、体内で魔素を練り上げたり(前世的にはオド)や体外から魔素を取り込んだり(前世的にはマナ)でめまぐるしく数値が変動するので表示する意味があまりないとのこと。
『マスターの異常な幸運値に関してですが、恐らく全体のうち53万は【神識の実】を飲み込んだことが原因でしょう』
さすが数千万年に1度の幸運。我が幸運力の99%を占めるとは……というか食べる前から1000はあったのね。
確かに狼の件はひとつでも間違いがあったら死んでただろうことは想像に難くない。生きてるって素晴らしい!
まぁそこはいいよ。そんなことより気になるというか……思いっきりツッコミたい能力がある。
なんだよ【美味しそう】って!?それ能力なのかよ!!?しかもレベル20もあるし!?!?
『はい、そちらの能力は肉食の生物や魔物にとって(食料として)魅力的であるということを示す能力でございます。
基本的に食材に適した生物が大体持っている能力ですが、マスターは特にレベルが高いようですね!
ちなみに通常のプティスの平均値はLv4前後なのでございますよ?』
通常の5倍かよ!うれしくないよソレ!ソレ全然うれしくないよ!?なんでそんなうれしそうに言ってくるかな!?
思えば狼達がわざわざ食事を中断してまで目の色変えて追っかけてきたのはコレの所為か。逃げる際に挑発とかする必要なかったっていうか、ボクそのものが挑発の塊かよ。
はぁ、プティスって食材に分類されてたのか……いやまぁ、昔食べさせてもらって美味しかったけどさ。ウサギ鍋。
だんだん共食いしてしまったかのような悲しい気分になってくるからもうこの話題は変えるとしよう。
しかし、世界の知識を身につけたはずなのに魔導力が0って悲しいわ。というか魔法みたいなものがあるのかこの世界。
『はい、存在しますよ。マスターの場合、前世は魔法が無い世界だったことと、プティス種自体ほとんど魔法が使える種ではないので魔力を操るという機会がなかったからでしょう』
さいですか。あるなら使ってみたかったなぁ、魔法。
『魔法も強化次第で使えるようになりますよ?』
なんとっ、それはやる気が出てくるってもんだ。ファンタジー系が好きな男子に魔法が嫌いなやつはいない……多分。
それじゃあ早速、魂の強化とやらの実践をお願いします!
『はい、それではあちらをご覧ください』
はいはいご覧になりますよー。……ってあれは、串刺しの死にかけ狼さんじゃないですか。
いや、もうピクリとも動いていない。ナビとのやりとりの間にお亡くなりになられたようだ。南無南無。
『あちらはフィールド・ウォルフという最下級の魔物の一種になります』
え、魔物だったのアレ?その前に最下級相手でも即死級なくらいボクは弱いのね。まぁ、ウサギとオオカミじゃそりゃそうだよね。
『一応フィールド・ウォルフは最下級の中では上位に分類されていて頭も良いほうなので、本来なら生まれて間もない仔プティスが逃げ切れるような相手ではないのですが……
それはともかく、この世界の生物は一部の例外を除いて絶命した際に体内で【魂核結晶】という結晶体が精製されます。
この【魂核結晶】というものはその生物の魂に近い性質を持っておりまして、結晶の力を取り込むことで取り込んだ生物の能力を一部吸収することができるのです。
通常は吸収できる割合が著しく低かったり、吸収した能力を体に馴染ませるのに長い年月が掛かったりするものなのですが……なんと!実から得られた特殊能力【魂核吸収】によって多く素早く能力を上昇させるだけでなく、一部の特殊技能・能力を取得することまで出来てしまうのでございます!』
おお、なんて都合の良い能力。ブラボー神識の実!本当にびっくりするくらい至れり尽くせりだ。
つまりあれか、魔物を倒して【魂核結晶】を獲得していけばガンガン能力値や技能が増えていくっていう寸法か。
なんだか本当にゲームみたいな世界だな~って思えるのは、ナビが前世のゲームを参考にしてステータスを表示してるからか。
じゃあ早速あいつの結晶…を……
え?あの死にたて狼から結晶を取るんだよな?
『はい、【魂核結晶】は基本的にその生物の心臓や構成核付近に精製されます。
なのでフィールド・ウォルフのお腹を食い破って心臓付近から魂核結晶をもぎ取って体内に取り込んでください』
う、うわぁい……容赦なくグロ展開待ったなしのご指示。ナビさん可愛い声してマジパネェっす。
生後1ヶ月の仔ウサギが生肉漁るとかってどうなのよ。絵的な意味で。もし目の当たりにしたらかなりホラーな光景だと思う。
まぁ、とはいえ中身は元人間ですし?前世ではどちらかといえば野菜より肉のほうが好きでしたし?肉を食むのはいいんだけど、その、生の狼肉(原型)って……ねぇ?
ちなみに本来ウサギは肉とか食べてもちゃんと消化・吸収できないから冗談でも絶対ウサギに与えちゃダメだぞ★
『マスターは【神識の実】を食したことで【適応進化】の能力も付与されましたからその点に関しては問題ありません。さぁっ、ひと思いにがぶっと!』
くっそう、謎の便利能力め。
やるしか……ないのか……。せめて何か捌くものとかないかね?刃物とか。
人間的にもウサギ的にも瀕死の狼のハラワタ食い破ってもぐもぐするとか勘弁してほしいところなんだけど……
『刃物で捌こうにもマスターはプティスでございますし、現状で使えそうなものはマスターの前歯くらいでございますから』
ああ、うん、ですよね。くぅっ早く人型になりた~い!ええいままよ。総員突撃ぃ~!!
※ただいまお見せできない光景が繰り広げられております。しばらくおまちください。
ナビは可愛いものがお好きなもよう。
初期説明はどうしても長くなりがちです。
申し訳ありませんが、次話も説明中心で長くなる予定です。
筆がノれば年末にもう1話更新できる……かもしれません。あまり期待せずにお待ちください。
★本作の意味不明だったり不自然な点のご指摘・感想・適当に一言など、お気軽にお願いします★